58 / 404
香港麻雀
殴り合いと一文無し・前
しおりを挟む
香港麻雀 1
【宵城】最上階、朱塗りの柵の中、ジャラジャラと牌をいじる音。
「それポン」
「は?東てめぇ鳴き過ぎなんだよ」
「えー?いいじゃない」
「良ぉないわ、俺また順番飛んだやん」
麻雀だ。
猫の部屋に集まった時、たまにこうして麻雀をする。もちろん賭け麻雀。
ちなみに普段する賭け事は【東風】ではもっぱら大小、カジノに遊びに行く時はバカラがお決まりのパターン。
「ロン、対対和」
上の捨て牌を指しながら、東がパタタッと自分の牌を倒す。
「なんで俺から直撃やねん!!」
「樹から取るのやだもん」
「理由訊いてんとちゃうわ!!」
上が半泣きで点棒を払う。猫は、楽しげに笑う東の手元を見た。
上が弱いのはいつものことだが…今日は東が随分と強い。これは実力とか運の問題じゃねーなと猫は思う。
東、絶対に‘積んで’る。上突っついて遊んでんな。
ようはイカサマをしているということ。
始まる前、手札を揃える時点で有利な牌を自分の山に集めている。
身内の博打でイカサマはすんなって言ってんのに…懲りねぇなと猫は舌打ちをする。
上が仕事で普段より儲けたのを聞きつけたのだろう、ちょっとハネてやろうというのが目に見える。
「おい東、ちゃんとやれよちゃんと」
「やってますよ」
「クソが眼鏡割るぞコラ」
言うが早いか猫は東に麻雀牌を投げ付ける。ものすごいスピードで飛んできた2つの牌は、確実にメガネの両レンズをとらえた。
「やめて!!ほんとに割れる!!」
ギャアと東が叫ぶ。
その横で、上は窓際で煙草を吸っていた燈瑩の服の裾を引っ張った。
「もーいやや…燈瑩さん代わって…」
「え?いいけど」
「そうしろ上、早くどけ。この眼鏡殺すぞ燈瑩」
泣きっ面の上へ頷く燈瑩に、猫も手招きする。
正直、東はイカサマが上手い。
手先が器用なのだ。その才能はこういったイカサマを筆頭に、ピッキングや違法薬物の精製などに使われているが。
燈瑩が卓に着くやいなや、猫は牌を混ぜ素早く山を整えた。様子を見ていた燈瑩は一瞬考え、少し口角を上げる。
反対に、東は不満気な顔をした。カモが逃げたからだけではない。
‘積んだ’のだ、猫も。早業だったがわかる。上が居なくなったので遠慮なく仕掛けてきた、次局はおそらく燈瑩も‘積む’だろう。
こうなれば大勝ちは期待出来ない。
イカサマに関して上を素人と位置付けるなら、猫と燈瑩は玄人だ。‘積み込み’だけではなく、あの手この手を警戒し慎重に戦わなければこちらが喰われる。
これはもはや麻雀ではなく、イカサマ合戦。
誰が一番手癖が悪いかを決める勝負だ。
そんな中、黙々と牌を揃える樹。自分にはまったく関係が無い話だったからである。
この3人、誰も樹からは点を奪らない。
東は個人的な贔屓、燈瑩はイカサマをする人間にしかイカサマを仕掛けず、猫が仲間内でズルい真似をする相手は基本東のみ。
卓に居ながらにして傍観者の樹は、ただただ行く末を見守った。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
そこから先は反則技のオンパレード。ルール無用の殴り合い、拳でではなく麻雀牌と点棒での話だが。
「ロン」
明らかに和了れないような流れで猫が和了ってきた。東に直撃の混一色。
三つ巴であれどそんな下手は打っていないはずだが、と東は山に視線をやる。
そして気が付いた。開始時とは違う、僅かな牌山のズレに。
ぶっこ抜きか。
不要な手牌と山の牌を入れ替える、猫の素早さありきのイカサマ。
山ごと丸々動かす燕返しすらもコンマ数秒でやってのける男だ、牌を数個動かすことなど造作もない。瞬き程度の隙が命取りになる。
これだけ注意して見ていたのに…ますます油断出来ない。
そして次の局。誰も和了らず流局かと思われた、その時。
「ツモ、海底」
最後に自摸った燈瑩がカタンと手牌を開く。清一色。んな訳あるか、と東だけでなく猫も牌を見詰める。
都合よくそんな手がくるなんて。その最後の1枚、海底牌は九索だった。だがそもそも九索はもう山に残っていないはず…揃えるのは不可能。となると答えはひとつ。
拾ったのだ、捨て牌から。
「いつギったんだよ…大胆だなお前も」
「そう?ごめんね樹、点数減らしちゃって」
「全然大丈夫」
猫の言葉を軽く流し、燈瑩は樹に謝りながら点棒を貰う。小声で東が俺にも謝ってもいいんだよ、などと言っている。
この時点で点数はイーブン。誰も大きく勝っておらず、大きく負けてもいない。
イカサマの応酬で順位は一進一退だ。
局は進み、殴り合いは続く。ロン、ツモ、ロンロンツモ、ロン。
攻防激しく、点差は開かない。
そして最終局─────東がフザけた行動に出た。
【宵城】最上階、朱塗りの柵の中、ジャラジャラと牌をいじる音。
「それポン」
「は?東てめぇ鳴き過ぎなんだよ」
「えー?いいじゃない」
「良ぉないわ、俺また順番飛んだやん」
麻雀だ。
猫の部屋に集まった時、たまにこうして麻雀をする。もちろん賭け麻雀。
ちなみに普段する賭け事は【東風】ではもっぱら大小、カジノに遊びに行く時はバカラがお決まりのパターン。
「ロン、対対和」
上の捨て牌を指しながら、東がパタタッと自分の牌を倒す。
「なんで俺から直撃やねん!!」
「樹から取るのやだもん」
「理由訊いてんとちゃうわ!!」
上が半泣きで点棒を払う。猫は、楽しげに笑う東の手元を見た。
上が弱いのはいつものことだが…今日は東が随分と強い。これは実力とか運の問題じゃねーなと猫は思う。
東、絶対に‘積んで’る。上突っついて遊んでんな。
ようはイカサマをしているということ。
始まる前、手札を揃える時点で有利な牌を自分の山に集めている。
身内の博打でイカサマはすんなって言ってんのに…懲りねぇなと猫は舌打ちをする。
上が仕事で普段より儲けたのを聞きつけたのだろう、ちょっとハネてやろうというのが目に見える。
「おい東、ちゃんとやれよちゃんと」
「やってますよ」
「クソが眼鏡割るぞコラ」
言うが早いか猫は東に麻雀牌を投げ付ける。ものすごいスピードで飛んできた2つの牌は、確実にメガネの両レンズをとらえた。
「やめて!!ほんとに割れる!!」
ギャアと東が叫ぶ。
その横で、上は窓際で煙草を吸っていた燈瑩の服の裾を引っ張った。
「もーいやや…燈瑩さん代わって…」
「え?いいけど」
「そうしろ上、早くどけ。この眼鏡殺すぞ燈瑩」
泣きっ面の上へ頷く燈瑩に、猫も手招きする。
正直、東はイカサマが上手い。
手先が器用なのだ。その才能はこういったイカサマを筆頭に、ピッキングや違法薬物の精製などに使われているが。
燈瑩が卓に着くやいなや、猫は牌を混ぜ素早く山を整えた。様子を見ていた燈瑩は一瞬考え、少し口角を上げる。
反対に、東は不満気な顔をした。カモが逃げたからだけではない。
‘積んだ’のだ、猫も。早業だったがわかる。上が居なくなったので遠慮なく仕掛けてきた、次局はおそらく燈瑩も‘積む’だろう。
こうなれば大勝ちは期待出来ない。
イカサマに関して上を素人と位置付けるなら、猫と燈瑩は玄人だ。‘積み込み’だけではなく、あの手この手を警戒し慎重に戦わなければこちらが喰われる。
これはもはや麻雀ではなく、イカサマ合戦。
誰が一番手癖が悪いかを決める勝負だ。
そんな中、黙々と牌を揃える樹。自分にはまったく関係が無い話だったからである。
この3人、誰も樹からは点を奪らない。
東は個人的な贔屓、燈瑩はイカサマをする人間にしかイカサマを仕掛けず、猫が仲間内でズルい真似をする相手は基本東のみ。
卓に居ながらにして傍観者の樹は、ただただ行く末を見守った。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
そこから先は反則技のオンパレード。ルール無用の殴り合い、拳でではなく麻雀牌と点棒での話だが。
「ロン」
明らかに和了れないような流れで猫が和了ってきた。東に直撃の混一色。
三つ巴であれどそんな下手は打っていないはずだが、と東は山に視線をやる。
そして気が付いた。開始時とは違う、僅かな牌山のズレに。
ぶっこ抜きか。
不要な手牌と山の牌を入れ替える、猫の素早さありきのイカサマ。
山ごと丸々動かす燕返しすらもコンマ数秒でやってのける男だ、牌を数個動かすことなど造作もない。瞬き程度の隙が命取りになる。
これだけ注意して見ていたのに…ますます油断出来ない。
そして次の局。誰も和了らず流局かと思われた、その時。
「ツモ、海底」
最後に自摸った燈瑩がカタンと手牌を開く。清一色。んな訳あるか、と東だけでなく猫も牌を見詰める。
都合よくそんな手がくるなんて。その最後の1枚、海底牌は九索だった。だがそもそも九索はもう山に残っていないはず…揃えるのは不可能。となると答えはひとつ。
拾ったのだ、捨て牌から。
「いつギったんだよ…大胆だなお前も」
「そう?ごめんね樹、点数減らしちゃって」
「全然大丈夫」
猫の言葉を軽く流し、燈瑩は樹に謝りながら点棒を貰う。小声で東が俺にも謝ってもいいんだよ、などと言っている。
この時点で点数はイーブン。誰も大きく勝っておらず、大きく負けてもいない。
イカサマの応酬で順位は一進一退だ。
局は進み、殴り合いは続く。ロン、ツモ、ロンロンツモ、ロン。
攻防激しく、点差は開かない。
そして最終局─────東がフザけた行動に出た。
1
お気に入りに追加
11
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
黒龍の神嫁は溺愛から逃げられない
めがねあざらし
BL
「神嫁は……お前です」
村の神嫁選びで神託が告げたのは、美しい娘ではなく青年・長(なが)だった。
戸惑いながらも黒龍の神・橡(つるばみ)に嫁ぐことになった長は、神域で不思議な日々を過ごしていく。
穏やかな橡との生活に次第に心を許し始める長だったが、ある日を境に彼の姿が消えてしまう――。
夢の中で響く声と、失われた記憶が導く、神と人の恋の物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる