九龍懐古

カロン

文字の大きさ
上 下
58 / 404
香港麻雀

殴り合いと一文無し・前

しおりを挟む
香港麻雀 1





【宵城】最上階、朱塗りの柵の中、ジャラジャラと牌をいじる音。

「それポン」
「は?アズマてめぇ鳴き過ぎなんだよ」
「えー?いいじゃない」
「良ぉないわ、俺また順番飛んだやん」


麻雀だ。


マオの部屋に集まった時、たまにこうして麻雀をする。もちろん賭け麻雀。
ちなみに普段する賭け事は【東風】ではもっぱら大小、カジノに遊びに行く時はバカラがお決まりのパターン。

「ロン、対対和トイトイホー

カムラの捨て牌を指しながら、アズマがパタタッと自分の牌を倒す。

「なんで俺から直撃やねん!!」
イツキから取るのやだもん」
「理由訊いてんとちゃうわ!!」

カムラが半泣きで点棒を払う。マオは、楽しげに笑うアズマの手元を見た。

カムラが弱いのはいつものことだが…今日はアズマが随分と強い。これは実力とか運の問題じゃねーなとマオは思う。

コイツ、絶対に‘積んで’る。カムラ突っついて遊んでんな。

ようはイカサマをしているということ。
始まる前、手札を揃える時点で有利な牌を自分の山に集めている。

身内の博打でイカサマはすんなって言ってんのに…懲りねぇなとマオは舌打ちをする。
カムラが仕事で普段より儲けたのを聞きつけたのだろう、ちょっとハネてやろうというのが目に見える。

「おいおまえ、ちゃんとやれよちゃんと」
「やってますよ」
「クソが眼鏡割るぞコラ」

言うが早いかマオアズマに麻雀牌を投げ付ける。ものすごいスピードで飛んできた2つの牌は、確実にメガネの両レンズをとらえた。

「やめて!!ほんとに割れる!!」

ギャアとアズマが叫ぶ。
その横で、カムラは窓際で煙草を吸っていた燈瑩トウエイの服の裾を引っ張った。

「もーいやや…燈瑩トウエイさん代わって…」
「え?いいけど」
「そうしろカムラ、早くどけ。この眼鏡殺すぞ燈瑩トウエイ

泣きっ面のカムラへ頷く燈瑩トウエイに、マオも手招きする。

正直、アズマはイカサマが上手い。
手先が器用なのだ。その才能はこういったイカサマを筆頭に、ピッキングや違法薬物ドラッグの精製などに使われているが。

燈瑩トウエイが卓に着くやいなや、マオは牌を混ぜ素早く山を整えた。様子を見ていた燈瑩トウエイは一瞬考え、少し口角を上げる。

反対に、アズマは不満気な顔をした。カモカムラが逃げたからだけではない。
‘積んだ’のだ、マオも。早業だったがわかる。カムラが居なくなったので遠慮なく仕掛けてきた、次局はおそらく燈瑩トウエイも‘積む’だろう。

こうなれば大勝ちは期待出来ない。

イカサマに関してカムラを素人と位置付けるなら、マオ燈瑩トウエイは玄人だ。‘積み込み’だけではなく、あの手この手を警戒し慎重に戦わなければこちらが喰われる。


これはもはや麻雀ではなく、イカサマ合戦。
誰が一番手癖が悪いかを決める勝負だ。


そんな中、黙々と牌を揃えるイツキ。自分にはまったく関係が無い話だったからである。

この3人、誰もイツキからは点をらない。
アズマは個人的な贔屓、燈瑩トウエイはイカサマをする人間にしかイカサマを仕掛けず、マオが仲間内でズルい真似をする相手は基本アズマのみ。

卓に居ながらにして傍観者のイツキは、ただただ行く末を見守った。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆





そこから先は反則技のオンパレード。ルール無用の殴り合い、拳でではなく麻雀牌と点棒での話だが。

「ロン」

明らかに和了アガれないような流れでマオ和了アガってきた。アズマに直撃の混一色ホンイーソー

三つ巴であれどそんな下手は打っていないはずだが、とアズマは山に視線をやる。
そして気が付いた。開始時とは違う、僅かな牌山のズレに。


ぶっこ抜きか。


不要な手牌と山の牌を入れ替える、マオの素早さありきのイカサマ。
山ごと丸々動かす燕返しすらもコンマ数秒でやってのける男だ、牌を数個動かすことなど造作もない。瞬き程度の隙が命取りになる。
これだけ注意して見ていたのに…ますます油断出来ない。


そして次の局。誰も和了アガらず流局かと思われた、その時。

「ツモ、海底ハイテイ

最後に自摸ツモった燈瑩トウエイがカタンと手牌を開く。清一色チンイーソー。んな訳あるか、とアズマだけでなくマオも牌を見詰める。

都合よくそんな手がくるなんて。その最後の1枚、海底ハイテイ牌は九索キューソウだった。だがそもそも九索キューソウはもう山に残っていないはず…揃えるのは不可能。となると答えはひとつ。


拾ったのだ、捨て牌から。


「いつギったんだよ…大胆だなお前も」
「そう?ごめんねイツキ、点数減らしちゃって」
「全然大丈夫」

マオの言葉を軽く流し、燈瑩トウエイイツキに謝りながら点棒を貰う。小声でアズマが俺にも謝ってもいいんだよ、などと言っている。


この時点で点数はイーブン。誰も大きく勝っておらず、大きく負けてもいない。
イカサマの応酬で順位は一進一退だ。


局は進み、殴り合いは続く。ロン、ツモ、ロンロンツモ、ロン。
攻防激しく、点差は開かない。


そして最終局─────アズマがフザけた行動に出た。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

鐘ヶ岡学園女子バレー部の秘密

フロイライン
青春
名門復活を目指し厳しい練習を続ける鐘ヶ岡学園の女子バレー部 キャプテンを務める新田まどかは、身体能力を飛躍的に伸ばすため、ある行動に出るが…

黒龍の神嫁は溺愛から逃げられない

めがねあざらし
BL
「神嫁は……お前です」 村の神嫁選びで神託が告げたのは、美しい娘ではなく青年・長(なが)だった。 戸惑いながらも黒龍の神・橡(つるばみ)に嫁ぐことになった長は、神域で不思議な日々を過ごしていく。 穏やかな橡との生活に次第に心を許し始める長だったが、ある日を境に彼の姿が消えてしまう――。 夢の中で響く声と、失われた記憶が導く、神と人の恋の物語。

処理中です...