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偶像崇拝
天仔とRTB・後
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偶像崇拝11
上階から怒鳴り声や発砲音。恐らく【和獅子】はもうかなり上へと攻め込んでいる。だが最上階までは行ききれていないのだろう、【天堂會】の人員配置からすると10階以上の守りが固い様子だった。内階段を突破出来ないのであれば外から、という事で、非常階段の利用を試みようとした連中が先程樹に倒された面々なのか。
そうこうしているうちに、上からの足音。樹と東は階段を滑るように下りる。
【天堂會】か【和獅子】かわからないが、交戦せず済むならそれがいい。非常階段は暗かったけれどビル内は明るく顔がよく見えてしまう。東はまだ【和獅子】に顔を知られていないし、樹に至ってはどちらにもバレていない。【天堂會】はいずれマフィアに排除されるはずだからいいとしても、【和獅子】は九龍のグループだ。禍根は残したくないのである。
順調に降りていたが、今度は下からの足音。
挟み打ちになるのを避けとりあえずその階に留まることにし手近な部屋に隠れた。
「うわ、すご」
樹が目を見開く。
適当に入ったその部屋には、ありとあらゆる【天堂會】グッズが置かれていた。
新聞に挟まっていたチラシの束、それに印刷されていた割とリアルな銅像たち、有り難い教えが書いてあるのであろう本の山、例のキーホルダー、ぬいぐるみ。どれもこれも基調としているのは赤と金。そのせいで、部屋全体が驚くほどギラギラしている。
すぐさま銅像が本物の金か調べ始める東を横目に、樹はぬいぐるみのひとつを手に取った。というか、抱えあげた。だいぶ大きい。60cmほどはあるだろうか?他は大地が貰ったものと同じ大きさで、ここまでのサイズはこれひとつだけだった。
天仔だっけ。このキャラクターだけは可愛いよな、【天堂會】。そう思い、赤ん坊をあやすようにぬいぐるみを高い高いしている樹の携帯が鳴る。
「樹ぃ!今どこ居るん!?」
通話ボタンを押すやいなや上が大声を出した。なにやら後ろもガタゴトとうるさい。
「【天堂會】のビルの中。4階?かな?」
「東居ったんか!?脱出できそうか!?」
「居た。脱出は微妙…挟み撃ちになってる。グッズ部屋に隠れて、やり過ごそうとしてるところ」
「グッズ部屋?まぁええわ、今車調達してん。迎え要るならビルの裏つけるわ」
車?車が入れるほど道幅広くないけど、と樹は首をかしげた。しかし、このやたらとガタガタいっているのは走行音か。この狭い区画で走れる車といったら…。
「上、三輪自動車?」
「よぉわかったな」
「道狭いし。普通の入れないじゃん。それトラック型になってる?」
「そうやけど、どした?」
「後ろに燃えるゴミ乗せてきてほしい。裏には止まらなくていいよ、通り過ぎるだけで」
樹の意図を察した上は、了解3分で着く、と言って電話を切った。
「東、それ本物だった?」
「表面だけだな…でも少し剝がせるかも…」
血眼で銅像をいじくっている東に、樹はポコポコと小さなぬいぐるみを投げてぶつけた。待って、やめて!手元が狂う!剥がせそうなの!とピィピィ喚く東。
しばらくそうして遊んだのち、そろそろかなと樹は窓を開ける。路地の奥から近付いてくる三輪トラックが見えた。
「東、行くよ。上来た」
「え?上?なんで?」
銅像に夢中で全く電話を聞いていなかった東を窓際に連れて行く。樹は三輪トラックを手で指し示して言った。
「あれ今から下通るから、荷台に飛んで」
「え!?死なない!?」
「死なないように飛んで」
さっきの非常階段の半分の高さ、クッションとしてゴミも積んであるしなんとかなるだろうというのが樹の見解。
東は下を覗き込んだ。なんとかなりそう…なのか?ほんとか?骨とか折れない?
少しでも高さを減らすため、まずは窓の外へとぶら下がる。これで2mは稼げたか。
もうすぐ上が真下を通過する。窓枠に座り、東の方へ足を投げ出している樹が掛け声をかけた。
「いくよ、3……2……1……はい!」
覚悟を決めた東が合図にあわせて手を離す────より前に、樹は東の両肩をドカッと蹴った。
えっマジか!!そういう感じなの!!
俺の為のカウントダウンかと思ったのに!!
心の中で叫びながら為す術なく落ちていく東。ボスンッ!!と音がし、背中から荷台のゴミの中に埋まった。それを見届け、樹もトラックの進行方向へ飛ぶ。
宙返りして斜め下の電線に両足を引っ掛けて落下の勢いと高さを殺し、そのまま空中ブランコよろしく身体をフワッと振って運転席の屋根に舞い降りた。
ルーフの上の樹に気付いた上が叫ぶ。
「樹!東大丈夫か!?」
樹が荷台を見ると、ゴミの中からサムズアップした腕が突き出ていた。大丈夫、と樹は上に返す。
ビルを振り返ったが、幸い【天堂會】も【和獅子】も追ってきてはいないようだ。
「このまま行けるとこまで走るで!」
「おっけ」
上の言葉に短く返事をして、樹は胡座の上に抱えた天仔に顎を乗せた。そう、あのひとつだけあった60cmサイズの人形。お土産がわりに持ってきていたのだった。
人気の無い深夜の九龍、ひんやりした空気が頬を撫でていく。
宵闇の中、三輪トラックはガタゴトと音を立て、一路‘4人’を運んでいった。
上階から怒鳴り声や発砲音。恐らく【和獅子】はもうかなり上へと攻め込んでいる。だが最上階までは行ききれていないのだろう、【天堂會】の人員配置からすると10階以上の守りが固い様子だった。内階段を突破出来ないのであれば外から、という事で、非常階段の利用を試みようとした連中が先程樹に倒された面々なのか。
そうこうしているうちに、上からの足音。樹と東は階段を滑るように下りる。
【天堂會】か【和獅子】かわからないが、交戦せず済むならそれがいい。非常階段は暗かったけれどビル内は明るく顔がよく見えてしまう。東はまだ【和獅子】に顔を知られていないし、樹に至ってはどちらにもバレていない。【天堂會】はいずれマフィアに排除されるはずだからいいとしても、【和獅子】は九龍のグループだ。禍根は残したくないのである。
順調に降りていたが、今度は下からの足音。
挟み打ちになるのを避けとりあえずその階に留まることにし手近な部屋に隠れた。
「うわ、すご」
樹が目を見開く。
適当に入ったその部屋には、ありとあらゆる【天堂會】グッズが置かれていた。
新聞に挟まっていたチラシの束、それに印刷されていた割とリアルな銅像たち、有り難い教えが書いてあるのであろう本の山、例のキーホルダー、ぬいぐるみ。どれもこれも基調としているのは赤と金。そのせいで、部屋全体が驚くほどギラギラしている。
すぐさま銅像が本物の金か調べ始める東を横目に、樹はぬいぐるみのひとつを手に取った。というか、抱えあげた。だいぶ大きい。60cmほどはあるだろうか?他は大地が貰ったものと同じ大きさで、ここまでのサイズはこれひとつだけだった。
天仔だっけ。このキャラクターだけは可愛いよな、【天堂會】。そう思い、赤ん坊をあやすようにぬいぐるみを高い高いしている樹の携帯が鳴る。
「樹ぃ!今どこ居るん!?」
通話ボタンを押すやいなや上が大声を出した。なにやら後ろもガタゴトとうるさい。
「【天堂會】のビルの中。4階?かな?」
「東居ったんか!?脱出できそうか!?」
「居た。脱出は微妙…挟み撃ちになってる。グッズ部屋に隠れて、やり過ごそうとしてるところ」
「グッズ部屋?まぁええわ、今車調達してん。迎え要るならビルの裏つけるわ」
車?車が入れるほど道幅広くないけど、と樹は首をかしげた。しかし、このやたらとガタガタいっているのは走行音か。この狭い区画で走れる車といったら…。
「上、三輪自動車?」
「よぉわかったな」
「道狭いし。普通の入れないじゃん。それトラック型になってる?」
「そうやけど、どした?」
「後ろに燃えるゴミ乗せてきてほしい。裏には止まらなくていいよ、通り過ぎるだけで」
樹の意図を察した上は、了解3分で着く、と言って電話を切った。
「東、それ本物だった?」
「表面だけだな…でも少し剝がせるかも…」
血眼で銅像をいじくっている東に、樹はポコポコと小さなぬいぐるみを投げてぶつけた。待って、やめて!手元が狂う!剥がせそうなの!とピィピィ喚く東。
しばらくそうして遊んだのち、そろそろかなと樹は窓を開ける。路地の奥から近付いてくる三輪トラックが見えた。
「東、行くよ。上来た」
「え?上?なんで?」
銅像に夢中で全く電話を聞いていなかった東を窓際に連れて行く。樹は三輪トラックを手で指し示して言った。
「あれ今から下通るから、荷台に飛んで」
「え!?死なない!?」
「死なないように飛んで」
さっきの非常階段の半分の高さ、クッションとしてゴミも積んであるしなんとかなるだろうというのが樹の見解。
東は下を覗き込んだ。なんとかなりそう…なのか?ほんとか?骨とか折れない?
少しでも高さを減らすため、まずは窓の外へとぶら下がる。これで2mは稼げたか。
もうすぐ上が真下を通過する。窓枠に座り、東の方へ足を投げ出している樹が掛け声をかけた。
「いくよ、3……2……1……はい!」
覚悟を決めた東が合図にあわせて手を離す────より前に、樹は東の両肩をドカッと蹴った。
えっマジか!!そういう感じなの!!
俺の為のカウントダウンかと思ったのに!!
心の中で叫びながら為す術なく落ちていく東。ボスンッ!!と音がし、背中から荷台のゴミの中に埋まった。それを見届け、樹もトラックの進行方向へ飛ぶ。
宙返りして斜め下の電線に両足を引っ掛けて落下の勢いと高さを殺し、そのまま空中ブランコよろしく身体をフワッと振って運転席の屋根に舞い降りた。
ルーフの上の樹に気付いた上が叫ぶ。
「樹!東大丈夫か!?」
樹が荷台を見ると、ゴミの中からサムズアップした腕が突き出ていた。大丈夫、と樹は上に返す。
ビルを振り返ったが、幸い【天堂會】も【和獅子】も追ってきてはいないようだ。
「このまま行けるとこまで走るで!」
「おっけ」
上の言葉に短く返事をして、樹は胡座の上に抱えた天仔に顎を乗せた。そう、あのひとつだけあった60cmサイズの人形。お土産がわりに持ってきていたのだった。
人気の無い深夜の九龍、ひんやりした空気が頬を撫でていく。
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