九龍懐古

カロン

文字の大きさ
上 下
42 / 389
喧嘩商売

後日談と期待の新星

しおりを挟む
喧嘩商売 5





「お待たせぇ!」

大地ダイチが元気な声とともに【東風】のドアを開ける。手には様々な種類の鶏蛋仔エッグワッフル、後ろから付いて入ってきたイツキもお持ち帰り袋の中に沢山の鶏蛋仔エッグワッフルを抱えていた。

「こんなにもろたん?食えへんやん」
「1人2個ずつだよ、すぐ無くなるよ」
「3個食べたい…」
「俺1個でいいからイツキ食べな?」

そう言うと燈瑩トウエイは2個ずつわけようとする大地ダイチからひとつだけ頂戴し、もうひとつを3個欲しがるイツキに手渡した。
カウンターの中に居るアズマが、俺は1個もいらない、イツキに全部あげると声を飛ばす。思いがけず5個へ増えた取り分にイツキは嬉しそうだ。

うっかり不正の手助けをしたうえに敵方の人間との仲介をしてしまい色々な疑いをかけられたが、マオの計らいもあり難を逃れることができたレフェリー…もとい鶏蛋仔ワッフル屋店主は、【東風】の面々が店に顔を出す度に諸々の礼を兼ねこうして鶏蛋仔エッグワッフルをプレゼントしてくれる。

わざと負けたイツキイツキなのだが、ここは九龍城、より報酬の良い方につくのはどのタイミングであってもなんら問題はない。
それにもともとイツキは【獣幇】ではなく部外者。自らの力量で挑まず喧嘩屋を金で雇うというズルをした以上は【獣幇むこう】も何も言えないのである。

あのあとマオは【獣幇】に話をつけ、下っ端の管理下から小さい店を2ついただいた。そこに知り合いの水商売人や【宵城】の従業員を置いて簡易な飲み屋を作り、訪れた客を花街へ流す。新規顧客ルートの拡大だ。
その飲み屋自体の売上は【獣幇】にも少し回して、マフィアとも良好な関係を保つ。結果として幾ばくかのシマは獲ったが、双方に利のある角が立たない形におさめたのだった。



「しかし、新規ルート良い感じだな。あの辺に手ぇ伸ばしてる花街の奴ぁほとんどいねぇから全部【宵城こっち】に流れてくるぜ。丸儲けだわ。にゃはは」
「【獣幇】的にも花街側に店舗運営して貰って実際得なんじゃないの?【獣幇あそこ】は喧嘩賭博での稼ぎがメインで、経営には力入れてなかったからね」

笑い声をあげるマオに、ライター貸してとジェスチャーしながら燈瑩トウエイが言う。
マオは【宵城】特製ライターのラインストーンハートデコバージョン非売品を、やるよと放り投げた。

実際今回の騒動で一番損をこうむったのは燈瑩トウエイだ。【獣幇】から貰えるはずだった金額の倍払うという提案でイツキとの試合を決着させているのだから、額はかなりのものである。
それを思えばマオとしては非売品特製ライターくらい何個くれてやってもかまわなかった。

カムラもボコボコにされてはいるが頑張った対価として【宵城】への従業員紹介料を大幅に増やしてもらえている。
アズマはそもそもの元凶なので最終的に丸く収まりとがめられなくなっただけでも御の字とすべき。

報酬を渡されたイツキは若干申し訳無さそうだったが、燈瑩トウエイはこれで【獣幇】とも顔見知りになったし俺も新しく売買ルート作れるからいいよと笑っていた。
マオが見るに燈瑩トウエイはすでに界隈の売買ルートは持っていると思うのだが、何か他の算段があるんだろう。本人がいいよと言っているのだから周りが考えても詮無い事だ。



「ところで何で鶏蛋仔ワッフルのオッサンがレフェリーしとったん」

疑問を呈するカムラに、パンダクッキーの刺さったトッピング増し増し甘々キュートな鶏蛋仔エッグワッフルをかじりつつ答えるイツキ

「喧嘩見るのが好きで仲裁とかもしてたら、いつの間にか街で決闘ああいうのの審判のポジションになったって。地下格闘技とかもよく行くらしいよ」
「見かけによらんな…」

カムラが呟く。苺ソースがなんとなく血に見えてくる。

あ、そういえばとイツキが顔を上げ言った。

「おじさん、カムラに地下格闘技出ないかって」
「え!?俺!?人選おかしいやろ」
カムラが一番良かったんだって。外見とか逃げ回り方とかボロボロで立ち向かう感じとか」

褒められているのかいないのかまったくわからず、カムラは複雑な気持ちになった。
弱いからこその泥臭さが皆の心を揺さぶったのか?いや、でも、嬉しくない。願わくばカムラだってカッコよく戦いたいし勝ちたいのだ。ただ実力が全然足りていないだけで。

「へぇ、なら俺チケットさばくわ」
アズマ、やらんで俺は」
「まぁカムラの負けに1万ドルだな」
「やらんて、マオ
「そしたら俺は勝ちに張ろうか?」
「えっじゃあ勝って!頑張れカムラ!」
燈瑩トウエイさん!!大地ダイチ!!」

誰の助けも得られずに、一人で首をブンブンと横に振って否定するカムラ





そのカムラが翌週、皆の声援を背負しょって死にそうな顔でリングに姿を現すのはまた別の話だ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

若妻の穴を堪能する夫の話

かめのこたろう
現代文学
内容は題名の通りです。

♡蜜壺に指を滑り込ませて蜜をクチュクチュ♡

x頭金x
大衆娯楽
♡ちょっとHなショートショート♡年末まで毎日5本投稿中!!

マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子

ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。 Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。

[R18] 激しめエロつめあわせ♡

ねねこ
恋愛
短編のエロを色々と。 激しくて濃厚なの多め♡ 苦手な人はお気をつけくださいませ♡

【R18】もう一度セックスに溺れて

ちゅー
恋愛
-------------------------------------- 「んっ…くっ…♡前よりずっと…ふか、い…」 過分な潤滑液にヌラヌラと光る間口に亀頭が抵抗なく吸い込まれていく。久しぶりに男を受け入れる肉道は最初こそ僅かな狭さを示したものの、愛液にコーティングされ膨張した陰茎を容易く受け入れ、すぐに柔らかな圧力で応えた。 -------------------------------------- 結婚して五年目。互いにまだ若い夫婦は、愛情も、情熱も、熱欲も多分に持ち合わせているはずだった。仕事と家事に忙殺され、いつの間にかお互いが生活要員に成り果ててしまった二人の元へ”夫婦性活を豹変させる”と銘打たれた宝石が届く。

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

隣の人妻としているいけないこと

ヘロディア
恋愛
主人公は、隣人である人妻と浮気している。単なる隣人に過ぎなかったのが、いつからか惹かれ、見事に関係を築いてしまったのだ。 そして、人妻と付き合うスリル、その妖艶な容姿を自分のものにした優越感を得て、彼が自惚れるには十分だった。 しかし、そんな日々もいつかは終わる。ある日、ホテルで彼女と二人きりで行為を進める中、主人公は彼女の着物にGPSを発見する。 彼女の夫がしかけたものと思われ…

処理中です...