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青松落色
疑念とお裾分け
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青松落色5
「貧民街でも失踪ね…」
猫はパイプの煙を天井に吹いて、眉間にシワを寄せ考えた。
やり過ぎだな、というのが率直な感想。スラムの子供の大量失踪ですら、既にマフィアはいい顔をしていなかった。犯罪だからいけませんなんて綺麗事を吐くつもりはさらさら無い。何度も言うが、裏社会の、ひいては九龍のバランスを崩すような真似はやめろということだ。
「花街ではなんも聞いとらん?」
「今んとこは。誘拐犯が殺れんのが先か、花街まで誘拐にくんのが先かって感じじゃねーの」
上の質問に首を横に振りつつ、猫は自論を述べる。こうなったら黙っていないマフィアグループは沢山あるはずだ。しかしどのグループの仕業かわからない以上、互いに牽制し合い、探り合い、衝突が起こるだろう。
いや、もしくはそれが狙いなのか。他のグループがぶつかりあっているうちに、どさくさに紛れて自分達はトンズラ。
九龍から離れちまえば正直もう関係ない。
そうなると。
「九龍の人間じゃねーな、件のグループは」
猫が言うと上はパチパチと瞬きをした。
「え?なんでそう思うん?」
「こんだけやって、バレなきゃいいけどよ。バレんだろ。そしたらもう九龍には居らんねぇだろうがそれでもいい奴らってこった」
裏社会の人間からしたら法の及ばない九龍は最高の住処だ。なるべく手放したくはない、この街に組織的な物を根付かせている者なら尚更。だから恐らく、古くからあるグループや大きなグループの仕業ではない。
だとしたら名を上げたい新興勢力か?それも違う、どの道あとで居場所を失う。金が欲しい小グループか?確かに一度に稼げるだろうが、それからが続かなくなる。
摩擦を気にせず、儲けるだけ儲けたら、もう九龍は用済みのグループ。ということは。
「九龍外から来よった人間…か…」
猫の推測を聞いて、上はうーんと唸った。
ほぼ確定で合っている気がする。けれど現時点では証拠もないし、犯人が誰々だ、というわけにはいかないが。
「あのお前の友達よぉ、なんか知ってんじゃねーの?」
「…んなことあらへんやろ」
猫に言われ、上は一瞬ドキッとした。
確かに、藤は最近九龍に来たと言っていた。香港で仕事が無くなりこっちへ流れてきたと。だが藤がどこかマフィアグループに属しているとは聞いていない。
聞いていない、だけかも知れない。
「まぁどっちにしろ、ここまで派手にやってんだ。多分最後にもっと派手にやるぜ」
「何でわかるん」
「俺ならそうするからな」
猫が当たり前だろ、という顔をした。
ずらかる前に盗れるだけ盗る。今までターゲットにしていた‘スラム街’だの‘10歳以下’だのなんて目安は関係なくなり、目ぼしい物は総ざらい。どうせおさらばするんだ、貰えるモノは全部貰う。
「かといって、今日明日の話じゃねぇと思うけど。近いうちにそうなるかもなって事」
全部ただの個人的な憶測だぜ、と付け加え、猫はパイプの灰を落とす。
上は考えを巡らせた。
筋は通る。それなら、九龍の住人に聞いてもあまり情報が入らないことにも納得がいく。
藤に訊いてみるか?けれど藤がもしもその一員だとしたら、俺はそれを嗅ぎ回る邪魔者になってしまう。
…違うな、そもそもが邪魔者だったはずだ。なら藤はどうして俺に近付いた?
俺が情報屋だと知らなかったからか?知ってからも離れていかない理由は何だ?
いや…むしろ情報屋だからこそ一緒に居る?九龍の裏社会が今どこまで状況を把握しているか、街がどう動いているのか、常に確認しておく為?
深刻そうな様子の上に猫が声を掛けた。
「別に気に病む必要ぁねぇだろ。俺らが直接被害こうむってる訳じゃねーしお前が解決しなきゃなんねー訳でもねぇ、ただのマフィア同士の揉め事だ」
猫の言うことはもっとも。だが、藤が内通者だとしたら少なからず上から九龍内での話が漏れていたのは否定のしようがない。
というより、藤は───‘友達’なのだ。上の中では。
「とりあえずもう【宵城】開ける時間だし。大地が待ってんだろ?今日は帰れよ」
言って、猫は先程の買い物袋から高級そうな菓子を出し上に渡した。
店を開けるから帰れ、なんて、気を回してくれての発言なのがありありとわかる。菓子だって安めの物もたくさん袋に入っているのにわざわざ良い物をくれて。猫はいつもぶっきらぼうに優しい。
「…ありがとな」
「優しいからね、猫様は」
自分で言うんかい。そう思い上は少し笑って、シッシッと追い払うような仕草を見せる猫に手を振り【宵城】をあとにした。
「貧民街でも失踪ね…」
猫はパイプの煙を天井に吹いて、眉間にシワを寄せ考えた。
やり過ぎだな、というのが率直な感想。スラムの子供の大量失踪ですら、既にマフィアはいい顔をしていなかった。犯罪だからいけませんなんて綺麗事を吐くつもりはさらさら無い。何度も言うが、裏社会の、ひいては九龍のバランスを崩すような真似はやめろということだ。
「花街ではなんも聞いとらん?」
「今んとこは。誘拐犯が殺れんのが先か、花街まで誘拐にくんのが先かって感じじゃねーの」
上の質問に首を横に振りつつ、猫は自論を述べる。こうなったら黙っていないマフィアグループは沢山あるはずだ。しかしどのグループの仕業かわからない以上、互いに牽制し合い、探り合い、衝突が起こるだろう。
いや、もしくはそれが狙いなのか。他のグループがぶつかりあっているうちに、どさくさに紛れて自分達はトンズラ。
九龍から離れちまえば正直もう関係ない。
そうなると。
「九龍の人間じゃねーな、件のグループは」
猫が言うと上はパチパチと瞬きをした。
「え?なんでそう思うん?」
「こんだけやって、バレなきゃいいけどよ。バレんだろ。そしたらもう九龍には居らんねぇだろうがそれでもいい奴らってこった」
裏社会の人間からしたら法の及ばない九龍は最高の住処だ。なるべく手放したくはない、この街に組織的な物を根付かせている者なら尚更。だから恐らく、古くからあるグループや大きなグループの仕業ではない。
だとしたら名を上げたい新興勢力か?それも違う、どの道あとで居場所を失う。金が欲しい小グループか?確かに一度に稼げるだろうが、それからが続かなくなる。
摩擦を気にせず、儲けるだけ儲けたら、もう九龍は用済みのグループ。ということは。
「九龍外から来よった人間…か…」
猫の推測を聞いて、上はうーんと唸った。
ほぼ確定で合っている気がする。けれど現時点では証拠もないし、犯人が誰々だ、というわけにはいかないが。
「あのお前の友達よぉ、なんか知ってんじゃねーの?」
「…んなことあらへんやろ」
猫に言われ、上は一瞬ドキッとした。
確かに、藤は最近九龍に来たと言っていた。香港で仕事が無くなりこっちへ流れてきたと。だが藤がどこかマフィアグループに属しているとは聞いていない。
聞いていない、だけかも知れない。
「まぁどっちにしろ、ここまで派手にやってんだ。多分最後にもっと派手にやるぜ」
「何でわかるん」
「俺ならそうするからな」
猫が当たり前だろ、という顔をした。
ずらかる前に盗れるだけ盗る。今までターゲットにしていた‘スラム街’だの‘10歳以下’だのなんて目安は関係なくなり、目ぼしい物は総ざらい。どうせおさらばするんだ、貰えるモノは全部貰う。
「かといって、今日明日の話じゃねぇと思うけど。近いうちにそうなるかもなって事」
全部ただの個人的な憶測だぜ、と付け加え、猫はパイプの灰を落とす。
上は考えを巡らせた。
筋は通る。それなら、九龍の住人に聞いてもあまり情報が入らないことにも納得がいく。
藤に訊いてみるか?けれど藤がもしもその一員だとしたら、俺はそれを嗅ぎ回る邪魔者になってしまう。
…違うな、そもそもが邪魔者だったはずだ。なら藤はどうして俺に近付いた?
俺が情報屋だと知らなかったからか?知ってからも離れていかない理由は何だ?
いや…むしろ情報屋だからこそ一緒に居る?九龍の裏社会が今どこまで状況を把握しているか、街がどう動いているのか、常に確認しておく為?
深刻そうな様子の上に猫が声を掛けた。
「別に気に病む必要ぁねぇだろ。俺らが直接被害こうむってる訳じゃねーしお前が解決しなきゃなんねー訳でもねぇ、ただのマフィア同士の揉め事だ」
猫の言うことはもっとも。だが、藤が内通者だとしたら少なからず上から九龍内での話が漏れていたのは否定のしようがない。
というより、藤は───‘友達’なのだ。上の中では。
「とりあえずもう【宵城】開ける時間だし。大地が待ってんだろ?今日は帰れよ」
言って、猫は先程の買い物袋から高級そうな菓子を出し上に渡した。
店を開けるから帰れ、なんて、気を回してくれての発言なのがありありとわかる。菓子だって安めの物もたくさん袋に入っているのにわざわざ良い物をくれて。猫はいつもぶっきらぼうに優しい。
「…ありがとな」
「優しいからね、猫様は」
自分で言うんかい。そう思い上は少し笑って、シッシッと追い払うような仕草を見せる猫に手を振り【宵城】をあとにした。
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