九龍懐古

カロン

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青松落色

星付きと血だるま

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青松落色2





イツキマオの部屋に着くと、マオは手土産を無表情で見詰め低い声を出した。

「なんだこれ」
アズマから預かった」
「あいつ居たの?」

居ないって言って居ないって言って、というアズマの声が脳裏をよぎり、イツキは答えた。

「居た」

よぎっただけだった。


寄越よこしてねぇで金寄越よこせよとマオが舌打ちをする。やはりツケを払っていないようだ。
いくらツケているのか知らないが、この酒瓶と煙草で利子くらいにはなったのだろうか。

マオがやれやれと言った表情をし、パイプの煙と共に言葉を吐く。

イツキ、よくお使い引き受けたな。面倒めんどかっただろ」
マオと夕飯食べようかと思って」
「あっそうなの?じゃあ3人で行くか」
「3人?」

話によると、マオはもともと燈瑩トウエイと食事をする予定があったらしい。香港の星付きのレストランが九龍城の富裕層地域にも店舗を構え、そこの魚翅フカヒレが絶品とかなんとか。

「でも俺あんまりお金持ってきて無いよ」
燈瑩トウエイが出すだろ」

ポケットから取りだした財布を振るイツキマオは即答。話をしているうちに燈瑩トウエイがやってきたので、イツキは星付きの店に行くほどの手持ちが無いと正直に伝える。

「いいよ俺が出すから」

マオの予想通り、燈瑩トウエイも即答だった。

酒代は俺が全部払ってやるよとマオが笑い、俺もイツキもそんなにまないじゃんと燈瑩トウエイが笑い返す。

この2人はよく皆にご飯をおごってくれる。
マオは九龍いちの風俗店の経営者だ、もちろん、稼ぎはいうまでもなくかなりある。その儲けのほとんどを博打バクチに使ってしまうことは置いておいて。
そのマオが前に、燈瑩トウエイは俺より金持ちだぜ?と言っているのをイツキは聞いた。おもに武器商人をしているようだが、実際の規模や他の仕事はわからない。

ちなみに‘皆’のうちにアズマは入っていない。


點心てんしんも美味しいらしいよ。イツキ蝦燒賣エビしゅうまい好きだったよね?あとは何頼もうか」
燈瑩トウエイが決めていいよ。マオは何食べるの?」
「俺は酒ありゃぁいいんだよ、年代物の老酒があるみてぇだから。まぁ話のネタに魚翅フカヒレは食っとくか」

会話をしながら、車窓の外に流れていく景色を眺める。

【宵城】から目当てのレストランまでは徒歩で行くとなると相当な時間がかかってしまう。区画が全く違うからだ。歩きなんてダリぃよとマオが言うので、一度九龍から出て的士タクシーを拾い店へ向かうことにした。
そのまま街の外側をグルっと回る。九龍内を通る道は狭すぎて階段も多く、車が入れない路地が大半を占めている為だ。車ではないにしろ、イツキのように屋上から屋上へ飛び移るのでなければ反対側の地区まで行くには外側を回ったほうが早い時がままある。それほど内部が入り組んでいる九龍城、‘魔窟’と称されるのも頷ける。


しばらく的士タクシーを走らせ、目的地周辺に到着。さすが富裕層地域、景観が整っている。道も拓けているし照明設備もしっかりしており、全体的に明るく安全そうだ。

くだんのレストランもとても綺麗で、味も美味しく、イツキはデザートを全種類たいらげた。
マオは宣言した通りに終始んでいて、食べたものと言えば燈瑩トウエイが何種類かオーダーした魚翅フカヒレを一口ずつ貰ったくらい。マオが手を付けないので點心てんしん類はイツキ燈瑩トウエイで全て半分こした。
噂の魚翅フカヒレは前評判通りどれもこれも良質で歯応えがあり、蝦燒賣エビしゅうまいのエビもプリプリしていて食べごたえ抜群。クオリティに舌鼓を打ち食事を終える。
体感ではそれほど注文していなかったが、運ばれてきた会計は結構な額。これが星付きの魚翅フカヒレと老酒の威力か。


「ありがとう、おいしかった」

店を出てイツキが礼を言う。

燈瑩トウエイごめんね、高かったのに」
「気にしなくてい…」
「いいんだよ!燈瑩こいつ魚翅フカヒレ何個も頼んだせいなんだから。なぁ?」

割って入ってきたマオ燈瑩トウエイは、だってあったら全部試してみたいじゃんと笑う。イツキも同意して首を縦に振った。

「けど大差なかっただろ、正味」
「大酒飲みのマオに言われても」
「ぁんだコラ燈瑩トウエイてめぇ、俺が味わかってねぇって言いたいのか?利き酒勝負するか?」
「利きスイーツならする」
「いやどうやるんだよそれイツキよ」

軽口を叩き合い、帰りも的士タクシーつかう?なんて話していると───唐突とうとつに向かいの飲み屋のガラスが派手な音を立てて割れた。

3人でそちらへ視線を向けると、ちょうど、中から血まみれの人間が転がり出てきたところだった。
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