九龍懐古

カロン

文字の大きさ
上 下
20 / 409
区区之心

一歩前進とスッカラカン

しおりを挟む
区区之心4





大地ダイチが家に着くとカムラはもう帰ってきていた。

「おかえり大地ダイチ雞蛋仔エッグワッフルどうやった?」
「美味しかったよ。これお土産」

カムラの声に応えつつ大地ダイチ豆腐花ダウフーファの入った袋をガサッとテーブルに乗せる。そのテーブルの隅に、封筒が置いてあった。カムラがさっき燈瑩トウエイに渡していたものと似ている。
大地ダイチが封筒を手に取ると、カムラ豆腐花ダウフーファの紙パックを開けながら言った。

「あぁそれ、マオに届けなあかんねん。まぁ今日やなくてもええんやけどな、明日でも」
「ふぅん…」

会話が途切れる。

…あれ?変だな。いつもなら大地ダイチは、俺が行くとか一緒に連れていってとか騒ぐはずなのに。そう思いカムラはチラッと大地ダイチを見た。

大地ダイチは封筒を見詰めたまま何か考えている。そして。

「気をつけて行ってきてね」

そう言うと、封筒をテーブルに戻し風呂場の方へ足を向けた。
その後ろ姿をカムラ咄嗟とっさに呼び止める。

「ちょ!待て待てどうしたん」
「どうした、って?シャワー浴びるんだけど…カムラ、先にお風呂使いたいの?」
「あ…えっと…」

キョトンとしている大地ダイチに困惑するカムラ

普段と態度が違い過ぎる。文句を言う大地ダイチカムラがあれやこれやと口うるさく返し、ひとしきり揉めた後、もう!バカムラ!とか悪態をつかれるまでがワンセットなのに。

けど…いや、これでいいんじゃないか?
そんな考えがカムラの頭を巡る。

心配の種がひとつ減ったんだから。少しでも危ないことはさせたくないし、危ない場所には行かせたくなかったカムラとしては、願ってもない変化。

だが。


「早めに浴びるよ。明日も忙しいんでしょ」

そう呟いた大地ダイチの顔が、寂しそうに見えた。
カムラはふと燈瑩トウエイとの会話を思い返す。

追い付きたい、役に立ちたいという気持ち。
けれど力が足りなくて守られている側の、悔しくてもどかしい気持ち。
その気持ちを1番わかるのは、わかってやれるのは────他でもないカムラのはずだ。

「そうなんよ、忙しいねん。やから……これ、大地ダイチに頼んでもええかな?」

そのカムラの台詞に、大地ダイチが驚いて目を見開く。天と地がひっくり返ったかのような表情。

マオん所なら大丈夫やろ、1人でも。危ないけど、昼間なら大丈夫やろ。危ないけど」

自分で言っていて、ちょっとチグハグだな…とカムラは思ったが、心配は心配なのだから仕方無い。
大地ダイチが小さな声で聞き返す。

「…いいの?」
「ええよ。ちゅうか、俺が心配症やからやねんな。うるさくうてまうのは」

カムラは先ほどの燈瑩トウエイの言葉を拝借した。すんません、上手い言い方だったんで。その勢いのまま続ける。

「やけど、力になりたいって気持ちはわかるんよ。わかるから…これからは、大地ダイチに任せられる仕事は任せる。ええかな?」

それを聞いた大地ダイチの顔が、パアッと明るくなった。本当に!?とキラキラした瞳でカムラにたずねる。
簡単なやつだけやぞとカムラは念を押したが、嬉しそうに部屋を駆け回る大地ダイチはちゃんと聞いてくれているだろうか。

やっぱり明日、イツキに頼んでついてってもらおかな。ハシャぐ大地ダイチの笑顔を見ながらカムラは思った。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆





その頃【東風】では─────

「ただいま」
「あっ…イツキ…まだある…?」
「あるよ、はいアズマの分」
豆腐花ダウフーファ?ありがとう…いや、じゃなくて、お土産じゃなくて」
雞蛋仔エッグワッフルは食べちゃったよ」
「いや、あの…お金、まだある?」
「無いよ」
「ですよね!!!!」
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

〈社会人百合〉アキとハル

みなはらつかさ
恋愛
 女の子拾いました――。  ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?  主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。  しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……? 絵:Novel AI

ルナール古書店の秘密

志波 連
キャラ文芸
両親を事故で亡くした松本聡志は、海のきれいな田舎町に住む祖母の家へとやってきた。  その事故によって顔に酷い傷痕が残ってしまった聡志に友人はいない。  それでもこの町にいるしかないと知っている聡志は、可愛がってくれる祖母を悲しませないために、毎日を懸命に生きていこうと努力していた。  そして、この町に来て五年目の夏、聡志は海の家で人生初のバイトに挑戦した。  先輩たちに無視されつつも、休むことなく頑張る聡志は、海岸への階段にある「ルナール古書店」の店主や、バイト先である「海の家」の店長らとかかわっていくうちに、自分が何ものだったのかを知ることになるのだった。  表紙は写真ACより引用しています

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

下っ端妃は逃げ出したい

都茉莉
キャラ文芸
新皇帝の即位、それは妃狩りの始まりーー 庶民がそれを逃れるすべなど、さっさと結婚してしまう以外なく、出遅れた少女は後宮で下っ端妃として過ごすことになる。 そんな鈍臭い妃の一人たる私は、偶然後宮から逃げ出す手がかりを発見する。その手がかりは府庫にあるらしいと知って、調べること数日。脱走用と思われる地図を発見した。 しかし、気が緩んだのか、年下の少女に見つかってしまう。そして、少女を見張るために共に過ごすことになったのだが、この少女、何か隠し事があるようで……

職場のパートのおばさん

Rollman
恋愛
職場のパートのおばさんと…

処理中です...