九龍懐古

カロン

文字の大きさ
上 下
12 / 433
十悪五逆

売り上げ金とスクーター

しおりを挟む
十悪五逆5





撃たれた。

アズマは思ったが、どこも痛くない。
おそるおそる上半身を起こすと、男達のうち2人は頭部から血を流して倒れていて、残る1人はちょうどイツキがハイキックで地面に沈めたところだった。

「間に合ったね」

拳銃を片手に、路地の向こうから歩いてきた燈瑩トウエイが笑う。どうやらさっきの銃声は燈瑩トウエイが2人分の頭を撃ち抜いたものだったようだ。

イツキ!!燈瑩トウエイ!!」
怪我ケガない?」

半泣きのアズマイツキが手を差し伸べる。
ハイキックを食らった男が起き上がろうとうごめいたので、燈瑩トウエイはすぐさまその足首に銃弾を撃ち込んだ。悲鳴をあげながら路地を転がる男へにこやかに話しかける。

「悪いね、聞きたい事があるからさ」
「足止めのしかたが容赦ねぇな」

立ち上がりつつ言うアズマイツキが肩をすくめた。

「しょうがないよ。さっき普通にやろうとしたら、ケチャップになっちゃったから」
「ケチャップ?」

イツキがケチャップの話をしている間、燈瑩トウエイは男に先程さきほど入手した携帯電話を見せ質問。

まだ生きているメンバーは誰か?この他にもいるのか?どんな容貌か?集まる場所は?

一通ひととおり情報を聞いて、燈瑩トウエイは男に礼を言い、パンッと一発撃ってその頭をふっ飛ばした。

男が死ぬ間際、えっ?口を割ったのに?という表情をした気がしたが、無意味な疑問だ。
割ろうが割るまいが死ぬのだ。見逃してやるなんて甘い世界線もどこかにはあるのだろうが、ここは東洋の魔窟────悪名高い九龍なんだから。

「ていうか、こいつらも早かったけどイツキ達も早かったな…近くに居たの?」
「全然。アレ乗ってきた」

アズマの問いに、イツキが近くの建物の屋上を指差す。そこには柵に引っかかり半分宙ぶらりんになった小型のスクーターが見えた。

「え?アレで屋上渡ってきたの?」
「うん。走っても間に合わないと思って。燈瑩トウエイ運転上手うまかったよ」

屋根上をカッ飛ばす原付き2人乗り。運転がどうとかいう問題以前に、破茶滅茶もいいところである。
でもとにかく助かったのは事実なので、もうこの際何だっていい。アズマは誰かはわからないスクーターの持ち主に心から感謝した。

「バイク屋さんにお金払いに行かなきゃ。【東風】のレジから出しとくね」

事も無げに言うイツキ

いや普通に売り物かよ。いいけど、助かったから。いいけど…。アズマはこれでフイになった今月の売上のことを思い、黙ってそっと天を仰いだ。



その後、3人は野次馬が集まる前に退散し【宵城】に転がり込む。マオにものすごく怪訝けげんな顔をされたけれど、訳を話してイツキ燈瑩トウエイは茶を出してもらった。
アズマは殴られた。

残りのメンバーのことや諸々もろもろの処理は、燈瑩トウエイが仕事仲間に頼んで対処してくれるようだ。これでこの件に関してはアズマの命も安泰だろう。

マオの部屋でみんなで麻雀をして一夜を明かし、翌朝帰路につく際アズマが捨てられた仔犬のような目をするので、イツキアズマと【東風】に帰ってやることにした。

イツキ、月餅があるからでしょ」
「なんでわかったの?」

燈瑩トウエイの言葉にキョトンとする樹。アズマは、いいんだよ、月餅が理由だっていいんだよ、どうあれ一緒に来てくれるんだからと独りごちた。

燈瑩トウエイ、またね」
「ん。近いうち【東風】行くよ」

そう言って微笑む燈瑩トウエイイツキは手を振り、九龍の街に消えていくその背中を見送った。

燈瑩トウエイ、良い人だったね」
「良い…人…?そうね、良い人…かな…」

アズマは歯切れの悪い返事をしたが、イツキは気にせずに、今度会ったらお気に入りのお菓子をわけてあげようと思った。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

アルバイトで実験台

夏向りん
BL
給料いいバイトあるよ、と教えてもらったバイト先は大人用玩具実験台だった! ローター、オナホ、フェラ、玩具責め、放置、等々の要素有り

下っ端妃は逃げ出したい

都茉莉
キャラ文芸
新皇帝の即位、それは妃狩りの始まりーー 庶民がそれを逃れるすべなど、さっさと結婚してしまう以外なく、出遅れた少女は後宮で下っ端妃として過ごすことになる。 そんな鈍臭い妃の一人たる私は、偶然後宮から逃げ出す手がかりを発見する。その手がかりは府庫にあるらしいと知って、調べること数日。脱走用と思われる地図を発見した。 しかし、気が緩んだのか、年下の少女に見つかってしまう。そして、少女を見張るために共に過ごすことになったのだが、この少女、何か隠し事があるようで……

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

『 ゆりかご 』  ◉諸事情で非公開予定ですが読んでくださる方がいらっしゃるのでもう少しこのままにしておきます。

設樂理沙
ライト文芸
皆さま、ご訪問いただきありがとうございます。 最初2/10に非公開の予告文を書いていたのですが読んで くださる方が増えましたので2/20頃に変更しました。 古い作品ですが、有難いことです。😇       - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - " 揺り篭 " 不倫の後で 2016.02.26 連載開始 の加筆修正有版になります。 2022.7.30 再掲載          ・・・・・・・・・・・  夫の不倫で、信頼もプライドも根こそぎ奪われてしまった・・  その後で私に残されたものは・・。            ・・・・・・・・・・ 💛イラストはAI生成画像自作  

処理中です...