10 / 18
9:マオさんの「好き」と私の「好き」
しおりを挟む******
夕食後、デザートにパイナップルを食べながら、ふと結婚したなら聞いてみてもいいかと、実は初期から気になっていたことを聞いてみた。
「あの、マオさん。今まで怖くて聞けなかったんだけど……。魔族の寿命って……その、長いの?」
「……今まで話したことがなかったか。ふぅむ……細かくはわからぬほど生きては来たが。この世界に来る時に魔力も相当に喪失しておるし、恐らくはもう然程もないであろう」
「え、然程もって……」
「セーラ、命とは有限なのだぞ? 仕方があるまい。なに、むしろ長く生き過ぎたくらいだ、ちょうど良かろう」
先日、入籍を知り結ばれて、可愛いミートローフを頬張って、『なんて幸せ!』と浸ったところで、夫の寿命は残り少ないと聞かされるって……。こんなのあんまりではないだろうか?
「マオさん、そんなの嫌! 私を置いて逝かないで! ねぇ、医療でどうにかできることはないの? 家事は? 家事が身体に負担掛かってない? 私もきちんと分担するから、それとも魔素探しにでも行ってみる? なにか、なにか……方法が」
「セーラ、少し落ち着くのだ。家事は負担になどなってはおらぬし、分担も必要ない。このままで良い」
どうしてマオさんは平然としていられるの? あと少ししか一緒にいられないって言うのに。マオさんの「好き」ってちょっと暇潰し程度の、そういう感覚だったの?
マオさんとのお別れや想いを考えている内に胸も苦しくなって、ポロポロと涙が溢れた。
「……っ、どうして? 私はマオさんに長生きして欲しいのに! うぅ……あ、あと、どのくらい猶予はある?」
「セーラ……。これは予想外であったな」
マオさんは席を立ち、泣きじゃくる私の手を取りソファへと移動させた。腰を落ち着けて、マオさんが慰めるように、頭と背中を撫でるけど、それでも私は泣くことをやめない。
だってこんなにもマオさんを好きになってしまったのに、なんてこともないようにあっさりとお別れを口にされて、酷いフラれ方をしたような気分だ。
抱き締めてくれているマオさんの胸元は随分と濡れて、想いの分だけ涙が広がっていく。
「参った、よもやセーラにこんなにも泣かれるとはな。とは言え、どうしたら良いものか。いくら元魔王と言えど、あと100年は持たぬであろうし……ふむ」
「……ひっ、く……うぅ……。。。うん? 100年?」
「うむ。ただ、この世界は魔素が少ないからな。半分の……50年ほどであろうか」
「50……年」
作られた戸籍で見ると、確か年齢が今年で35歳(設定)だったから、85歳が寿命ってこと? でも私の方が年下だし、やっぱり先立たれる可能性が高い。
ぴったり一緒に亡くなるなんて無理なことはわかっているけど、なるべく一人で残される時間は少ない方がいい。両親のように先立たれるなんて経験は、一度で十分だ。
「魔素があればそれなりに健康な状態を保って長生きし、セーラと共に逝けるのであろうが……。こんなにも泣き虫では、心配で先には逝けぬな」
「うん、だから長生きして」
ギュッと泣きながらしがみ付いている私の目元を拭いながら、少し困ったように『善処する』と言ったマオさん。
まさかの、この半年後にすごい発見をする。
***
「ただいま~! ん? なんか部屋が臭くない? っていうかマオさんの手、真っ赤だよ!?」
「ご苦労であったな、セーラ。すまない、些か我も興奮気味のようだ。手も洗わずに出て来てしまった」
興奮!? マオさんが? 家電量販店でも興奮はしてるっぽいけど、露わにするような感じはなかったのに。
手を洗いながらも『興奮って、一体何に?』と聞いてみた。聞くまで手を真っ赤にしたまま後ろをついてくる勢いだったもので、一緒に手洗い場へ連行です。
「なんと、キムチに魔素が含まれていることがわかったのだ!」
「えぇ!? でも今までもキムチは食べた事あったよね? ほら、焼き肉の時とか」
話し出した途端、さらに興奮状態のマオさんに少し驚くも、内容を聞いて納得! これが本当ならすごいことだよね!
「うむ。どうやら工場生産ではなく、イチから手作りの物のみに含まれるようでな。マダム鈴木の知り合いの韓国人が作ったというお裾分けのキムチを、昼に食した時に気付いたのだ。ならば自ら作ったらどうかと、レシピを聞き仕込んでおいたのだが、それにはお裾分けキムチの2倍の効果があった」
「キムチすごいっ!!」
「更に効果を増せるかどうかを研究しても良いが、魔法も今はほぼ使用してはおらぬし、セーラの寿命に合わせて調整しながら食すで十分であろう。これならばセーラの夜勤の日の夕食はキムチと納豆で簡単に済ませられる」
「納豆とキムチを食べるマオさん、か……見た目とのギャップがすごい。ネバネバの糸ですら楽譜の五線譜みたいに見えるんだろうね」
その内、納豆の粒が音符になって『みょ~ん♪』と音楽を奏でだすに違いない。マオさんならコントラバスとかでも似合いそうだけど。
「食べるものにギャップとはなんだ? セーラも同じように食べるではないか」
「そこはマオさんにはきっと一生わからないことです。ふふ。でも、健康に長生きしてくれるのなら本当に嬉しい!」
『そうか』と言ったマオさんが、今度は私を見つめていた。いつもの真顔のようで、やや眉尻が下がっているように見える。困ったような、心配しているような、そんな表情。
「……セーラも、なのだぞ? ある程度は我が健康管理をしてはおるが、寿命以外で我を置いて逝くことは許さぬ」
「っ……はい! 私も善処します」
嬉しくて満面の笑みで答えた。
マオさんの「好き」も、ちゃんと私と同じ「好き」だったから。
42
お気に入りに追加
68
あなたにおすすめの小説
溺愛の始まりは魔眼でした。騎士団事務員の貧乏令嬢、片想いの騎士団長と婚約?!
参
恋愛
男爵令嬢ミナは実家が貧乏で騎士団の事務員と騎士団寮の炊事洗濯を掛け持ちして働いていた。ミナは騎士団長オレンに片想いしている。バレないようにしつつ長年真面目に働きオレンの信頼も得、休憩のお茶まで一緒にするようになった。
ある日、謎の香料を口にしてミナは魔法が宿る眼、魔眼に目覚める。魔眼のスキルは、筋肉のステータスが見え、良い筋肉が目の前にあると相手の服が破けてしまうものだった。ミナは無類の筋肉好きで、筋肉が近くで見られる騎士団は彼女にとっては天職だ。魔眼のせいでクビにされるわけにはいかない。なのにオレンの服をびりびりに破いてしまい魔眼のスキルを話さなければいけない状況になった。
全てを話すと、オレンはミナと協力して魔眼を治そうと提案する。対処法で筋肉を見たり触ったりすることから始まった。ミナが長い間封印していた絵描きの趣味も魔眼対策で復活し、よりオレンとの時間が増えていく。片想いがバレないようにするも何故か魔眼がバレてからオレンが好意的で距離も近くなり甘やかされてばかりでミナは戸惑う。別の日には我慢しすぎて自分の服を魔眼で破り真っ裸になった所をオレンに見られ彼は責任を取るとまで言いだして?!
※結構ふざけたラブコメです。
恋愛が苦手な女性シリーズ、前作と同じ世界線で描かれた2作品目です(続きものではなく単品で読めます)。今回は無自覚系恋愛苦手女性。
ヒロインによる一人称視点。全56話、一話あたり概ね1000~2000字程度で公開。
前々作「訳あり女装夫は契約結婚した副業男装妻の推し」前作「身体強化魔法で拳交える外交令嬢の拗らせ恋愛~隣国の悪役令嬢を妻にと連れてきた王子に本来の婚約者がいないとでも?~」と同じ時代・世界です。
※小説家になろう、ノベルアップ+にも投稿しています。※R15は保険です。
【完結】忘れられた王女は獣人皇帝に溺愛される
雑食ハラミ
恋愛
平民として働くロザリンドは、かつて王女だった。
貴族夫人の付添人としてこき使われる毎日だったロザリンドは、ある日王宮に呼び出される。そこで、父の国王と再会し、獣人が治める国タルホディアの皇帝に嫁ぐようにと命令された。
ロザリンドは戸惑いながらも、王族に復帰して付け焼刃の花嫁修業をすることになる。母が姦淫の罪で処刑された影響で身分をはく奪された彼女は、被差別対象の獣人に嫁がせるにはうってつけの存在であり、周囲の冷ややかな視線に耐えながら隣国タルホディアへと向かった。
しかし、新天地に着くなり早々体調を崩して倒れ、快復した後も夫となるレグルスは姿を現わさなかった。やはり自分は避けられているのだろうと思う彼女だったが、ある日宮殿の庭で放し飼いにされている不思議なライオンと出くわす。そのライオンは、まるで心が通じ合うかのように彼女に懐いたのであった。
これは、虐げられた王女が、様々な障害やすれ違いを乗り越えて、自分の居場所を見つけると共に夫となる皇帝と心を通わすまでのお話。
【完結】冷酷眼鏡とウワサされる副騎士団長様が、一直線に溺愛してきますっ!
楠結衣
恋愛
触ると人の心の声が聞こえてしまう聖女リリアンは、冷酷と噂の副騎士団長のアルバート様に触ってしまう。
(リリアン嬢、かわいい……。耳も小さくて、かわいい。リリアン嬢の耳、舐めたら甘そうだな……いや寧ろ齧りたい……)
遠くで見かけるだけだったアルバート様の思わぬ声にリリアンは激しく動揺してしまう。きっと聞き間違えだったと結論付けた筈が、聖女の試験で必須な魔物についてアルバート様から勉強を教わることに──!
(かわいい、好きです、愛してます)
(誰にも見せたくない。執務室から出さなくてもいいですよね?)
二人きりの勉強会。アルバート様に触らないように気をつけているのに、リリアンのうっかりで毎回触れられてしまう。甘すぎる声にリリアンのドキドキが止まらない!
ところが、ある日、リリアンはアルバート様の声にうっかり反応してしまう。
(まさか。もしかして、心の声が聞こえている?)
リリアンの秘密を知ったアルバート様はどうなる?
二人の恋の結末はどうなっちゃうの?!
心の声が聞こえる聖女リリアンと変態あまあまな声がダダ漏れなアルバート様の、甘すぎるハッピーエンドラブストーリー。
✳︎表紙イラストは、さらさらしるな。様の作品です。
✳︎小説家になろうにも投稿しています♪
モブの私がなぜかヒロインを押し退けて王太子殿下に選ばれました
みゅー
恋愛
その国では婚約者候補を集め、その中から王太子殿下が自分の婚約者を選ぶ。
ケイトは自分がそんな乙女ゲームの世界に、転生してしまったことを知った。
だが、ケイトはそのゲームには登場しておらず、気にせずそのままその世界で自分の身の丈にあった普通の生活をするつもりでいた。だが、ある日宮廷から使者が訪れ、婚約者候補となってしまい……
そんなお話です。
不能と噂される皇帝の後宮に放り込まれた姫は恩返しをする
矢野りと
恋愛
不能と噂される隣国の皇帝の後宮に、牛100頭と交換で送り込まれた貧乏小国の姫。
『なんでですか!せめて牛150頭と交換してほしかったですー』と叫んでいる。
『フンガァッ』と鼻息荒く女達の戦いの場に勢い込んで来てみれば、そこはまったりパラダイスだった…。
『なんか悪いですわね~♪』と三食昼寝付き生活を満喫する姫は自分の特技を活かして皇帝に恩返しすることに。
不能?な皇帝と勘違い姫の恋の行方はどうなるのか。
※設定はゆるいです。
※たくさん笑ってください♪
※お気に入り登録、感想有り難うございます♪執筆の励みにしております!
私に告白してきたはずの先輩が、私の友人とキスをしてました。黙って退散して食事をしていたら、ハイスペックなイケメン彼氏ができちゃったのですが。
石河 翠
恋愛
飲み会の最中に席を立った主人公。化粧室に向かった彼女は、自分に告白してきた先輩と自分の友人がキスをしている現場を目撃する。
自分への告白は、何だったのか。あまりの出来事に衝撃を受けた彼女は、そのまま行きつけの喫茶店に退散する。
そこでやけ食いをする予定が、美味しいものに満足してご機嫌に。ちょっとしてネタとして先ほどのできごとを話したところ、ずっと片想いをしていた相手に押し倒されて……。
好きなひとは高嶺の花だからと諦めつつそばにいたい主人公と、アピールし過ぎているせいで冗談だと思われている愛が重たいヒーローの恋物語。
この作品は、小説家になろう及びエブリスタでも投稿しております。
扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。
聖獣の卵を保護するため、騎士団長と契約結婚いたします。仮の妻なのに、なぜか大切にされすぎていて、溺愛されていると勘違いしてしまいそうです
石河 翠
恋愛
騎士団の食堂で働くエリカは、自宅の庭で聖獣の卵を発見する。
聖獣が大好きなエリカは保護を希望するが、領主に卵を預けるようにと言われてしまった。卵の保護主は、魔力や財力、社会的な地位が重要視されるというのだ。
やけになったエリカは場末の酒場で酔っ払ったあげく、通りすがりの騎士団長に契約結婚してほしいと唐突に泣きつく。すると意外にもその場で承諾されてしまった。
女っ気のない堅物な騎士団長だったはずが、妻となったエリカへの態度は甘く優しいもので、彼女は思わずときめいてしまい……。
素直でまっすぐ一生懸命なヒロインと、実はヒロインにずっと片思いしていた真面目な騎士団長の恋物語。
ハッピーエンドです。
この作品は、他サイトにも投稿しております。
表紙絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID749781)をお借りしております。
転生したらただの女子生徒Aでしたが、何故か攻略対象の王子様から溺愛されています
平山和人
恋愛
平凡なOLの私はある日、事故にあって死んでしまいました。目が覚めるとそこは知らない天井、どうやら私は転生したみたいです。
生前そういう小説を読みまくっていたので、悪役令嬢に転生したと思いましたが、実際はストーリーに関わらないただの女子生徒Aでした。
絶望した私は地味に生きることを決意しましたが、なぜか攻略対象の王子様や悪役令嬢、更にヒロインにまで溺愛される羽目に。
しかも、私が聖女であることも判明し、国を揺るがす一大事に。果たして、私はモブらしく地味に生きていけるのでしょうか!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる