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9:マオさんの「好き」と私の「好き」

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 夕食後、デザートにパイナップルを食べながら、ふと結婚したなら聞いてみてもいいかと、実は初期から気になっていたことを聞いてみた。


「あの、マオさん。今まで怖くて聞けなかったんだけど……。魔族の寿命って……その、長いの?」
「……今まで話したことがなかったか。ふぅむ……細かくはわからぬほど生きては来たが。この世界に来る時に魔力も相当に喪失しておるし、恐らくはもう然程もないであろう」

「え、然程もって……」
「セーラ、命とは有限なのだぞ? 仕方があるまい。なに、むしろ長く生き過ぎたくらいだ、ちょうど良かろう」


 先日、入籍を知り結ばれて、可愛いミートローフを頬張って、『なんて幸せ!』と浸ったところで、夫の寿命は残り少ないと聞かされるって……。こんなのあんまりではないだろうか?


「マオさん、そんなの嫌! 私を置いて逝かないで! ねぇ、医療でどうにかできることはないの? 家事は? 家事が身体に負担掛かってない? 私もきちんと分担するから、それとも魔素探しにでも行ってみる? なにか、なにか……方法が」
「セーラ、少し落ち着くのだ。家事は負担になどなってはおらぬし、分担も必要ない。このままで良い」


 どうしてマオさんは平然としていられるの? あと少ししか一緒にいられないって言うのに。マオさんの「好き」ってちょっと暇潰し程度の、そういう感覚だったの?
 マオさんとのお別れや想いを考えている内に胸も苦しくなって、ポロポロと涙が溢れた。


「……っ、どうして? 私はマオさんに長生きして欲しいのに! うぅ……あ、あと、どのくらい猶予はある?」
「セーラ……。これは予想外であったな」


 マオさんは席を立ち、泣きじゃくる私の手を取りソファへと移動させた。腰を落ち着けて、マオさんが慰めるように、頭と背中を撫でるけど、それでも私は泣くことをやめない。
 
 だってこんなにもマオさんを好きになってしまったのに、なんてこともないようにあっさりとお別れを口にされて、酷いフラれ方をしたような気分だ。
 
 抱き締めてくれているマオさんの胸元は随分と濡れて、想いの分だけ涙が広がっていく。
 

「参った、よもやセーラにこんなにも泣かれるとはな。とは言え、どうしたら良いものか。いくら元魔王と言えど、あと100年は持たぬであろうし……ふむ」
「……ひっ、く……うぅ……。。。うん? 100年?」

「うむ。ただ、この世界は魔素が少ないからな。半分の……50年ほどであろうか」
「50……年」


 作られた戸籍で見ると、確か年齢が今年で35歳(設定)だったから、85歳が寿命ってこと? でも私の方が年下だし、やっぱり先立たれる可能性が高い。
 ぴったり一緒に亡くなるなんて無理なことはわかっているけど、なるべく一人で残される時間は少ない方がいい。両親のように先立たれるなんて経験は、一度で十分だ。


「魔素があればそれなりに健康な状態を保って長生きし、セーラと共に逝けるのであろうが……。こんなにも泣き虫では、心配で先には逝けぬな」
「うん、だから長生きして」


 ギュッと泣きながらしがみ付いている私の目元を拭いながら、少し困ったように『善処する』と言ったマオさん。


 まさかの、この半年後にすごい発見をする。


***


「ただいま~! ん? なんか部屋が臭くない? っていうかマオさんの手、真っ赤だよ!?」
「ご苦労であったな、セーラ。すまない、些か我も興奮気味のようだ。手も洗わずに出て来てしまった」


 興奮!? マオさんが? 家電量販店でも興奮はしてるっぽいけど、露わにするような感じはなかったのに。
 手を洗いながらも『興奮って、一体何に?』と聞いてみた。聞くまで手を真っ赤にしたまま後ろをついてくる勢いだったもので、一緒に手洗い場へ連行です。


「なんと、キムチに魔素が含まれていることがわかったのだ!」
「えぇ!? でも今までもキムチは食べた事あったよね? ほら、焼き肉の時とか」


 話し出した途端、さらに興奮状態のマオさんに少し驚くも、内容を聞いて納得! これが本当ならすごいことだよね! 


「うむ。どうやら工場生産ではなく、イチから手作りの物のみに含まれるようでな。マダム鈴木の知り合いの韓国人が作ったというお裾分けのキムチを、昼に食した時に気付いたのだ。ならば自ら作ったらどうかと、レシピを聞き仕込んでおいたのだが、それにはお裾分けキムチの2倍の効果があった」
「キムチすごいっ!!」

「更に効果を増せるかどうかを研究しても良いが、魔法も今はほぼ使用してはおらぬし、セーラの寿命に合わせて調整しながら食すで十分であろう。これならばセーラの夜勤の日の夕食はキムチと納豆で簡単に済ませられる」
「納豆とキムチを食べるマオさん、か……見た目とのギャップがすごい。ネバネバの糸ですら楽譜の五線譜みたいに見えるんだろうね」


 その内、納豆の粒が音符になって『みょ~ん♪』と音楽を奏でだすに違いない。マオさんならコントラバスとかでも似合いそうだけど。


「食べるものにギャップとはなんだ? セーラも同じように食べるではないか」
「そこはマオさんにはきっと一生わからないことです。ふふ。でも、健康に長生きしてくれるのなら本当に嬉しい!」


『そうか』と言ったマオさんが、今度は私を見つめていた。いつもの真顔のようで、やや眉尻が下がっているように見える。困ったような、心配しているような、そんな表情。


「……セーラも、なのだぞ? ある程度は我が健康管理をしてはおるが、寿命以外で我を置いて逝くことは許さぬ」
「っ……はい! 私も善処します」


 嬉しくて満面の笑みで答えた。


 マオさんの「好き」も、ちゃんと私と同じ「好き」だったから。



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