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学園ライフをエンジョイしたい!<後編>
7:赤ずきんちゃんは、あらすじを思い出す ☆
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イチャコラ見せつけ祭もとい、文化祭もいよいよ終わりが近づいてきた。
登校時は当たり前に赤い絆で繋がっていた私とルティですが、朝会、終会前はルティは一度教務室へ行かなければならないので、その時はゴーちゃんと兄妹の絆として手首同士が繋がっている。
私は散歩中のペットか……
教室へ近づくと、まさかの廊下にはすでに配布終了している整理券を待つ列ができていた。
とは言え、間もなく終会前だし、今は整理券を持つ人以外の列組は禁止にしている。そもそも廊下も他のクラスの生徒にとっては邪魔になってしまう。
とにかく整理券がなくても一目見ようと殺気立っている彼女らを刺激するのは危険なので、どうせならそれを上回る刺激で帰って頂こうと思う。
「キラ君おはよ!ほらほら、ファンサ!今こそファンサをしてきなよ!!」
「戻ったと思ったらお前、急になんだよ【ふぁんさ】って」
「ファンサービスのファンサだよ!!見てみなよ、廊下に並んでいる子達の中にはきっとキラ君のファンもわんさかいるんだよ?」
「わんさか!?いや、まぁいるか……」
「そこにお目当てのキラ君がドーンと出てさ『子猫ちゃん達、良い子は教室に戻りな、俺はいつでもここで待ってるからさ。投票ヨロシクね♡』ってバチコーンとウインクかましといたらいいんじゃないかな?知らんけど」
「適当かよ!!……うんまぁでも、ポイントを稼ぐのにもいいかもしれないな。やってみるか…」
「ひゅう~やるぅ!!さすが王子キャラ!!よっ王子っぽいやつ!!」
「キャラじゃなくて王子なっ!!ゴーシェ、いい加減この妹をちゃんと教育しろよ!」
「あはは、アオちゃん口笛できないんだね~『ひゅう~』って口で言っちゃってるじゃない。でもそのままの方が可愛いから出来なくてもOKだよ!」
「え、そう?実は密かに練習してるんだけど『スースー』しか鳴らなくて。じゃあこれからも口で言うね!」
「このアホ兄妹がっ!!」
プリプリ怒りつつもしっかり顔を王子風に作り変えて行く辺り、やはりあいつモテたいんだな、とわかる。一応自称プロデューサーとしては、見届ける責任があるので、しっかり堂々と覗く。
しかし、不幸の星の元にお生まれになったのか、自称高貴な王子キラ君が廊下を出たと同時に、反対側から私の指示通り、ビン底メガネを頭に引っかけてフラフラと歩いてくるボーン君が……
「おい、そこの子猫ちゃ…」
「「「「きゃーーーーーーーーーーーー♡♡♡」」」」
一気に歓声、奇声、雄叫びのようなものまで混ざり騒ぎ出した。もちろん、「子猫ちゃん」を最後まで言えなかったキラ氏にではなく、ボーン君に、である。
「え、え??なに、なんだい???なんだか人だかりがすごくないかな?ねぇイーロさん、なにか事件でもあったのかい?」
「きゃ、きゃーーーーー♡♡顔が、お顔がちちちちち近ぃ!!はぁぁぁぁ…」
まさかのド近眼なボーン君の無自覚ファインプレー。全く違う女子に、超至近距離まで顔を近づけ話し掛けるという神ファンサ!!もちろん女子は、倒れた。良い夢の続きを見ろよ……
「ねぇ、キラ~!すごく歩きづらいし、この人たちには教室戻ってもらおうよー。ねぇ、聞いてる?」
「ひゃっ!きゃーーーバックハグ……♡あっ、もう無理……」
そもそも制服スカートの女子とキラ君を間違えて、後ろからしがみつくという……胸を高鳴らせるどころか、むしろ止めにいっている気さえする。しかも後ろから『ねぇ?』って覗き込んだら鼻血かぶるぞ?
おそらく今倒れた女子もしばらく貧血が続くことだろう……レバー推奨
この歩く無自覚ファンサ過多のお陰で、廊下には死屍累々とまさにボーン君に骨抜き状態にされた女子たち。プロフィールに『趣味・特技:骨を抜くこと。骨を抜くのが早いこと』と書いてあるらしいが、強ち間違いではない。
そして、入り口で固まったままの元王子風のキラ君……相手とタイミングが悪かったな
「ドンマイ……キラ君」
「あはは、キラ残念だったねぇ~」
「くぅっ……」
人のこと言えないけど、ゴーちゃんも思い切り傷を抉るね。なんか恨みでもあった?楽しそうで何よりだけど。キラ君、陰で泣いてるけど、またの機会に頑張れ~!!
***
私、いや私達の方もアピール作戦は最後まで続いていた。少し学食で軽食を食べようとなった際も、サンドが乗ったトレーを運ぶのだけど、彼は私の背後にいて、私が支えているトレーの手を上から被せ気味に握り、一緒に運ぶという……なんとも運び辛いやり方!!
しかも、後ろから抱き締められながら運んでいるみたいで恥ずかしい!!ファンと同じ気持ちだよ!!鼻血出そうっ!
それに絶対自分の顔や声の強みをわかっているんだと思うんだけど、やたらとフェロモンを放出させていて、ただの『可愛いですね!』って台詞すら普通に言わない。
少し吐息が耳元にかかるようにフッと笑ってから『可愛い…』と囁くような低めの声で言ってくるし!今日の私は不整脈気味に違いない……もうずっとドキドキしてる
彼的ベストカップルを狙っているという気持ちは本物のようだ……今日は、見せに見せつけまくっていた
そんな元々は罰として始まったイチャコラ見せつけ作戦が功を奏したのか、もしくは学園内全ての生徒に見られようとルティが練り歩いたせいなのか?本当にコスプレ投票は私達が1位だった。
感想欄なんてないのに、投票用紙の隙間や裏面に『先生の仮装がものすごくドキドキしました、鞭でぶたれたいです』や『赤い鎖が背徳的ですごくいい』、『女の子は可愛い服装なのに、先生が軍人なので妙にエロい』等々、評価がSM寄りな感じなのが釈然としない。匿名なのをいいことに、好き放題だな。
余計なことは言わないけど、どう見てもほぼルティ票だと思う。私が庭師コーデのままでも変わらなかったんじゃないか?
ここで「どうせ私なんて…」って思うか?思わない、思わない!自分はモブ凡人ってちゃんと理解して、地に足着けてますからね。周りに美形しかいないんだもん、勘違いしようもないって
それにしても、二位のボーン君も『視力悪いせいか距離感が近い、死ぬ♡』、『友達との絡みを見て、なにか違う扉を開いた気がする』、『そもそも顔の色気がヤバイ』と、こちらも仮装関係ねーじゃんと思う感想を賜る。
三位のゴーちゃんも似たような感じで、結局は『神父なのに漏れ出る色気がヤバイ』、『この神父に告解しに行きたい』、『封印されてみたい』と魔国らしいっちゃらしい、投票結果だったと言える。
それでも、ルティの目標も達成されたし、仮装もとても評判が良かったので、これで少しは私の罪も何割かは償えたのならいいなぁと思いながら、文化祭は閉幕した。
***
片付けも終わり、放課後ルティが『せっかくなので、このままの格好で母上達にも見せに行きましょうか』というので、姿絵もいいけど、確かにこんな機会でもないと着ないし、わざわざ日をずらして着替えて行く事もないだろうと二つ返事でOKした。もちろん、愛の鎖は外してもらったけど
アイさんは、とても褒めてくれたけど、どちらかといったら【商売人の目】をしていたというか……姿絵も飾るとは言っていたけど、なにやら参考資料代わりにしそうな勢いだった。いつの日かコスプレのフェスでも開かれる日が来るのかもしれないと、密かに応援することにする。
アイさん達と一緒に夕飯を食べ、じゃあそろそろ魔国にでも帰ろうかという時間になった頃、『もう少しだけ二人で過ごしたいので、私の家でお茶でも飲んでから帰りませんか?』と誘われ、もちろんと頷いた。
そろそろ魔国の夜は気温が下がる季節だし、せっかくだからお風呂に入ってから帰るのもいいかもしれない。散歩しながら向かうにも道中暗いので、転移でさっくり行くことに
「そういえばアオイ、今日は大変ご満足頂けたようですけど、なにか忘れておりませんか?」
「なにか?えー…なんだろ?姿絵はたくさん描いてもらったし、小物も買ったし……あっ!」
「思い出しました?」
「ルティのお土産が足りないってことだよね!?あぁ~~私のばっかりで、気が利かなくてホントごめんね。焼き菓子だったら大量に買い占めたし、一緒に食べる?」
別腹スイーツとばかりに、一番小さいクッキーをひょいっと摘まみ、ルティに差し出した。ナッツ入りだから彼にはこれがいいだろう。それに香ばしくて一番美味しかったし。
「いえ、焼き菓子はアオイに差し上げますから、あとで少しずつお食べなさい。私はそれだけでは足りないくらい空腹に耐えていたのです」
「えぇ!!ルティが空腹を訴えるなんて、珍しいこともあるんだね。今日は魚料理だったからやっぱり男性には量が足りなかった?もう!お代わりしたら良かったのに…」
私ですら魚料理の時は少し大きめを用意してもらっているのに、そもそも身体の大きなルティが普通の量で足りるっていうのが不思議だったんだよね。魔素吸って生きてきたような人でもあるんだけどさ
なんならお代わりしてくれたら『あ、私も~』とか言ったのになぁ。久々の川魚は美味だった
「ええ、アオイの捜索や修繕にも結構魔力を消費しましたし、あれからずっと昂ったままの状態を耐えているのですよ」
「ルティの魔力量で結構消費って、相当ってこと?それって大丈夫なの!?」
「はい、ですからそろそろメイン料理を頂きたいと思いまして……ねぇ?アオイ」
「メインってお肉料理とか?ここで料理するってこと?それで魔力回復するなら作るけど…えと、材料はどこに……?」
材料でも探そうかとソファから立ち上がりかけた私を、ルティは閉じ込める様に手を着いた。そして、そのままゆっくりと膝まで乗せてきて、まるで本物の狼が獲物を狙うように近づいて来る。私は戸惑いながら後ろに下がる内に追い詰められて、ついにはソファに倒れ込んでしまった。
目を瞬かせて、何が何だかわからない顔をしている私を見て、彼はしょうがないですねとばかりに、見下ろしたままこう言った
「赤ずきんちゃんは、飢えた狼さんに食べられてしまうお話なのですよね?
アオイはもう十分満たされたようですし、次はずっと空腹を我慢していた私が満たしても宜しいですよね?赤ずきんちゃん……」
「――…あっ!!」
「イタダキマス……」
気付いた時にはもう遅い。赤い舌をちろりと覗かせた銀狼さんに、唇はぽってりするほど散々食まれ、甘噛みまでされて……赤ずきんちゃんの物語同様、あっさり食べられてしまいましたとさ。
「愛で足し、愛で足し、ですね」
「めでたくない!全然ちがーう!!」
イチャコラ見せつけ祭もとい、文化祭もいよいよ終わりが近づいてきた。
登校時は当たり前に赤い絆で繋がっていた私とルティですが、朝会、終会前はルティは一度教務室へ行かなければならないので、その時はゴーちゃんと兄妹の絆として手首同士が繋がっている。
私は散歩中のペットか……
教室へ近づくと、まさかの廊下にはすでに配布終了している整理券を待つ列ができていた。
とは言え、間もなく終会前だし、今は整理券を持つ人以外の列組は禁止にしている。そもそも廊下も他のクラスの生徒にとっては邪魔になってしまう。
とにかく整理券がなくても一目見ようと殺気立っている彼女らを刺激するのは危険なので、どうせならそれを上回る刺激で帰って頂こうと思う。
「キラ君おはよ!ほらほら、ファンサ!今こそファンサをしてきなよ!!」
「戻ったと思ったらお前、急になんだよ【ふぁんさ】って」
「ファンサービスのファンサだよ!!見てみなよ、廊下に並んでいる子達の中にはきっとキラ君のファンもわんさかいるんだよ?」
「わんさか!?いや、まぁいるか……」
「そこにお目当てのキラ君がドーンと出てさ『子猫ちゃん達、良い子は教室に戻りな、俺はいつでもここで待ってるからさ。投票ヨロシクね♡』ってバチコーンとウインクかましといたらいいんじゃないかな?知らんけど」
「適当かよ!!……うんまぁでも、ポイントを稼ぐのにもいいかもしれないな。やってみるか…」
「ひゅう~やるぅ!!さすが王子キャラ!!よっ王子っぽいやつ!!」
「キャラじゃなくて王子なっ!!ゴーシェ、いい加減この妹をちゃんと教育しろよ!」
「あはは、アオちゃん口笛できないんだね~『ひゅう~』って口で言っちゃってるじゃない。でもそのままの方が可愛いから出来なくてもOKだよ!」
「え、そう?実は密かに練習してるんだけど『スースー』しか鳴らなくて。じゃあこれからも口で言うね!」
「このアホ兄妹がっ!!」
プリプリ怒りつつもしっかり顔を王子風に作り変えて行く辺り、やはりあいつモテたいんだな、とわかる。一応自称プロデューサーとしては、見届ける責任があるので、しっかり堂々と覗く。
しかし、不幸の星の元にお生まれになったのか、自称高貴な王子キラ君が廊下を出たと同時に、反対側から私の指示通り、ビン底メガネを頭に引っかけてフラフラと歩いてくるボーン君が……
「おい、そこの子猫ちゃ…」
「「「「きゃーーーーーーーーーーーー♡♡♡」」」」
一気に歓声、奇声、雄叫びのようなものまで混ざり騒ぎ出した。もちろん、「子猫ちゃん」を最後まで言えなかったキラ氏にではなく、ボーン君に、である。
「え、え??なに、なんだい???なんだか人だかりがすごくないかな?ねぇイーロさん、なにか事件でもあったのかい?」
「きゃ、きゃーーーーー♡♡顔が、お顔がちちちちち近ぃ!!はぁぁぁぁ…」
まさかのド近眼なボーン君の無自覚ファインプレー。全く違う女子に、超至近距離まで顔を近づけ話し掛けるという神ファンサ!!もちろん女子は、倒れた。良い夢の続きを見ろよ……
「ねぇ、キラ~!すごく歩きづらいし、この人たちには教室戻ってもらおうよー。ねぇ、聞いてる?」
「ひゃっ!きゃーーーバックハグ……♡あっ、もう無理……」
そもそも制服スカートの女子とキラ君を間違えて、後ろからしがみつくという……胸を高鳴らせるどころか、むしろ止めにいっている気さえする。しかも後ろから『ねぇ?』って覗き込んだら鼻血かぶるぞ?
おそらく今倒れた女子もしばらく貧血が続くことだろう……レバー推奨
この歩く無自覚ファンサ過多のお陰で、廊下には死屍累々とまさにボーン君に骨抜き状態にされた女子たち。プロフィールに『趣味・特技:骨を抜くこと。骨を抜くのが早いこと』と書いてあるらしいが、強ち間違いではない。
そして、入り口で固まったままの元王子風のキラ君……相手とタイミングが悪かったな
「ドンマイ……キラ君」
「あはは、キラ残念だったねぇ~」
「くぅっ……」
人のこと言えないけど、ゴーちゃんも思い切り傷を抉るね。なんか恨みでもあった?楽しそうで何よりだけど。キラ君、陰で泣いてるけど、またの機会に頑張れ~!!
***
私、いや私達の方もアピール作戦は最後まで続いていた。少し学食で軽食を食べようとなった際も、サンドが乗ったトレーを運ぶのだけど、彼は私の背後にいて、私が支えているトレーの手を上から被せ気味に握り、一緒に運ぶという……なんとも運び辛いやり方!!
しかも、後ろから抱き締められながら運んでいるみたいで恥ずかしい!!ファンと同じ気持ちだよ!!鼻血出そうっ!
それに絶対自分の顔や声の強みをわかっているんだと思うんだけど、やたらとフェロモンを放出させていて、ただの『可愛いですね!』って台詞すら普通に言わない。
少し吐息が耳元にかかるようにフッと笑ってから『可愛い…』と囁くような低めの声で言ってくるし!今日の私は不整脈気味に違いない……もうずっとドキドキしてる
彼的ベストカップルを狙っているという気持ちは本物のようだ……今日は、見せに見せつけまくっていた
そんな元々は罰として始まったイチャコラ見せつけ作戦が功を奏したのか、もしくは学園内全ての生徒に見られようとルティが練り歩いたせいなのか?本当にコスプレ投票は私達が1位だった。
感想欄なんてないのに、投票用紙の隙間や裏面に『先生の仮装がものすごくドキドキしました、鞭でぶたれたいです』や『赤い鎖が背徳的ですごくいい』、『女の子は可愛い服装なのに、先生が軍人なので妙にエロい』等々、評価がSM寄りな感じなのが釈然としない。匿名なのをいいことに、好き放題だな。
余計なことは言わないけど、どう見てもほぼルティ票だと思う。私が庭師コーデのままでも変わらなかったんじゃないか?
ここで「どうせ私なんて…」って思うか?思わない、思わない!自分はモブ凡人ってちゃんと理解して、地に足着けてますからね。周りに美形しかいないんだもん、勘違いしようもないって
それにしても、二位のボーン君も『視力悪いせいか距離感が近い、死ぬ♡』、『友達との絡みを見て、なにか違う扉を開いた気がする』、『そもそも顔の色気がヤバイ』と、こちらも仮装関係ねーじゃんと思う感想を賜る。
三位のゴーちゃんも似たような感じで、結局は『神父なのに漏れ出る色気がヤバイ』、『この神父に告解しに行きたい』、『封印されてみたい』と魔国らしいっちゃらしい、投票結果だったと言える。
それでも、ルティの目標も達成されたし、仮装もとても評判が良かったので、これで少しは私の罪も何割かは償えたのならいいなぁと思いながら、文化祭は閉幕した。
***
片付けも終わり、放課後ルティが『せっかくなので、このままの格好で母上達にも見せに行きましょうか』というので、姿絵もいいけど、確かにこんな機会でもないと着ないし、わざわざ日をずらして着替えて行く事もないだろうと二つ返事でOKした。もちろん、愛の鎖は外してもらったけど
アイさんは、とても褒めてくれたけど、どちらかといったら【商売人の目】をしていたというか……姿絵も飾るとは言っていたけど、なにやら参考資料代わりにしそうな勢いだった。いつの日かコスプレのフェスでも開かれる日が来るのかもしれないと、密かに応援することにする。
アイさん達と一緒に夕飯を食べ、じゃあそろそろ魔国にでも帰ろうかという時間になった頃、『もう少しだけ二人で過ごしたいので、私の家でお茶でも飲んでから帰りませんか?』と誘われ、もちろんと頷いた。
そろそろ魔国の夜は気温が下がる季節だし、せっかくだからお風呂に入ってから帰るのもいいかもしれない。散歩しながら向かうにも道中暗いので、転移でさっくり行くことに
「そういえばアオイ、今日は大変ご満足頂けたようですけど、なにか忘れておりませんか?」
「なにか?えー…なんだろ?姿絵はたくさん描いてもらったし、小物も買ったし……あっ!」
「思い出しました?」
「ルティのお土産が足りないってことだよね!?あぁ~~私のばっかりで、気が利かなくてホントごめんね。焼き菓子だったら大量に買い占めたし、一緒に食べる?」
別腹スイーツとばかりに、一番小さいクッキーをひょいっと摘まみ、ルティに差し出した。ナッツ入りだから彼にはこれがいいだろう。それに香ばしくて一番美味しかったし。
「いえ、焼き菓子はアオイに差し上げますから、あとで少しずつお食べなさい。私はそれだけでは足りないくらい空腹に耐えていたのです」
「えぇ!!ルティが空腹を訴えるなんて、珍しいこともあるんだね。今日は魚料理だったからやっぱり男性には量が足りなかった?もう!お代わりしたら良かったのに…」
私ですら魚料理の時は少し大きめを用意してもらっているのに、そもそも身体の大きなルティが普通の量で足りるっていうのが不思議だったんだよね。魔素吸って生きてきたような人でもあるんだけどさ
なんならお代わりしてくれたら『あ、私も~』とか言ったのになぁ。久々の川魚は美味だった
「ええ、アオイの捜索や修繕にも結構魔力を消費しましたし、あれからずっと昂ったままの状態を耐えているのですよ」
「ルティの魔力量で結構消費って、相当ってこと?それって大丈夫なの!?」
「はい、ですからそろそろメイン料理を頂きたいと思いまして……ねぇ?アオイ」
「メインってお肉料理とか?ここで料理するってこと?それで魔力回復するなら作るけど…えと、材料はどこに……?」
材料でも探そうかとソファから立ち上がりかけた私を、ルティは閉じ込める様に手を着いた。そして、そのままゆっくりと膝まで乗せてきて、まるで本物の狼が獲物を狙うように近づいて来る。私は戸惑いながら後ろに下がる内に追い詰められて、ついにはソファに倒れ込んでしまった。
目を瞬かせて、何が何だかわからない顔をしている私を見て、彼はしょうがないですねとばかりに、見下ろしたままこう言った
「赤ずきんちゃんは、飢えた狼さんに食べられてしまうお話なのですよね?
アオイはもう十分満たされたようですし、次はずっと空腹を我慢していた私が満たしても宜しいですよね?赤ずきんちゃん……」
「――…あっ!!」
「イタダキマス……」
気付いた時にはもう遅い。赤い舌をちろりと覗かせた銀狼さんに、唇はぽってりするほど散々食まれ、甘噛みまでされて……赤ずきんちゃんの物語同様、あっさり食べられてしまいましたとさ。
「愛で足し、愛で足し、ですね」
「めでたくない!全然ちがーう!!」
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