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学園ライフをエンジョイしたい!<後編>
2:ホップ!ステップ!!ジャーンプ!!!で穴にポチる
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学園内には酢橘の木が植えてある。それもたわわに実がついている、2mくらいのとても立派な酢橘の木だ。
初めて見た時は正直、全く気付かなかった。さすがに実も生っていないのに、酢橘の木だとわかるほど、果樹フリークではないもので。
そういった意味で、気付いたのは小ぶりの実をつけ始めた夏休み前頃。木になにか実が生っていると、とりあえず『あれって食べれるやつかな』と一度は考えてしまう癖が功を奏して気付くことができたってわけですね。
誰にも聞かれていないけど、私は酢橘が好きだ。酢橘ぶっかけうどんが、めちゃくちゃ食べたい。唐揚げにレモン。うん、好きだ。でもさ、酢橘も合うのよ!酢橘ジュースとか、酢橘サワーで一杯とか……じっとりと暑い夏を乗り越えた身体がさ、『この辺でさっぱりしたもの食べたくね?』って囁いてくるんだもの。
しかしながら私だって、きちんと大人は経験して来ましたし?無断で果実泥棒はやっちゃいかんことくらいわかっておりますともさ、ええ。
だから、この学園の最高責任者のチュチュアート学園長先生に、正門で朝の挨拶をする際、メモ紙をスッと渡したのよ【学園内に生っている酢橘の収穫OK?】って。翌日また挨拶に通った際に【いくらでも】と書かれた小さいメモ紙を、わざと落としたハンカチに挟んで渡してくれた。ニヤリ…
すぐにハンカチからメモ紙を外したから良かったけど、学園長先生が触ったからと言って、ルティのハンカチと交換没収されたのは如何なものかと思うが、どうにかバレずに許可を得た。別の汗を掻いたぜ
そして今、ようやく考えに考え抜いた作戦を決行すべく、唯一男女別れる、体育着の着替えの合間を使って、酢橘収穫を目論んでいた。
少々友達を騙すのは心苦しかったし、自分の精神ダメージも若干犠牲にしたものの、集団の輪から抜けることに成功した。まぁ着替え途中でお腹痛くなったけど、病気じゃないよ~的な、ね。
付いて来るって聞かなかったけど、そんなの見張られたい人いないよねって話で。とりあえず3、4個ほどもいで戻ればいいやって考えだったのよ。
なんたって、女子更衣室に最寄りのトイレの更に奥に進んだところに木があったからね。余裕で戻れる距離なのよ。それに、もし戻った時にトイレ前に友達がいたら、『すぐ治って、そしたらこれ見つけちゃってさ~。えへ☆』って誤魔化そうかなって。我ながら完璧だと思ったわけです
軽やかな足取りで…でもバレちゃいけないから、脳内で鼻歌ふんふん歌ったりして、スキップがてら一番手前に生っていた酢橘目掛けて『ホップ!ステップ!!ジャンピングゥ~!!』って言いながら、プチンと一つ実をもいで…………着地!!
おかしい……未だに着地しない、私落ちてないか?
「ギャーーーーーーー!!死ぬぅ!!あ、結界!結界だよ!!あと風魔法で……お尻に、風魔法!!」
ボイ~ン、トスン!!と結界×風魔法のコラボが私の命を繋いでくれたと思うのだけど。そもそも床がふわふわしているような……?ようやく地面に着いたと思ったけど……ここどこ?あ、これベッドだったのか!?なんか部屋っぽいような……?こんな高度な落とし穴掘って、ついでに部屋作った奴は誰だよ!!
「誰かいませんか~?穴に落ちましたーごめんなさーい!!」
なんか登校初日にも助けを求めた気がする。なんなの?黙って酢橘を収穫しに来たことがそんなに罪なことだったわけ?
そりゃあ、せめてゴーちゃんくらいは言うべきだったと思ってるけど。なんか食べ物探しに学園来てるんですか?みたいに思われたらイヤだし。キラ君も絶対冷やかすでしょ?論外だわ
それにさ、たまにはサプライズってやつをしたかったのよ。帰ったら厨房借りてうどん打ってさ、美味しい酢橘ぶっかけってやつを食べさせてあげたかったのに……ごめん、色んな意味でサプライズになってしまったよ……事件に発展したらどうしよ
落ちて来たと思われる天井を見上げるけど、なぜか外の光もなにも見えない。真っ直ぐに落ちたはずなのに……あ、転移すればいいじゃん!って思ったけど。。。ここ学園内は転移できないように制限されているのだったと思い出す
【どないしよ 悲しかりけり 絶望す】思わず、五七五の川柳詠んじゃったわ
だいぶ遠い目をしながら、片手に酢橘をしっかり握りしめてる女子。死んでもお前は離さない……とは言え、穴の出口は上だろうし、下は6畳くらいの広さはあれど、抜け道などは全くないという、詰んでる状態だった。
いよいよ、とりあえず一度泣いておくかと思ったところで、上空から何やら叫び声が!!
『やった!良かったぁ!!誰か気付いた人がいたんだぁ……助かったぁぁぁ』と、それはもう心の底から安堵した。
目の前に、新たに犬が落ちて来なければ……なぜ犬!?
***
「イテテテテ……なんだよ、着地前に獣化してなかったら大ケガじゃ済まねーだろーが!」
ついさっきは大型犬の真っ白なボルゾイのような犬だったと思うのだけど……今は半獣化なのかこれが普通なのか?真っ白な髪に半折れの耳、長い尻尾だけはそのままに、人型をとっている。そして足なっが!
「あのぉ~……もしもし?もしかして獣人族の方ですか?」
「ん?あっ!!さっき落ちて行った女の子は君だったのか。ケガはないかい?」
「あ、はい。多分、私です。それで、あのお兄さんは助けに来て下さったんですか?」
「あー…そのつもりだったんだ。あの辺りで休憩していたら君がスキップしながら歩いていて、どんな良い事でもあったのかと眺めていたら、忽然と消えたものだから……だけど、この通り。自分も落ちてしまった。すまない」
なんてこった……助けではなかったショックもあるけど、私のせいで関係ない人を巻き込んでしまったという罪悪感。ケガをしていなくて良かった
「あの、本当に私のせいで……ごめんなさい!!」
「いや、オレの方こそ……カッコよく助けてあげたかったんだけど。ははは」
「そんなことないです。正直、すごく心細くて……一回泣いておこうかって思ってたところだったんです」
「一回泣いておこうって……面白いね。しかし、せっかく護衛も雇っていたのに学園内は安全かと思って、今日は早めに帰してしまった……失敗したなぁ」
「えぇ!!私のせいで、本当に、本当にすみません!!」
「いやぁ、別に大丈夫だよ。あ、そういえば自己紹介しておこうか。オレは見ての通り獣人の国から来た、犬獣人のワンダホー☆ポチだ!一応、シンガーソングライターをやってる。デビュー曲は【恋のワンダホー】だけど、知ってる?ここの文化祭にゲストで呼ばれて、今日は早めに下見に来ていたんだ。」
ポチ……え、名前がポチ?なんで、ポチ?すんごい手足も長くて、切れ長の青い瞳のクールガイが、なぜ!?
「あ、ポ、ポチさん、私はアオイ=タチバナと言います。この学園の魔法科の生徒です。ポチさんは、あの本名ですか?それとも芸名ですか?」
「あれ?そういうの気になる?そうだね、ポチは略称で、正式には<ポルチッツェアーノ>って言うんだけど、同じ犬族でも舌を噛みやすいから、よくポチって呼ばれてる。ワンダホーは学生時代に長年ワンダーフォーゲル部に属していたから、そこからだね。山を走るのって最高だよ」
ポ、ポルツァ…ポル…言えねー…うん、ポチ良い名だわー。やはりワンコは走り回るのが好きなんだね。てっきり犬だからワンダホーとか言ってるのかと思ってました。
「じゃあ、私もポチさんって呼んでいいですか?」
「ああ、構わないよ。では、オレはアオイちゃんと呼ぶよ」
簡単な自己紹介後、おそらくここは魔法で掘られた穴で、地上から穴は見えないし、地下から地上も見えないように魔法で細工されてるようだと聞かされた。
「推測の域でしかないけど、落ちた穴から直接地下室に真っ直ぐ落ちているわけではなくて、ここは学園内のどこか別の場所に繋がっているんじゃないかな?」
「ちょっとした転移みたいな感じでしょうか?」
理由としては地上から地下にいる私の気配も魔力も感じることはできなかったけど、地下に落ちてからはわかるようになったので、完全に穴の上と下は別々の空間ではないかとポチさんは推測した。
「それじゃあ、どうやってここから出たら…あと200mくらい進んだら学園の外に出られるはずだから、そうすれば正門前に転移することもできるって思ってたのに……」
「移動…?移動か……ん?」
思案している途中で、ポチさんの半折れ耳がピクっと反応し、何か聞こえるのか?目を閉じ集中していた。私も集中の邪魔にならないように、ジッと黙って様子を伺うことにする。
「……アオイちゃん、運が良いみたいだぞ?この付近で魔獣モグリーナが地下工事をしてるようだ。こいつを利用して学園外へ出よう」
「モグリーナ?……え、魔獣って今言いませんでした?あ、あの、私こう見えて弱小の人族でして、なんの力も大してないモブ中のモブと言いますか、冒険者登録もしてますけど、名前だけですし……」
「ここから抜け出す為に、一緒に戦おうぜ!」とか言われれも、一撃目で死ぬ自信しかない。
「ははは!アオイちゃんが人族なのは臭いでわかるさ。そもそも獣人なら皆わかるよ。それにアオイちゃんには番もいる、だろ?
だとすれば、今頃は自分の番がいないことに気が付いて、血眼で探しているんじゃないのか?同じ人族?獣人の番なら発狂レベルだな。自分の番の臭いも、魔力も、気配すらも感じないなんて…地獄でしかない」
「あ、いえ、彼はエルフ族なんです」
「え?エルフ族なんだ。中々珍しい組合せだね。じゃあ、エルフ族なら割と淡泊な性格してる奴が多いし、そんなに嫉妬もしない系?むしろ、アオイちゃんの方が熱をあげてるのかな?」
「いや、まぁそう……なんですかね?」
「エルフ族は美形だもんなぁ。まぁ、まだ俺には番はいないから羨ましいよ」
陽気に笑っているけど……臭いで番がいるってバレた恥ずかしさより、リアルに血眼になって探すルティが想像できることが恐怖でしかない。熱をあげてるなんて久々に聞いたが、否定はしない。だけど、エルフ族淡泊理論から大きく道を外れているのが、私の恋人なわけでして。
これはお説教なんて生温いレベルのものじゃなくて、監禁でもされるか、リードでも着けられたりするのではなかろうか……私は穴に残るべきか?いや、それよりも騙してしまった女子に迷惑だけは掛けないよう、ここだけはなんとしても守り抜こう
なんだかんだ、魔獣モグリーノとのご対面より、恋人に再会する方が無双よりも怖いってなんだろうか。私は別の意味で、これから死地に向かいます……一筋の涙、と敬礼
「よっし!じゃあ、オレの熱いビートで魔獣モグリーノを誘い出すぜ!アオイちゃんは念の為、オレの真後ろに隠れてな」
「何から何まですみません!宜しくお願いします!!」
ポチさんはどこからかアコースティックギターを取り出し、軽くチューニング。そして思い切り歌い出した
「あ、ワンがツー、あ、ワンワン315!!
♪ワオーン!アオーン!俺とお前の愛の遠吠え、二人丸くなって、じゃれ合って、一緒に行こうよ山に、互いの毛並みを舐め合うよ永遠に~♪」
やっぱり、犬意識めちゃくちゃあるやん!
そして声はいいけど、歌詞に全く共感できない……
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