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夏休みをエンジョイしたい!

3:私は凡庸な人族だと、いい加減気づいて欲しい

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 気の利く女子ならば「うわぁ♡可愛いドレスがたくさんで選べなぁい!」とかって言うべきなんでしょうか?あ、でも一つは言えそうだ


「選べない」

「ん、なんですか?気に入ったものはありますか?」
「アオちゃんの好きなドレスを選んでいいんだよー」

 いや……選べねぇ。これ何十着あんの?まさか……全て試着しろと?これはガチなやつだな。
 だって今はまだAM9時。なのにデザイナーさんやお針子さんがいるしね。ちょっと見るとか、飾りで置いてあるわけじゃないよね?そのドレスたち。
 
 私が悪役令嬢よろしく『気分が乗らないから帰ってくださる?』などと言えるようなら楽だったんだけど、きっと頑張って作ってくれたんだろうなって…お針子さん達の目の下のクマを見て、そんなセリフを吐けるわけがない。そしてそれに気づいてしまったら、逆にどれを選んだら正解なのかがわからない……

「……だから選べない」
「やはり、アオイもそう思いますか……」


 え?まさか同意してもらえるとは……さすがにルティも多すぎだと思ってくれたのかな?数揃っちゃうと圧巻っていうかね、わかるでしょ?


「どれもアオイに似合うと思い、デザイン致しましたので…どれを選んだとしても間違いなく似合ってしまうと思うのですよ。一応手直しの為の針子も準備させておりますが、サイズはぴったりのはずですし」


 ん?なんで君が私のサイズをピタリとわかっているのか……は、もうこの際怖いから聞かないでおこう。こういうのも手馴れてきたな私


「アオちゃん、本当にどれでも似合うと思うから、まずは好きな色からとかデザインからとかに絞ってみたら?」
「好きな色……う~ん」

「ほら、この辺りからなんていかがですか?」
「この辺りって……シルバー、ラズベリー色……」


 これは覚えた。ルティの色系統だね?明らかに押してる感あるし、心なしかそっちの系統の方が種類も多いような?それなら、やっぱりその中から選ぶ方がいいのかな


「じゃあ、ラズベリー色のものを並べてもらってもいい?」
「ラズベリー色ですね!!私もイチオシだったのですよ」


 でしょうね。うまく散らせているようで、この二色が全体の7割を占めていると思うんだよね。絶妙に全く同じ色にはしていないんだけど
 
 こうしてラズベリー色だけのものを並べてもらっても、本当に全く同じ色はないっていうか、生地だったり、柄が入ったり、デザインだったりで印象が違って見える。
 でも色を決めたことで選択肢が多少は減り、選びやすくもなった


「あ、このエンパイヤドレスいいかも!これだとコルセットとかいらないんじゃない?それにラズベリー色の生地の上に花柄のレースが被せてあって、可愛いかも」

「コルセットは習慣がない者にはキツイだけですし。アオイには不要だと思っておりましたので、ほとんどがコルセットを使用しないデザインにしてあるのですよ」

「本当にルティが全てデザインしたの……?一体そういうのってどこで学んでくるの?」
「参考にしたのはアオイが『ザッシ』と呼んでいるものの中にドレスを着ている女性のページがあったので、そこからイマジネーションを働かせました」


 冒険者、デザイナー、コーディネーター、宝石加工職人、調理師、大工、教師、オカン……彼の履歴書にまた一つ加わる事となる。
 
 考えちゃいかんのですが、どうして私はこんな人と付き合えているのかナゾ過ぎる。好かれているからとあぐらをかいてはいけないな、とはもちろん思っている。
 かと言って、こんなスパダリにどう対抗していったらいいのかもわからない。いや、別に戦わなくてもいいのだが。
 
 言い方悪いけど、ルティが私と付き合っていることに一体なんのメリットがあるの?と思うと言いますか。卑屈過ぎるかな……

 未経験者な私の、方々から得た情報によれば、恋なんてものは一生続くものではない、と思う。恋は一人称というか自分本位なもので、一人でもできること。
 
 愛は二人称、相手にしてあげたい、二人の為にこうしたいっていう、相手を想い、想われる気持ちだもんね。まさに『愛』は真ん中に『心』がある、真心ってやつだよね
 
 そういう意味で、恋→恋愛→愛→愛情→情と段階別で見たならば……私は「恋愛」の段階なのだろうか。そしてルティは……もう「愛」の領域まで入っているのかな?
 いや、そういう段階なんて指標なんぞは「しゃらくせぇ~!」とばかりに、全てぶち壊している可能性も無きにしも非ずか
 
 でも、彼の場合はもう没我ぼつがの領域まできているのでは?と思うくらい、自分のことよりまず私。とにかく「私の為」の比率がスゴイ。執着めいた愛のようにも思えるけど
 そんな彼の熱量に追いつく時がいつか来るのだろうか?とはいえ、愛を正確に測ることなんてできないのだけど……


「はぁ、スゴイ……」

「ええ、本当に素晴らしいドレス…とてもよくお似合いでございますわ。お客様は本当に愛されておりますのね。何十枚にも及ぶデザイン画を持ち込まれた時は驚きましたけど、指示は的確でしたし、素材も含めた材料はすでにご用意頂いておりましたので何とか仕上げることができましたのよ。それも全て一級品で、私達もつい力が入ってしまいましたわ」


 あ、いえ……考え事している間に着替えさせられていて『スゴイ』、そしてそれに気づかなかった自分もある意味『スゴイ』って意味だったんですが……いや、何も言うまい

 選んだドレスの試着が(いつの間にか)終わり、ルティ達の待つ隣の部屋へ移動する
今はまだペタンコ靴を履いたままなので、ヒールを想定した長さの裾を、軽く持ち上げないと躓きそうだ


「ルティ、お待たせ。どうかな?着心地もいいし、苦しくもなくて……スカートが膨らんでないからまだ馴染みがあるというか。私、これ結構好きかも」

「あぁ……アオイ!!やはり、今結婚しましょう?こんなに素晴らしく可愛らしいアオイを竜王の前に晒さなければならないなんて……魔法誓約書がなければ安心できません!」

「アオちゃん、お姫様みたいだね……はぁ可愛い、よく似合ってるよ。ルーティエ兄さん、もっと控えめなものをデザインしなかったのですか?これでは竜王様の御前に到着する前に、城内の騎士や文官の者に目をつけられるのでは?」


 ん?いや、二人共なんの話?こんなチンチクリンがそんなにモテるわけないでしょうが!子供が歩いているくらいにか思わないって。魔法誓約書はとりあえずしまって下さーい


「くっ……やはりゴーシェでもそう思いますか……しかし、わざわざ地味で目立たないものを、アオイを想像しながら考えることは難しく……ああ、私は一体どうすればっ!!」


 だからこれでいいんじゃね?って話だよね。もう試着はこれ一着でOKってことでお開きにしないか?


「そうですよね……顔をベールで隠しながらと言うのも変ですし。かといって凡庸ぼんような既製品をアオちゃんに、というのも無理な話ですし…」


 いや、凡庸な私には凡庸なデザインがお似合いになるかと……だって私はHEY!BON・YO!!


「じゃあ、いっそ男装でもして行こうか?なぁんてね、アハハ」

「「………」」


 な、なによ。。。そのジト目は……可哀想にみたいな目線やめて欲しいんだけど。そこは『またまたぁ』とか言いながら流すところでしょ?


「ハァ、いいですか?たとえ男装しようとも、アオイの性別は女性なのですよ?どうしたってまとう雰囲気は漏れ出てしまうものです」

「そうだよ。それにアオちゃんがうちに来た日は騎竜してきたから、パンツスタイルだったでしょ?髪型も僕とお揃いだったけど、あの時だって可愛らしい女の子にしか見えなかったよ」


 何この一致団結感……ルティは元から恋人フィルターかかっているから、もはや持病みたいなものだけど、ゴーちゃんも最近、妹贔屓びいきが過ぎる気がする。
 これはいよいよ私が兄の恋愛事情の足枷あしかせになるやもしれないと心配になってきたぞ!シスコンの恋人……嫌がられるよねぇ。。。しかも実際に血は繋がってないし、養子縁組したわけでもないし


「あの、ただの冗談だったんですけど。そんなに心配なら欠席でいいのに……みんなが行けって言うから行くのにさぁ」

「そうでしたね……アオイは私以外の者の目に留まりたくはないのに、嫌々行くわけですからね。あまりにも可愛らしかったので冷静になれませんでした」


 いや、そこまでのことは言ってはいない気がするんだけど???過大解釈も甚だしいけど、まぁいいです。はい


「いっそアオちゃんじゃなくて、僕が女装して行ければ良かったかもしれないけど、どう見ても男だし、髪や瞳はごまかせても、耳ですぐにバレてしまうしね」

「え、なんて????ゴ、ゴーちゃんが女装……それアリじゃない?私よりも女性っぽい気がするよ!あ、化粧してもらってみる?喉仏が隠れるタイプのドレスもあったよ、ほらあの…」

「アオちゃん……僕ってそんなに女性っぽいの……?」


 あ、可愛い……目にどんどん涙が溜まって……って、泣いてる!?


「あの…え、あれ?ルティ、また私やっちゃった系かな?」
「はい、おそらくそれ系ですね。見事にゴーシェの自尊心が砕けてますよ」


 あぁ、やだ、どうしよう!えぐえぐ泣きだしそうになってるよ。キュン……いや、萌えてる場合じゃねー!どうしよ、どうしよ……


「ご、ごめんね、ごめんねゴーちゃん!女性に見えているわけじゃないよ。いつもカッコいいお兄ちゃんだって思ってるよ?だけど、女装もできそうなくらい美しい?というか……身体の線も細いしって…あれ?」
「わぁぁぁぁ!アオちゃんのバカー!でも大好きだよーー!!」


 バカと言いつつ、大好きをありがとう。ゴーちゃん出て行っちゃった……アタイのフォロー失敗だった?あ、やっぱり?


「あれでフォローだったのですか?中世的な顔立ちや線の細さは青年期のエルフ男子なら一度は悩むものなのですよ」
「えへへ……つい。猛省致します」


 もちろん、ドレスをひるがえし、速攻で土下座をしに追い駆けました


******


「はぁ……」



 嫌だ嫌だと思っているとあっという間に当日を迎えるっていう……



「アオイ、なるべく早く帰れるように余計なことは話さず、さっさと下がりましょうね。今は化粧やセットした髪のことがあるので、その姿を思い切り愛でられないことが辛抱なりません!」



 さっさとって……そんな失礼な態度を仮にも王様の前で取れるわけないでしょ。その抱き着きたいのを我慢してます、みたいに手をワキワキさせるのもやめて!



「とにかく私は挨拶、名乗ること、褒賞かなにか受け取り?とお礼…あとはにっこり立っておけばOKって本当なんだよね?私本当にそこしか練習してきてないよ?ドレスで歩く練習とそれだけで精一杯だったし」

「あとは私がうまくフォローしますから大丈夫ですよ」


 ルティ、信じてるからね?本当に、本っ当にお願いだからね!!
 




 右に不安、左に不安をダブルで抱え、私達は迎えの魔車に乗り込んだ……





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