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若くないのでエンジョイできません!

17:女心も男心も、難しいのはどちらも同じ

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******


 目覚めたら、またルーの腕の中だった

 びっくりはしたけど昨日のことがあったから、むしろ心配の方が勝った
 だって、泣いた涙の跡が見えたから


 彼には不安になっている原因にあたりはついていて、でも私には言いたくない
 そして私にはそれの予測も立てられない。

 こうなったのは薬草採取の時からだよね?私があまりにもダメだから「薬草採取もまともにできないのか」と呆れた?それとも出来が悪さに嫌になっちゃった?


 あぁ、駄目だ。私まで負のオーラに飲まれちゃいけない。今こそ、ちゃんとルーの助けにならなくちゃ!
 ルーがもしそう感じたのなら、ちゃんと私に言うはず。だから、そんな心配はする必要がない。
 
 ルーがしっかりしていると私はダメダメだったのに、ルーが弱ったら考えがまとまってくるなんて、不思議。
 でも、恩にはきちんと報いたい。私はルーに与えてもらってばかりだったから。ただ、私にできてルーにできないことなんて、ほぼないに等しいから、それが一番難題だったりするのだけど。



 それにしても、よく見たらルーのまつ毛って長い。当たり前だけど、髪と同じ銀色ですごくキレイ。顔色も……良くなったみたいかな?今は震えてもいないみたいだ。良かった……


 目線を上げてみれば、珍しく寝ぐせができてる。直して……!?うっ、腕が抜けな……よっと、抜けた


「ルーが早く良くなりますように……今日は笑えますように……」


 小声でそっと呟いて、少し寝ぐせの付いた銀の髪を撫でた

 相変わらず嫌味なくらいキレイな髪だ。薄汚れた不潔なルーとか想像すらできない。
 寝起きの口臭とか、絶対なさそう。あ、<清浄クリーン!>よし、歯磨き前だけど、少なくとも私の口臭はこれで防げるはず!ふぅ。すぐに気付いて良かったー

 男性だからとか、女性だからとか言いたくはないけど、ルーの方が絶対良い匂いを醸してるんだよね。
 私は……自分じゃわからないけど、か、加齢臭とかさ、ああああ…気になってきた。大丈夫かなぁ?でも、ここでこれ以上動いたら、せっかくルーが落ち着いて寝ているのに起こしてしまうよね。
 抱き枕とか売ってないかな?作る?私も欲しいな


「ふはっ…!ふふっふっ……」
「え!?なに?あ、ルーおはよう!」


「おはようございます…ふふっ。アオイは百面相でおもしろいですね。あと、心の声が漏れ出てますよ。ふふっ、私はそんなに良い匂いがしますか?
 自分ではあまりわかりませんが。アオイの匂いはとても落ち着く匂いで、私は大好きです。今は私の匂いと混ざって、魅惑的な香りですけど……」


 そう言って、私の肩辺りをスンスン嗅ぐルー
 ちょっと待って!私、心の声を普通に話していたの?めちゃくちゃ恥ずかしいんだけど!!
 
 あっ!!っていうか、元気になったなら、はーなーれーろー!!ほんっとビクとも動かないなっ!!


「髪も撫でてもらって気持ち良かったです。今日はアオイのお陰で朝から笑えましたよ。アオイ、ありがとうございます。ご心配をお掛けしましたね」


 再度ぎゅっと私を抱き締めてから、ルーは離れた。
 うん。無理している感じじゃないようだ。本当に良かった


「いいよ。むしろ私なんて毎日ルーに心配も迷惑も掛けてるんだから。私に協力できることがあるなら、なんでも言ってよ!まぁ、ほとんどないんだけどさ……はは」

「では、早速一つお願いしてもいいですか?」
「ん?いいよ。なにかある?」

「はい。これからも寝る時は手を繋いで下さい。
 実はずっと不眠気味だったのですが、昨夜はアオイのお陰で久しぶりにぐっすり眠れました。ちょっと不眠と疲れがピークに達してしまったようです……」

「え?これからもこの状態を続けろってこと?え~っとそれは中々難しいんじゃ……」


 だって、昨晩は一種の病人ってくくりだったから、そうしただけで。。。毎日はちょっと、ねぇ?


「……そうですよね、嫌ですよね。すみません忘れて下さい。
 今後も私が我慢すればいいだけです。どのみち、野宿の時は寝ずの番ですからね。不眠の一つや二つで我が儘を言ってはアオイにご迷惑が……」
「やります!やらせて下さい!お願いします!ごめんなさいっ!!」


「おや?宜しいのですか?無理にとは……」
「いえ。無理ではないです。このミッションをインポッシブルからポッシブルにすればいいんですよね?
 ただ人と人がシェイクハンドしてディープスリープすればいいだけのこと……そう、それだけ」


 この依頼受けて立ちましょう!はい、喜んでーー!!


「???所々よくわからなかったのですが、とりあえずご了承は頂けたみたいで良かったです。やはり嫌々、無理矢理なんてことは、私も避けたかったので……アオイは優しいですね」
「イエ……ソンナコトナイヨー」


 あれ?なんか嵌められたような気がしてならないんだけど……
 まぁ今後は手繋ぎだけになるように寝れば大丈夫か?あぁ、嫌な予感しかしない……ガクブル



***



 女の勘ってやつは当たるんだなぁ……なんか違う方向の勘ではあるけど。
 やっぱり嵌められた説が有力な気がするんだけど。不安定だった時のルーは間違いなく嘘じゃなかったってわかるだけに、こっちとしてもどこまで突っ込んでいいのかがわからない。

 でもさ、ちょっと光合成という名のまったりタイムでもピッタリくっついてくるし。
 ぼーっと考え事をしていても手を握ってきたり、なんなら調子こいてデコチューまでしてくるようになったのは、宜しくないと思うわけで。。。
 ビンタした私はあまり悪くないと思う……あまり


 そして、手繋ぎディープスリープなんて……
 一回も手繋ぎのままで目覚めたことがない!!なぜ!?百歩譲って寝ているならまだしも、ルーなんて起きているくせに抱き込んだまま、ニコニコしながら画像修正が必須であろう私の寝顔を起きるまで眺めているって……悪趣味にもほどがある!!
 
 起きたならいつものルーティンの鍛錬に行けばいいのにっ!


***


 以前は私の体調がという理由だったけど、今度は自分の状態があまり良くないとか、弱気なことを言い出してずっと宿の部屋で過ごすようになった。軟禁状態ってやつですね。


 仕方がないから、つい例の<エルフ少年の150年漂流記>に手を出してみたんだけど……
 今、厚みでいうと1ミリ程度しか読めていません、しかもまだプロローグから出てもいない。ちなみに本の厚みは10cmくらいある。ただでさえ分厚いのに、文字まで小さく書かれていて、目を逸らせばどこを読んでいたのかわからなくなる始末

 正直開いた瞬間から読む気が失せた。まず主人公の少年が「おぎゃあ」っと生まれた所から始まるんだけど、私の読んでいるシーンでは、まだハイハイし出したばかり……。え?漂流記じゃなくて伝記じゃない?って思う私は悪くないと思う。
 
 でもルーに言わせると、全エルフが子供の頃にこれを読んでいるくらいメジャーな漂流記らしい。とても良質な本だと言われてしまえば「ソウダネー」と返す外ない。


 こういうのがきっと異文化交流ってやつなんだ……多分


 来て二ヶ月辺りまでは良かったけど、それ以降はほとんど引きこもりっぱなしで、ユーロピアの街も観光しきれていない。観光よりも食い気に走ったせいもあるけど……
 
 それにしても出歩かない分、宿だけはちょこちょこ変えてくれて、そこは楽しくはあるんだけど……宿代がもったいないと思うんですよね。
 とはいえ、お支払いは基本的にルー社長が全部出してくれているので、私のお金はほとんど減っていないわけですが。。。
 
 何度か『支払いは折半にしよう!』と訴えたんだけど『それは将来の為に貯めておきましょうね』と言われたんだよね。
 でも、なんか私の思う将来と、ルーの言っている将来がちょっと違う気がするのは……きっと気のせいよね?……だよね?


 脱線したけど……そんなこんなで、埒が明かない状態なんです


「ねぇルー、ここからエルフの里って遠いの?そろそろルーの親御さんにご挨拶に行った方がいいかなって思っているんだけど……。ルーも里帰りしてさ、ちょっとゆっくりしてリフレッシュできればなって思うんだけど、どうかな?」

「里ですか……そう、ですね。このままでは解決しないですし。私もちょうど家族と話したいこともあるので行ってみましょうか」

「うん、それがいいと思うよ!ルーもさ、ずっと一人で気楽に生活していたのに、急に私なんかと共同生活になっちゃたから、多分気疲れしているんだと思うんだよね。
 あ、気が合わないとかって話じゃないよ?どんなに仲良くても、他人なんだもの。たまにはお互いに自由時間を設けることも必要だと思うってこと」

「他人……ですか」


 ルーの顔が悲しげな表情に変わる。あ……私は間違えた。
 言葉ってとても難しい。選ぶ言葉、伝え方を誤れば、簡単に人を傷つけるんだから


「ごめん!言い方悪かったみたい。他人っていうか、別々の考えを持った者同士なんだからって言いたかったのよ。突き放したような言い方になってごめんね!
 ルーだってちゃんと一人で考える時間とか、趣味に費やす時間とか?必要だと思うんだよ
 人と向き合うことと同じくらい、自分と向き合うことって大切だと思うから。
 お互い自立した一人の大人なんだからさ。でも、今みたいに「自分はこう考えています」って伝え合うことも、お互いを知る為には大切なことだよね」


「……なんとなく、ですがわかりました。
 私はアオイと共にいて気疲れは全く感じておりませんが、そういうことではないのですよね?常に共にいるといってもまだ二ヶ月を越えたくらい。まだまだお互いの表面上のことしかわかっていないということでしょうか。
 確かに私達に必要なのは話し合うこと、考えること……なのかもしれませんね」

「面倒なこと言ってるのはわかっているんだけど……
 う~ん、面倒な生き物なんだよー私って!ホントごめん!!ただ、そういう人もいるんだなって思ってもらえればそれで。
 誰にでも中々曲げることのできない考え方っていうか、思いってあるでしょう?」


 今の自分は何もできない役立たずのくせに?
 正論をただ並べてるだけで、偉そうに…自分で言っておいて放った言葉が跳ね返り、自分に深く刺さる。


「曲げられない“想い”なら、確かにありますね」


「でしょう?……私は趣味が人間観察だから、相手がどんな人なのかなぁって考えるのも、観察するのも好きなんだよね。
 だから、今は生まれて初めて出会ったエルフ族、ルーティエライトさんの400年の内の四ヶ月を観察しているところです。ふふ」


「おや、アオイはちゃんと私の名前を覚えていたのですね?」


「はぁ?失礼な!それくらいは私だって言えますよ!!
 えー、ルーティエライト=フェルスパー……うんちゃら――すみません。全部は言えません」
「ふふ。上の二つを覚えていてくれれば十分ですよ。それに『ルー』と呼ばれるのは気に入っているので」


「へぇ~初めはあんなに『更に縮めるだと……』って怒っていたのにねぇ」
「そうでしたか?過ぎたことは過去のこと、もう忘れました」


「ねぇ、それって私のマネじゃない?」
「そんなことはないと思いますけど?」


「もーーーー!!」
「ふはっ!モーは牧場にいますよ。ふふっ」


「えぇ!ルーが……ついにそんなボケを……そういう人だったの?」
「思っている程たいしたことないのですよ、私だって」


 ちょっとだけわかるようになってきたと思っていたけど、まだまだだね
 いつかは一人ボケツッコミとかするようになるのかしら??
 想像でき……なくもない、か?


「う~ん、ルーは奥が深い!さすが400年は違うわ」
「アオイの50年も奥深いと思いますよ」

「……もう!年齢言わないでっ!」


 エルフ族って絶対、年齢とか気にしてないよね!
 規模が大きくなると、もはや550歳と600歳なんて、歳近いね~って感覚なのだろうか……。それで見たら私は小学生のようなものなの?う~む


「ふふ。女心は難しいですねぇ」






 男心だって、十分難しいよ―――
 その言葉は、見上げた秋晴れの空へと、吐息と共に溶けていった








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