ひとくみの魔鏡の真相

蒼山りと

文字の大きさ
上 下
9 / 13

魔族の特別な能力……魔物への変身能力

しおりを挟む
「そうだ。私は魔王だ。魔族の王様ということになる」
「……堂々といわれても困るな、魔族と人間は対立している」
「そうだな……300年前は少なくともそうだった……」
「今は違うとでも?」
「そうだ……具体的に我々が人間になにかしたというのか?」
「それは……確かに魔物の大群が攻めてくるなんてことはないようだけれども」
「そもそもだ。なぜ、君たちは魔族をそんなに嫌う?」
「魔族は魔物に変身する。魔物が恐ろしいものである以上は……敵対せざるえない」
「では、なぜ今、レンよ? お前は私に切りかかってこないのだ」
「曲がりなりにもひとの姿をしている……からな、話は通じそうだ」
「そう、それが言いたいことだ」
「でもお前は魔王で魔族なんだろ?」
「ああ、そうだな」

……いったい皇帝ベイザー、魔王は何を言おうとしているのだろうか?

「魔族がどういう種族か……人間の君は……詳しくないだろうな?」
「知る必要はない」
「そういわずに聞くべきだと思うぞ」

王女がその時古めかしい書類を持ってきた。いつの間にか、席をたっていたようだ。そして書庫から、それを持ってきたのだろう。

「アルさん……」
「なんですかリファイア王女さま」
「勇者レンとイリス姫は魔王とある契約を交わしたのです。300年前のことですが。これをご一読ください」

おれはその書類に目を通す。古めかしい言葉……どこか、懐かしい言葉でその書類は書かれていた。ああ、オレはやっぱり勇者レンなのか……。と確信できた。現在の人間にはこの文書を完全に解読することは難しいだろう、それができる自分が特別であることは間違いない。

「おっ、気が利く。ありがたいね。リファイア王女殿下」

と皇帝ベイザーは言った。

「ま、目を通してよ……」

書類にはこう書かれている。
魔王は300年の間眠りにつく……。
レンとイリスも同様に300年後に、自身に時間停止の魔法をかけて行く。
ただし、完全に時間を停止することは難しく、若返るということが書いてある。
ここまではわかっている。しかし、いったいなんのために?
その後に魔王への謝罪文が書いてある、レンとイリスのだ。
魔物の格好をしている魔族を襲って悪かったと書いてあるのだ。
お互いの種族の憎しみをなくすために時間が必要と書いてある。
いったい……どういうことだ?

「魔族は、人間の言葉で言う家畜と同じ格好に変身できる……」
「だが、魔王よ! 我々は断じて魔族の家畜ではないぞ!」
「……いいかたが悪かったかな。友好関係をむすぶために、魔族は相手の姿に変身するのだ」
「なぜ?」
「同じ姿をしたものを攻撃する種族は、いないからだ」

……それは確かにうなづけるかもしれない。確かにいま人間の格好した魔王をオレはすくなくとも、問答無用には襲っていないのだから。

「じゃ、もっと早く人間の格好になればよかっただろうに!」
「……それができればな。300年近い時が必要だったのだ」
「なぜ?」
「種族の個体の数が多かったり、力が強いほど、変身するために要する労力が大きくなる……のだよ。魔族の変身能力は強力だが、それなりに代償も必要なのさ」と魔王である皇帝ベイザーは言った。
「……悪かったのは人間ということか?」
「いや、魔族も人間を襲ったのだ。恐ろしかったからね」
「なぜ?」
「考えてみろ。君たち人間ほど、凶暴な魔物が他にいるかな?」
「人間は魔物ではない……」
「……魔物だよ。動物たちから、あれほど恐れられているのに自覚がないのか」

……めちゃくちゃなことを最初言っているようにも思えたが筋は通っているきはした。

「オレが勇者レンだとして……なぜ300年後に来る必要があったのだ。それも知りたい」
「契約相手に死なれては困るからな、契約の履行があやぶまれる」
「あいにくだが、オレは勇者レンだとしても、その記憶がない。契約の履行を求められてもな……」
「……記憶ならちゃんと魔王である私が保管してある……。それを謝罪の証として、また、悪意がなかったことの証として、勇者レンとイリス姫は記憶をすべて私に差し出したのだ……。だから、わたしは本来彼らの封印の魔法には抵抗できたのだが、300年封印されることに甘んじたのだよ」
「しかし、オレがそれを見れるわけではないだろう……」
「……いや、お前に記憶を戻すことは可能だ……」

……なんだって! 

「しかし……。オレはアルだ。勇者レンだったとしても、いまさら勇者レンになる気はないぞ」
「では魔王である私をせめて、信じてもらいたいな。勇者レンとイリス姫と私魔王ベイザーは、お互いに謝罪しあい。争わないことを誓った仲なのだから。たとえ300年の歳月が必要だったとしても、だ」
めちゃくちゃだ。魔族を倒そうと戦争していたのは、無駄な争いとでもいうのか?
「それでもだ、魔族を滅ぼしたほうが禍根がなくなると、人間が考えない理由がどこにある?」

そうだ。やっと魔王を弱体化させたのだ。もう……時間稼ぎをさせる理由もないだろう……。このままこいつを倒せばすべては確実に終わるのだから。
魔王ベイザーはその問いかけに、応える。それを聴いて、自分は良かったとおもった。すくなくとも問答無用にこの魔王を倒さなくて良かったと。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

あなたの子ですが、内緒で育てます

椿蛍
恋愛
「本当にあなたの子ですか?」  突然現れた浮気相手、私の夫である国王陛下の子を身籠っているという。  夫、王妃の座、全て奪われ冷遇される日々――王宮から、追われた私のお腹には陛下の子が宿っていた。  私は強くなることを決意する。 「この子は私が育てます!」  お腹にいる子供は王の子。  王の子だけが不思議な力を持つ。  私は育った子供を連れて王宮へ戻る。  ――そして、私を追い出したことを後悔してください。 ※夫の後悔、浮気相手と虐げられからのざまあ ※他サイト様でも掲載しております。 ※hotランキング1位&エールありがとうございます!

王が気づいたのはあれから十年後

基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。 妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。 仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。 側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。 王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。 王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。 新たな国王の誕生だった。

番だからと攫っておいて、番だと認めないと言われても。

七辻ゆゆ
ファンタジー
特に同情できないので、ルナは手段を選ばず帰国をめざすことにした。

【完結】父が再婚。義母には連れ子がいて一つ下の妹になるそうですが……ちょうだい癖のある義妹に寮生活は無理なのでは?

つくも茄子
ファンタジー
父が再婚をしました。お相手は男爵夫人。 平民の我が家でいいのですか? 疑問に思うものの、よくよく聞けば、相手も再婚で、娘が一人いるとのこと。 義妹はそれは美しい少女でした。義母に似たのでしょう。父も実娘をそっちのけで義妹にメロメロです。ですが、この新しい義妹には悪癖があるようで、人の物を欲しがるのです。「お義姉様、ちょうだい!」が口癖。あまりに煩いので快く渡しています。何故かって?もうすぐ、学園での寮生活に入るからです。少しの間だけ我慢すれば済むこと。 学園では煩い家族がいない分、のびのびと過ごせていたのですが、義妹が入学してきました。 必ずしも入学しなければならない、というわけではありません。 勉強嫌いの義妹。 この学園は成績順だということを知らないのでは?思った通り、最下位クラスにいってしまった義妹。 両親に駄々をこねているようです。 私のところにも手紙を送ってくるのですから、相当です。 しかも、寮やクラスで揉め事を起こしては顰蹙を買っています。入学早々に学園中の女子を敵にまわしたのです!やりたい放題の義妹に、とうとう、ある処置を施され・・・。 なろう、カクヨム、にも公開中。

【完結】お父様に愛されなかった私を叔父様が連れ出してくれました。~お母様からお父様への最後のラブレター~

山葵
恋愛
「エリミヤ。私の所に来るかい?」 母の弟であるバンス子爵の言葉に私は泣きながら頷いた。 愛人宅に住み屋敷に帰らない父。 生前母は、そんな父と結婚出来て幸せだったと言った。 私には母の言葉が理解出来なかった。

愚かな父にサヨナラと《完結》

アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」 父の言葉は最後の一線を越えてしまった。 その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・ 悲劇の本当の始まりはもっと昔から。 言えることはただひとつ 私の幸せに貴方はいりません ✈他社にも同時公開

【完結】王太子妃の初恋

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
カテリーナは王太子妃。しかし、政略のための結婚でアレクサンドル王太子からは嫌われている。 王太子が側妃を娶ったため、カテリーナはお役御免とばかりに王宮の外れにある森の中の宮殿に追いやられてしまう。 しかし、カテリーナはちょうど良かったと思っていた。婚約者時代からの激務で目が悪くなっていて、これ以上は公務も社交も難しいと考えていたからだ。 そんなカテリーナが湖畔で一人の男に出会い、恋をするまでとその後。 ★ざまぁはありません。 全話予約投稿済。 携帯投稿のため誤字脱字多くて申し訳ありません。 報告ありがとうございます。

処理中です...