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前編
part 5
しおりを挟む「マンドリン? なにそれ? それも楽器の名前なの?」
愛は律村の目を見続けて質問を重ねた。
それがちょっと気まずかったのか、彼は青暗い空に目をやりながら、思い出すように説明を続けた。
「マンドリンはどうやらイタリアの弦楽器らしいんだが、俺もそれくらいしか知らないんだ」
じゃあ、お互い知らないことだらけだね。
愛は気が抜けたように、ふっと笑って、律村もそれに釣られてか、ため息まじりに笑ってしまう。
「私、六ヶ原高校って、音楽のイメージどころか、個性ない学校だとおもってたから、なんていうかさ。とっても意外というか」
「それはご挨拶なことで」
律村が肩を落とす。
「まあ、俺もむー君も、高校に入ってから、マンドリンという楽器を初めて知ったんだ。人のこと、言えた立場じゃないな」
律村の言葉は、本当に正しいのだろうか。
愛は心の中で、ふと疑問に思ってしまう。
律村ならともかく、日枯 であれば、そういう少しマイナーな楽器でも、あらかた知識を持っていたのではないか。
六ヶ原高校に入る前で、マンドリンという楽器についても、音楽部という存在についても、さらには音楽部の『惨状』についても、ある程度のリサーチは済ましていたのではないか。
日枯 なら、それくらい済ましておいてもおかしくないよ。
と愛は心の中で、一人つぶやく。
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