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25話 伝説の幕開け
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「敵の現在総数は約2万2000ってところか……」
南の正面門と城壁を任された私達、ロザリオ傭兵団は城壁の上にずらりと待機し、アインシュタイン新総統が率いる軍と対峙していた。
城壁の高さおよそ7メル(メートル)。
壁幅が5メル。
兵を配備するには十分な造りとなっているが、銃を相手にどこまで守りきれるものか……。
炎神王が率いる鬼人族3000の正面は、銃が相手だろうと何ら問題がない。しかし東西北の壁には私達の兵は一兵たりとも配置されることを許されなかった。
敵の布陣からは東西に兵を5000ずつ、正面に12000の配置で攻めてくる腹積もりらしい。しかし戦いの最中でそれがどう変わるかはわからない。
「ロザリア様。我らが光輝よ、いよいよ待ちわびた戦だな」
炎髪を兜から揺らす炎神王は豪気な笑みでもって私に語りかけてくる。頭に生えた双角は、ちょうど角が生えているあたりに兜にも角があるデザインなため、すっぽりと隠されている。彼が率いる全員の鬼人族が、この深紅に染まった鎧と兜を着込み、この城壁で立っている。
もちろん彼が真の姿になってしまったら、ここら一帯が瞬時にして踏みつぶされ更地となってしまうだろう。しかし、炎神王はその巨体さゆえに敵の攻撃に被弾しやすい。万が一にも転生者の能力の中で、炎神王が抗えぬような強力な毒や崩壊をきたす効果があれば危険。
だからこそ、まだ鬼人族の姿でこの戦場に立ってもらっている。
「炎神王よ……こちら側に転生者の匂いをさせる者が9人いる」
アルバート少年を除外すれば8人というわけだ。
「それは俺らの背後で待機する、あの気に食わねえ奴のことも含まれているのか?」
「そうだ。トマスと言ったか……彼もターゲットに入っている。気をつけよ」
困った事にこの戦場のどさくさに紛れて、私達は味方を8人ほど殺さなければならない。
いずれも転生者か転移者の疑いがある。
しかしどうにも腑に落ちない点があった。通常、転生者・転移者はそれぞれ異なる匂いを発するはずなのに……この都市内部に入り、これほどの近距離となってから気付いたのは、いずれもみなが同じような匂いを纏っているという事実。
「御意に。しかしロザリア様、大丈夫だろうよ。ここには俺と、戦神王がいる。さらに南の湖には水神王が、西の山岳地帯には地神王が、東の森林地帯には風神王が、遥か上空には雷神王の奴らが自らの眷族を率いて、ここを取り囲むように待機してんぜ」
私の隣に立つ戦神王へ、炎神王はニカリと清々しい笑みを向けている。
しかし、そんな余裕はないと知ってほしい。
転生者相手ならば、どんな油断も命取りになりえるからだ。
「相手はあの転生者だ。私はお前たちを一人も失いたくはない、油断はするな」
「御意」
炎神王には正面城壁の指揮を任せると伝え、私はエリザベスとジャンヌに向き直る。
「エリザベス、ジャンヌ。戦端が開かれたらすぐに鬼人族400ずつ率い、東西の城壁へ移動するように。おそらくだが、左右の壁は銃撃戦に持ち堪えられない」
「仰せのままに」
「主の意向に従います」
これで正面を守る純粋な戦力は2200となってしまったが……左右の壁を容易く突破されてしまえば、味方が総崩れになる危険性がある。例え転生者をこの戦いで倒せても、この【北の黒玉都市】が落ちては意味がない。
「おやおや、戦場だと言うのに美女たちに囲まれていい気になものですな、ロザリオ殿」
噂をすれば、標的のトマス政務官が私に戦闘前の挨拶をしに来たようだ。
「その暑苦しいフードとマントは戦闘になっても取らないおつもりか……? 全く以って陰気臭い。まさか万を超える軍に怯えて、顔など出せないと?」
アルバート少年には自分の真の姿をさらけ出した。転生者として屠るべき敵と定め、全力を尽くす可能性があると判断していたからだ。それも杞憂に終わったが今回は別だ。戦闘が始まって、転生者どもを殺せる場面となれば容赦なく真の姿で喰らいつくつもりだ。
「無言ですか。意気込みぐらいは聞きたいものですが……まぁいいでしょう。せいぜい踏ん張って下さいよ。何かありましたら後方で待機する我々の部隊が救援に参りますので、大船に乗ったつもりで突撃でも何でもしてください。城内は責任を以って我々が守り抜く」
暗に突撃するのは勝手だがそれをフォローする気は微塵もない、と言われた。
「戦争後を見据えて、多方面で御活躍されているトマス殿は、ご自分の身の心配だけをしていればよろしい」
こちらも暗に戦争終結後の自身の影響力を高めるために、色々と根回ししている輩は黙って自分の保身だけを考えてれば良いと言ってやる。
もちろん真の意味は、こちらが殺しにいくから気をつけろよと警告かつ宣言でもある。
「なっ……傭兵団長風情が……私の心象を悪くしたこと、後に後悔させてやるからな」
「ふふ……それはお互い様でしょう。結果はすぐに出ますから、慌てず、共に戦いましょう」
「ふんっ、せいぜい我らが精強なる『武装部隊』と肩を並べて戦場に立てることを光栄に思うことだな」
「ふふふ……」
「団も異様なら、団長もおかしなものだ。なんて気味の悪いやつだ」
捨て台詞を吐いてトマス政務官は現場の指揮をとるために後方へと戻っていく。
そんな彼の背中をじっと私は見つめ続ける。
心の内で静かに燃えるのは殺意。今は堪え、ぎりぎりまでに研ぎ澄まし、私の牙をそっとトマスの首筋に立ててやろうと改めて誓いながら。
◇
「敵が動きだしました!」
物見の鬼人族の一人が声を張り上げたのを聞き取り、私はいよいよかと身構える。
この戦いでの一番優先すべき標的は無論、アルベルト・アインシュタイン新総統。おそらくは兵力が集中する正面門を攻め立てる軍にいるであろう。
なにせ、ここからでも匂いがぷんぷんと漂う。
つまりはロザリオ傭兵団とぶつかり合う軍にいるというわけだ。
「しかし妙だな。全て歩兵隊……しかも、攻城兵器が一切見当たらないとは……」
通常は高い壁を乗り越えるための梯子であったり、簡易的な押し車式の建物を用意し、そこから城壁に取りついて踏破橋の役目をもたせたり……また投石機のような物もこの時代であるならば、存在するはずだ。
「何か……飛んできます!」
「全体、防炎を展開させよ」
物見の報告に素早く支持を出したのは炎神王である。
鬼人族はわずか1秒で素早く反応を示す。その恐るべきスピードの伝達力の秘密は、現在、彼らは炎神王の意識と繋がっているためだ。権能【炎縁】というもので、一度、炎神王が放つ炎に触れた者であるならば、容易に意志疎通ができるというもの。
あえて命令を口にしたのは、【黒玉都市】の兵士たちに不自然に映らないようにするためでもある。
炎神王の命令通り、城壁の眼前には【炎羅門】という魔法が無詠唱で、何重にも発動される。この門をくぐりたくば赤熱の炎に焼き溶かされる前にくぐりぬけよ。そう言わんばかりに、紅蓮の壁が幾重にも張り巡らされる。
第三界級魔法を放てる部下たちが千単位はいるので、飛来物がこちらに届く可能性は低いだろう。
その予想は激しい爆音と、目も覆いたくなるような大爆発によって正しいと証明された。
しかし、予想外であった点もある。
東西の壁に目を向ければ、もちろんあんな攻撃を防げる手立てを持たない【黒玉都市】の兵らは大損害。それどころか初撃で呆気なく弾け飛ぶ城壁、連鎖して壁はどんどん崩れている。
敵の攻撃が放たれたのは、こちらに一発、東西の壁に一発ずつ。
合計3発の遠距離攻撃……いや、おそらく転生者からしたら、これは短距離攻撃の部類に入るか……。
たったの一撃で城壁が爆散するなどあってはならない、この時代では絶対にありえない強大な暴力。
英雄や竜の一撃、はたまた第五界級以上の魔法であるならば、それも可能ではあるが……これは魔法であって魔法ではない。
チートだ。
敵が放ってきた物を、私の目はしっかりと捉えている。
音速以上で飛翔し、超低空飛行特性を持ちながら目標を爆撃するのは――――
――地対艦ミサイル。
戦艦を破壊するレベルの兵器を初手で使ってくるとはまさに予想外。
「これだから転生者というやつは……」
この時代にミサイルなどと……。
本当は標的であるアインシュタイン新総督が姿を現すまで、私は討って出るつもりはなかった。
しかし、予想外の破壊力にこれでは味方の……【北の黒玉都市】の被害が大きくなってしまう可能性がある。様子見で後方に閉じこもっている場合ではない。
一発目を防いだと瞬時に判断した敵は、続けて10発程の地対艦ミサイルを放ってきた。
それに私は誰よりも早く反応し、フードを下ろしては自ら真の姿へと変貌する。そして城壁の先頭にふわり飛び立ち、自らの権能を発動する。
「【原初の十天教典】――第二説――――絶対不可侵領域――」
舐めるなよ、転生者。
私の意思がお前の殺戮を必ず防いでみせる。
「――【咲き誇る慈愛の花園――】」
全ての憎悪も殺意も攻撃も、愛で以って受けとめ、吸収する。
私の目の前には、半透明状に輝く色とりどりの巨大な花々が無数に咲き開く。
1枚3メルは優に超える花弁を持つ花たち、超広範囲の防護空間をミサイルが届くより遥かに早く展開をし終える。
まさに花々のカーテンが宙空に出現し、そしてミサイルを迎え討つための壁となった。
そして、ミサイルが持つ爆力をことごとく吸い込み、糧とする。
「……」
いつの間にか私に合わせ、隣に立っている戦神王レオニダス・スパルタ。彼へと目を向ければ、戦神王は無言で深く頷いてくれる。
もともと遊撃隊という立場で待機させていたレオニダス共に、私は城壁より踊り出た。
もちろん私の後ろにはレオニダスの権能によって出現させられた精鋭部隊、およそ300の英霊たちが次々と城壁から降り立っている。
「さぁ、宴を存分に楽しめ、スパルタの英雄たちよ」
彼ら英霊たちを付き従え、転生者を屠るために万の軍勢へと突撃を仕掛けよう。
スパルタの英雄たちは恐れを知らぬかのように笑い声を上げながら、走りだす。
死を目前と感じるはずで、誰もが怯え震える状況下でありながら狂ったように不敵に笑う。
それは血を欲し、戦いを欲する戦士たちの静かな雄叫び。
きっと傍から見ている誰もが、その不気味な姿に恐怖しただろう。
◇
「なんだ、あの娘は!?」
「……う、美しすぎる」
「今のは一体、なにが起きた!?」
「美少女が城壁に踊り出たと思えば、巨大な花々のオーラが……」
「敵の攻撃を防いだ……?」
その日、【北の黒玉都市】の城壁中央部で後方待機していた『武装部隊』の人々は、伝説を殺す少女をしっかりと目に焼き付けていた。
「ありえん……あれほどの攻撃を全て無力化するだなんて……」
『武装部隊』の指揮官にして代表、トマス政務官もその例外ではなかったようだ。
「奴は……あの娘は、伝説か……?」
南の正面門と城壁を任された私達、ロザリオ傭兵団は城壁の上にずらりと待機し、アインシュタイン新総統が率いる軍と対峙していた。
城壁の高さおよそ7メル(メートル)。
壁幅が5メル。
兵を配備するには十分な造りとなっているが、銃を相手にどこまで守りきれるものか……。
炎神王が率いる鬼人族3000の正面は、銃が相手だろうと何ら問題がない。しかし東西北の壁には私達の兵は一兵たりとも配置されることを許されなかった。
敵の布陣からは東西に兵を5000ずつ、正面に12000の配置で攻めてくる腹積もりらしい。しかし戦いの最中でそれがどう変わるかはわからない。
「ロザリア様。我らが光輝よ、いよいよ待ちわびた戦だな」
炎髪を兜から揺らす炎神王は豪気な笑みでもって私に語りかけてくる。頭に生えた双角は、ちょうど角が生えているあたりに兜にも角があるデザインなため、すっぽりと隠されている。彼が率いる全員の鬼人族が、この深紅に染まった鎧と兜を着込み、この城壁で立っている。
もちろん彼が真の姿になってしまったら、ここら一帯が瞬時にして踏みつぶされ更地となってしまうだろう。しかし、炎神王はその巨体さゆえに敵の攻撃に被弾しやすい。万が一にも転生者の能力の中で、炎神王が抗えぬような強力な毒や崩壊をきたす効果があれば危険。
だからこそ、まだ鬼人族の姿でこの戦場に立ってもらっている。
「炎神王よ……こちら側に転生者の匂いをさせる者が9人いる」
アルバート少年を除外すれば8人というわけだ。
「それは俺らの背後で待機する、あの気に食わねえ奴のことも含まれているのか?」
「そうだ。トマスと言ったか……彼もターゲットに入っている。気をつけよ」
困った事にこの戦場のどさくさに紛れて、私達は味方を8人ほど殺さなければならない。
いずれも転生者か転移者の疑いがある。
しかしどうにも腑に落ちない点があった。通常、転生者・転移者はそれぞれ異なる匂いを発するはずなのに……この都市内部に入り、これほどの近距離となってから気付いたのは、いずれもみなが同じような匂いを纏っているという事実。
「御意に。しかしロザリア様、大丈夫だろうよ。ここには俺と、戦神王がいる。さらに南の湖には水神王が、西の山岳地帯には地神王が、東の森林地帯には風神王が、遥か上空には雷神王の奴らが自らの眷族を率いて、ここを取り囲むように待機してんぜ」
私の隣に立つ戦神王へ、炎神王はニカリと清々しい笑みを向けている。
しかし、そんな余裕はないと知ってほしい。
転生者相手ならば、どんな油断も命取りになりえるからだ。
「相手はあの転生者だ。私はお前たちを一人も失いたくはない、油断はするな」
「御意」
炎神王には正面城壁の指揮を任せると伝え、私はエリザベスとジャンヌに向き直る。
「エリザベス、ジャンヌ。戦端が開かれたらすぐに鬼人族400ずつ率い、東西の城壁へ移動するように。おそらくだが、左右の壁は銃撃戦に持ち堪えられない」
「仰せのままに」
「主の意向に従います」
これで正面を守る純粋な戦力は2200となってしまったが……左右の壁を容易く突破されてしまえば、味方が総崩れになる危険性がある。例え転生者をこの戦いで倒せても、この【北の黒玉都市】が落ちては意味がない。
「おやおや、戦場だと言うのに美女たちに囲まれていい気になものですな、ロザリオ殿」
噂をすれば、標的のトマス政務官が私に戦闘前の挨拶をしに来たようだ。
「その暑苦しいフードとマントは戦闘になっても取らないおつもりか……? 全く以って陰気臭い。まさか万を超える軍に怯えて、顔など出せないと?」
アルバート少年には自分の真の姿をさらけ出した。転生者として屠るべき敵と定め、全力を尽くす可能性があると判断していたからだ。それも杞憂に終わったが今回は別だ。戦闘が始まって、転生者どもを殺せる場面となれば容赦なく真の姿で喰らいつくつもりだ。
「無言ですか。意気込みぐらいは聞きたいものですが……まぁいいでしょう。せいぜい踏ん張って下さいよ。何かありましたら後方で待機する我々の部隊が救援に参りますので、大船に乗ったつもりで突撃でも何でもしてください。城内は責任を以って我々が守り抜く」
暗に突撃するのは勝手だがそれをフォローする気は微塵もない、と言われた。
「戦争後を見据えて、多方面で御活躍されているトマス殿は、ご自分の身の心配だけをしていればよろしい」
こちらも暗に戦争終結後の自身の影響力を高めるために、色々と根回ししている輩は黙って自分の保身だけを考えてれば良いと言ってやる。
もちろん真の意味は、こちらが殺しにいくから気をつけろよと警告かつ宣言でもある。
「なっ……傭兵団長風情が……私の心象を悪くしたこと、後に後悔させてやるからな」
「ふふ……それはお互い様でしょう。結果はすぐに出ますから、慌てず、共に戦いましょう」
「ふんっ、せいぜい我らが精強なる『武装部隊』と肩を並べて戦場に立てることを光栄に思うことだな」
「ふふふ……」
「団も異様なら、団長もおかしなものだ。なんて気味の悪いやつだ」
捨て台詞を吐いてトマス政務官は現場の指揮をとるために後方へと戻っていく。
そんな彼の背中をじっと私は見つめ続ける。
心の内で静かに燃えるのは殺意。今は堪え、ぎりぎりまでに研ぎ澄まし、私の牙をそっとトマスの首筋に立ててやろうと改めて誓いながら。
◇
「敵が動きだしました!」
物見の鬼人族の一人が声を張り上げたのを聞き取り、私はいよいよかと身構える。
この戦いでの一番優先すべき標的は無論、アルベルト・アインシュタイン新総統。おそらくは兵力が集中する正面門を攻め立てる軍にいるであろう。
なにせ、ここからでも匂いがぷんぷんと漂う。
つまりはロザリオ傭兵団とぶつかり合う軍にいるというわけだ。
「しかし妙だな。全て歩兵隊……しかも、攻城兵器が一切見当たらないとは……」
通常は高い壁を乗り越えるための梯子であったり、簡易的な押し車式の建物を用意し、そこから城壁に取りついて踏破橋の役目をもたせたり……また投石機のような物もこの時代であるならば、存在するはずだ。
「何か……飛んできます!」
「全体、防炎を展開させよ」
物見の報告に素早く支持を出したのは炎神王である。
鬼人族はわずか1秒で素早く反応を示す。その恐るべきスピードの伝達力の秘密は、現在、彼らは炎神王の意識と繋がっているためだ。権能【炎縁】というもので、一度、炎神王が放つ炎に触れた者であるならば、容易に意志疎通ができるというもの。
あえて命令を口にしたのは、【黒玉都市】の兵士たちに不自然に映らないようにするためでもある。
炎神王の命令通り、城壁の眼前には【炎羅門】という魔法が無詠唱で、何重にも発動される。この門をくぐりたくば赤熱の炎に焼き溶かされる前にくぐりぬけよ。そう言わんばかりに、紅蓮の壁が幾重にも張り巡らされる。
第三界級魔法を放てる部下たちが千単位はいるので、飛来物がこちらに届く可能性は低いだろう。
その予想は激しい爆音と、目も覆いたくなるような大爆発によって正しいと証明された。
しかし、予想外であった点もある。
東西の壁に目を向ければ、もちろんあんな攻撃を防げる手立てを持たない【黒玉都市】の兵らは大損害。それどころか初撃で呆気なく弾け飛ぶ城壁、連鎖して壁はどんどん崩れている。
敵の攻撃が放たれたのは、こちらに一発、東西の壁に一発ずつ。
合計3発の遠距離攻撃……いや、おそらく転生者からしたら、これは短距離攻撃の部類に入るか……。
たったの一撃で城壁が爆散するなどあってはならない、この時代では絶対にありえない強大な暴力。
英雄や竜の一撃、はたまた第五界級以上の魔法であるならば、それも可能ではあるが……これは魔法であって魔法ではない。
チートだ。
敵が放ってきた物を、私の目はしっかりと捉えている。
音速以上で飛翔し、超低空飛行特性を持ちながら目標を爆撃するのは――――
――地対艦ミサイル。
戦艦を破壊するレベルの兵器を初手で使ってくるとはまさに予想外。
「これだから転生者というやつは……」
この時代にミサイルなどと……。
本当は標的であるアインシュタイン新総督が姿を現すまで、私は討って出るつもりはなかった。
しかし、予想外の破壊力にこれでは味方の……【北の黒玉都市】の被害が大きくなってしまう可能性がある。様子見で後方に閉じこもっている場合ではない。
一発目を防いだと瞬時に判断した敵は、続けて10発程の地対艦ミサイルを放ってきた。
それに私は誰よりも早く反応し、フードを下ろしては自ら真の姿へと変貌する。そして城壁の先頭にふわり飛び立ち、自らの権能を発動する。
「【原初の十天教典】――第二説――――絶対不可侵領域――」
舐めるなよ、転生者。
私の意思がお前の殺戮を必ず防いでみせる。
「――【咲き誇る慈愛の花園――】」
全ての憎悪も殺意も攻撃も、愛で以って受けとめ、吸収する。
私の目の前には、半透明状に輝く色とりどりの巨大な花々が無数に咲き開く。
1枚3メルは優に超える花弁を持つ花たち、超広範囲の防護空間をミサイルが届くより遥かに早く展開をし終える。
まさに花々のカーテンが宙空に出現し、そしてミサイルを迎え討つための壁となった。
そして、ミサイルが持つ爆力をことごとく吸い込み、糧とする。
「……」
いつの間にか私に合わせ、隣に立っている戦神王レオニダス・スパルタ。彼へと目を向ければ、戦神王は無言で深く頷いてくれる。
もともと遊撃隊という立場で待機させていたレオニダス共に、私は城壁より踊り出た。
もちろん私の後ろにはレオニダスの権能によって出現させられた精鋭部隊、およそ300の英霊たちが次々と城壁から降り立っている。
「さぁ、宴を存分に楽しめ、スパルタの英雄たちよ」
彼ら英霊たちを付き従え、転生者を屠るために万の軍勢へと突撃を仕掛けよう。
スパルタの英雄たちは恐れを知らぬかのように笑い声を上げながら、走りだす。
死を目前と感じるはずで、誰もが怯え震える状況下でありながら狂ったように不敵に笑う。
それは血を欲し、戦いを欲する戦士たちの静かな雄叫び。
きっと傍から見ている誰もが、その不気味な姿に恐怖しただろう。
◇
「なんだ、あの娘は!?」
「……う、美しすぎる」
「今のは一体、なにが起きた!?」
「美少女が城壁に踊り出たと思えば、巨大な花々のオーラが……」
「敵の攻撃を防いだ……?」
その日、【北の黒玉都市】の城壁中央部で後方待機していた『武装部隊』の人々は、伝説を殺す少女をしっかりと目に焼き付けていた。
「ありえん……あれほどの攻撃を全て無力化するだなんて……」
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