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100話 ささやかな戦場メシ!
しおりを挟む「ふいー、夜戦までこうも激しいと休む暇がないのう」
「まさに戦国の嵐って感じですよね……というか、ゾンビだから夜間の方が活発なのかも?」
【夕闇鉄鎖団】と【十字架の白騎士】が各々の武具をドサリと置き、焚火を囲む。重量感のある武器が地面に鎮座すれば、疲労困憊の重い足も止まる。
各々がようやく訪れた休息に安堵し、腰を下ろす。
「どうもどうも、ナナシさんのおかげで伊達政宗の陣にいられるからこその一息ですな」
「こうして安心して飯にもありつけるってわけだ」
「今頃、地上は上手くやれてるのでしょうかねー?」
鈴木さんや【豪傑】、【果てなき財宝】は川越市に向かった【影の友】の安否に思いを馳せる。そして日本国民の安全も懸念しているようだ。
「しかしナナシさんには驚かされっぱなしですよ……まさか敵将ゾンビと意気投合してしまうなんて……」
皇城さんの指摘に、俺は軽く首を振る。
「フェンさんときゅーのおかげですよ。元々はフェンさんときゅーが仕留めてくれたミノタウロスクイーンの肉のおかげで、仲良くなれたようなものですから」
「どうもどうも、モンスター飯は奥が深いですな……」
以前、ぎんにゅうと一緒に食べた【極・牛タン塩】。その効能で俺は『隷属の呪文』といった特殊技術を習得している。信仰を3消費すれば、自分より色力の低い者の戦意を喪失させる効果だ。
最初は雑兵にかけて自軍勢力に入れればいいと思ったけど、俺の信仰も無限ではない。ならば、一軍を率いる将に『隷属の呪文』をかければいいのではないか? と気付いたのだ。
俺のステータス色力は今や420を超えているので、そうそう俺より高い色力を持つ存在とは遭遇しない。
伊達政宗でさえ、色力は20ほどしかないと本人が言っていた。
まあ、うちのライバーたちより少し高いか低いあたりだ
そんなわけで俺たちは今、伊達政宗が率いる陣内で腰を落ち着けられている。
ちなみに伊達軍は総勢4000名にも及び、うち500騎は鉄砲騎馬隊という、なかなかに精強な軍隊だ。
「で、ナナシよ。この勢いのまま、ゾンビ界の天下統一でも目指すつもりなのじゃろうか?」
【夕闇鉄鎖団】の質問にも、やはり俺は首を横に振る。
「伊達政宗は一騎打ちに応じたり、前線へ討って出るタイプの武将でしたが……このタイプは非常に珍しいです。総大将が倒れたら軍が瓦解しかねないので、普通は後方でどっしりと軍の行く末を導くのがほとんど……戦場で偶然、顔を合せない限り、こちらの陣営に加えるのは厳しいかと」
「それなら敵将が居座る本陣まで、突破しまくればいいだけの話じゃねえか?」
「時間が十分にある状況なら、それもありかなとは思います。ただ————」
「どうも、どうも、地上の方が持ちこたえられるかって話ですかなー」
「まさにその通りです。何度、戦を重ねればこのダンジョン崩壊を止められるのか……」
遭遇する敵軍の本陣を片っ端から突破してゆくには、どれほどの時間がかかるだろうか。おそらく何週間とかかるはず。もちろんその間、ゾンビ軍は地上に漏れ出続けている。
地上の被害は甚大になるだろう。
「たしかにっ、そうだな……わりい、俺としたことが……考えが及ばなかったぜ……」
「大丈夫ですよ。市民の命を気にかけて、急く気持ちはわかりますから。ね? ナナシさん?」
自分たちも過酷な状況下にあるなかで、彼ら彼女らはごく自然に市民の安否を気にしている。
強者のそんな在り方に俺は少なからず胸を打たれる。
そんな誇らしい仲間に俺ができることと言えば————
「どうも、どうも、戦場の陣で【ねこまんま】とは……あぁ、落ち着きますなあ」
「うぉっほん! あり合わせでこれほどの美味い飯を作れるなんてのぅ……最高の味じゃい!」
「あったかい……身体があたたまります。芯から力が沸き立つような……? 錯覚ではなく、力が漲る!?」
「うまっ! うまいぞ! くううううう、最高に沁みるぜ!」
「お、美味しいけど……全ステータスが+1されてるの、気付いてる……? これ一食でどれほどの財宝的価値があるか……想像するだけで……興奮だよ」
「……美味ですわ。ナナシ様、いつもありがとうございます」
俺たちが火を囲いながら戦場メシを胃にかっこんでいると、鎧がすれる音と共にぞろぞろと配下を従えた伊達政宗が顔を出してくる。
「名無し殿、少しよろしいか?」
「はい」
「火急の軍議を開くゆえ、貴殿らにも参加願いたい」
「何があったのですか?」
「織田信長率いる、豊臣、真田の軍勢が、我らが方に迫っていると斥候部隊が騒いでおります故、早急に迎え撃つ布陣を整えねばと……」
「織田……?」
今までちょこちょこ感じていた違和感が走る。
史実上、織田信長と伊達政宗が交戦する機会はない。
時代的にもおかしい……伊達政宗が本格的に戦場で活躍する年齢になる頃には、織田信長はとうに息絶えていたはず。
伊達政宗が真田幸村と相まみえることはあっても、織田信長はすでに亡き世界線だ。
でもこの【戦国屋敷】では織田信長をはじめ、上杉謙信や武田信玄など多くの武将が健在だ。
「伊達殿に一つお聞きしたいのですが……この戦国の世はどなたが先陣を切ったと思いますか?」
「先陣を切る?」
「質問の仕方を変えましょう。どなたが、この乱世をつくりましたか?」
「そんなの決まっておろう。我が焦がれてやまぬ織田信長であるな」
伊達政宗の言葉に俺たちは互いの目を見て頷く。
どうやら結論は出たようだ。
このダンジョン【戦国屋敷】の発端となった【冠位種】は、おそらく織田信長だろう。第六天魔王と畏怖された彼は、ゾンビとして蘇り、この地のダンジョンを戦乱で呑み込んだのだ。
「この伊達政宗! まさか彼の三大英傑のうち、二人とまみえる機会をいただけようとは感激である! この千載一遇のチャンスを絶対に逃すつもりはござらん!」
「どうもどうも、やる気に満ちるのは良い事ですが、敵の兵数はいかほどでしょうか?」
鈴木さんの質問に伊達政宗は威勢よく答えてくれる。
「はっ、織田信長率いる軍勢はおよそ2万、そこに豊臣秀吉の1万が加わり、真田幸村が4000ほどよな! 兵数など恐るるに足らん! はっはっはー!」
敵は総勢3万4000人の大軍勢。
対する俺たちは4000人。
絶望的な戦いが幕を開けようとしている。
そんな想いが、この場のみんなの緊張を一気に引き上げた。張り詰めた空気の中、誰もが口を開けずにいると————
「くきゅっ? くーきゅふっ」
「ファァァァァ……ゲフッ」
きゅーが可愛いゲップを吐き、フェンさんにいたっては呑気に大あくびをして、さらに盛大なゲップをもらした。
そんな二頭の相棒たちを見た俺は。
まあ、今回もどうにかなるかーと思ってしまった。
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