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78話 機械仕掛けの劇場封域
しおりを挟むまさかの【劇場封域】にて、タロさんたちと同行することになった俺と夜宵。
そして2人の話を聞くと、つい最近【ひび割れた水宮殿】で一緒にとある問題を解決したのだとか。
「ヤミたんがブルーホワイトたんの前に躍り出た時はヒヤッてしたよ」
「あんままじゃ【銀氷の雪姫人形】さんに【孤独な人形姫】が壊されてしまいそうやったけん、つい」
「そうだよね。こっちも街の人を襲ってる人形姫がいるって聞いて、慌てて突撃しちゃったから事情を把握してなくて……ごめんよ」
「うーうん! むしろ他の冒険者たちを止めてくれたから、すっごく助かったばい!」
以前、俺たち【にじらいぶ】が黄金領域として復活させた地、【ひび割れた水宮殿】。どうやらそこのボスキャラであった【孤独な人形姫】がフラリと街に戻ってきたらしい。
その際、発見した冒険者が次々に襲い掛かったらしい。
【孤独な人形姫】としては人間に敵意はなくとも、反撃はする。当然、冒険者たちも本気だ。
そこで蒼から、『【孤独な人形姫】はすでに敵じゃない。ただただ寂しくて【雨を守護する神象】と遊びたかっただけ』と聞いていた夜宵が、タロさん含めた冒険者を止めに入ったらしい。
そして【孤独な人形姫】は自分の寂しい気持ちを察してくれたお礼にと、【機械仕掛けの劇場世界】への入場券をくれたってわけだ。
「そういえば、タロりんはどげんして入場券ば手にしたと?」
「んんー話すと長くなるけど、とある呪いの雪国で目覚めたお嬢さんのおかげかな?」
呪いとか物騒な発言をしたものの、タロさんは優しい目でブルーホワイトさんを見つめていた。そして、彼女自身も慈しみのこもった視線をタロさんに向けている。
どうやら二人の間にはものすごい絆があるのだろう。
そんな彼女たちの空間に水を差したのは、街の住人である人形たちだった。
「やァやァ、今日ハ待ちニ待った、勇者ノ旅立ちの日ダ!」
様々な建物の窓やドアがバンッと開かれ、多くの人形たちが機械仕掛けの朝日と共に動きだす。
「勇者クルックドール! 僕タチの希望! キット女王様を連レテクル!」
「勇者クルックドール! 私タチの英雄! 必ズ女王様を発見シテクル!」
「俺ハ勇者クルックドール! ミンナの人気者! ミンナの願イヲ絶対に叶エル!」
時計から突然クルッポークルッポーと鳴きながら飛び出すハトのように、周囲の人形たちが慌ただしく動き始める。ある者は勇者クルックドールに剣を渡し、ある者は旅の無事を祈り、そしてある者は涙の別れをかわす。
俺たちが唖然と見送る中、ついに勇者クルックドールは旅に出た————
と思いきや、最初に飛び出してきた家の中へと入って行った。
俺と夜宵が窓から中を覗き込むと、勇者クルックドールはベッドに横たわっていた。
「いや、寝るんかい」
「旅立たんと!?」
これにはさすがにツッコんでしまうだろう。
「あははは……やっぱり最初にここに来た時は困惑しちゃうよなあ」
そう言いながらタロさんが俺たちに事情を説明してくれる。
「【勇者クルックドールの旅立ち】。一つの劇なんだ。この【機械仕掛けの劇場世界】にいる住人は、ずっと劇場の中で生きている。繰り返される劇場、それがこの世界にとって、繰り返される日常なんだ」
だから毎日、勇者クルックドールは旅立たない。
そしてまた朝になるとあの劇場が開演される。そんな人形劇がそこかしこで見れるらしい。様々な演劇を見てみたいとワクワクする反面、少しだけ不気味とも思う。
「つまり、ここん人形全ては何か役ば持っとーと?」
「そうだね。役を演じるために稼働……生きている。それがここに住む人形たちの運命っぽいんだ」
こんなにも賑やかな街なのに、決まった役割を演じ続けるしかない人形ばかりというのは……少し切ないような、寂しいような……。
俺と夜宵、そしてタロさんもその表情を見る限り、同じ気持ちだった。
「勇者クルックドールは帰還シタ!」
唐突に勇者クルックドールの家の扉がバンッと開く。
「見テ! 勇者クルックドールよ! 帰って来タノヨ!」
「我ラガ勇者のゴ帰還だ!」
「女王ハ見つかっタノカイ?」
「無事で良カッタヨ、クルックドール!」
「冒険譚を聞カセテくれー!」
勇者のおでましで様々な人形たちが熱狂してゆく。
そんな人形たちの姿を、タロさんはぽかん口を空けながら眺めている。
「そんな……いつもは勇者クルックドールが旅立って終わるはずなのに……こんなのは初めてだ!?」
人形たちはタロさんの驚愕など露知らず、どんどん劇を進めてゆく。
「俺ハ勇者クルックドール! 長い旅ヲ経テ、俺ハ悟った! 女王はモウイナイと! ナラば、ドウするベキだ!?」
勇者クルックドールの大演説に、周囲の人形たちの熱狂も増していく。
「そウだ、女王候補にフサワシイ少女、貴婦人がイルじゃないか! ココニハ! 我が故郷ニハ! ソウ、『女王劇場への入場券』をソノ手に持つキミこそが女王候補にフサワシイ!」
突然、勇者クルックドールは夜宵の右手を握り、もち上げた。
すると人形たちの大歓声がわく。
「我こそハト煌めく少女タチヨ! 貴婦人ガタよ! 女王ニフサワシイ美しさを証明スルノダ! コノ、神に封じらレた【機械仕掛けの劇場世界】ヲ導く女王の座ヲ、勝ち取るノダ!」
「【女王の戴冠式】の開催ダ!」
「数十年ブリの【女王の戴冠式】だ!」
「我らガ女王を決メルのだ!」
「着飾れ娘タチヨ! 美を競え貴婦人タチヨ!」
なぜか夜宵を巻き込んでの突発イベントが始まった……?
困惑する俺たちだが、タロさんが少しだけ感動したように呟く。
「止まっていたはずの歯車が……時が、動いた?」
「劇の続き、物語が進んだっちゃ?」
機械仕掛けの街並みには、凄まじい熱気が広がっていった。
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