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35話 枯れ果てた水宮殿
しおりを挟む「というわけで! 海斗そらちゃんこと、藍染坂蒼さんがこのたび【にじらいぶ】に所属することが決定したわ!」
「どういうわけだよ」
いつもの放課後図書室ミーティングは紅のとんでも発言で始まった。まさかの大手YouTuber海斗そらがうちに電撃移籍とか聞いてない。
ちなみに図書室には俺たち以外、生徒はいない。
「あー、白くんは聞いてなかったのかな。えっと、コラボウィークの打診をしてるときにそういうお話を夕姫さんからいただいて、ね?」
「わーい、です! 3人そろえば文殊の呪文? なんとかって言います!」
紅も月花も大歓迎な雰囲気で、俺だけ渋る態度を取るわけにもいかない。
そもそも藍染坂さんと放課後もこうして一緒にミーティングできるなんて夢のようだし。
「言わずもがなだけれど、そらちーの担当カラーは青よ!」
「ぼくは銀色です」
「じゃあ、夕姫さんは……きるるんは赤ってわけだね」
「そうね。そして今日はそらちーに水泳部を休んでもらったけれど、私たちが3人でコラボ活動するのは基本的に週末を予定しているわ」
「さ、再生数の伸びやすい土日、です」
「えらいわね、ぎんちゃん。ライバーとしてよく勉強しているわ。コラボ方式は長時間のリレー方式を採用するわ。順番に各チャンネルを巡って異世界《パンドラ》配信を行ってゆくの。ナナシが作ってくれるバウムクーヘンのおかげで信仰が回復するから、変身時間もだいぶ伸びるわ」
「つまり、きるるんのチャンネルで2時間配信したら、次はぎんぴのチャンネルで2時間、その次はあたしのチャンネルでって感じかな」
「そうよ。空いてる日は、なるべく切り抜き用やショート動画の素材を確保しておきたいから、息抜きがてらにナナシを連れて異世界旅行をするわ」
「わーい!」
「それは、楽しそうだね! あっ、あたし今日フリーだよ」
「ぼくも、フリーです!」
「決まりね!」
紅がパチンと指を鳴らせば、俺の視界に記録魔法が宿る。
俺の意見などお構いなしに放課後のスケジュールは決まったようだ。
まあ、いいけどな。
推したちが仲良さそうに話し合う絵、それだけで眼福というものだ。
「いざ! 未知なる異世界へ!」
きるるんの号令の下、推したちは瞳を輝かせた。
「その前にナナシちゃん! みんなにおでんを所望するわ!」
推したちはさらに瞳を輝かせるのだった。
◇
そんなわけで、【牛王煮込みおでん】によって全ステータスが一時的に2倍になった彼女たちがやってきたのは、つい最近まで黄金領域だった都市だ。
その名も【枯れ果てた水宮殿】だ。
「巨大な丸い水槽が……連なっているなんて、不思議な光景ね」
「小さい水槽、おっきい水槽、重なって宮殿みたいです」
「わあ……中には植物とか、建物とか色々ぎっしり詰まってるんだね」
「まだ水の入ってる水槽もかなりあるようね」
「水中都市ですー?」
「黄金領域の時は【ひび割れた水宮殿】って呼ばれてたっぽいよ?」
「確かに、所々にひびが入っているわね。ここも【砂の大海】に点在するオアシスの一つ、だったわけね」
「このヒビから侵入するです」
「慎重にいこー」
旅行と言っておきながら、がっつりダンジョン探索になってるんだよなあ。
前のスタンピードでモンスターに支配されてしまい、神が再び封印されてしまった地は退廃的な雰囲気をまとっていた。
水のないアクアリウムにはレンガ調の建物が風化しており、崩れる寸前だ。水が残っているアクアリウムには、建物に緑の苔がビッシリと生えており、これはこれで幻想的だと思わなくもないが……どこか侘しい気持ちにさせられる。
「ワフッ」
「くきゅー?」
ちなみに今日は、フェンさんときゅーが小型犬ぐらいのサイズになってついてきている。
きゅーはいつものことだけど、フェンさんはとある理由があって俺に同行しているのだ。
「ん、きるる姉さま、あれってシャボン玉です?」
「んん、いえ、気泡? 泡かしら?」
「フワフワ浮いてるねー見に行ってみる?」
ぎんにゅうが発見したのは、宙に浮いている無数のガラス玉だった。
遠くから見たら確かに気泡の類に見えたけど、近づいてみるとわかる。ふわふわとただよう直径1メートルほどのガラス玉の中には、不思議な植物が入っていた。
「不思議です……【枯れ果てた水宮殿】。ここにはいったいどんな物語があったです?」
「んん……ゲーム時代の設定通りであれば、あのガラス玉に入ってる植物は【虹を呼ぶ天使】のご飯だったと思うわ」
「きるるんすごいね。あたしは【転生オンライン:パンドラ】で、ここまで攻略してなかったんだー」
「けっこうな古参なのよ、私。でも、確実じゃないわ」
「さすがきるる姉さま」
「ぎんぴはどこまでプレイしてたの?」
「ぼくは【剣闘市オールドナイン】方面だったから、【世界樹の試験管リュンクス】方面は初です」
「おっ、あたしも同じく【黄金郷リンネ】方面で活動してたから、こっち方面は無知だよ」
「ナナシちゃん。何かここについて気付いた点はあるかしら?」
急に話題を振られた俺は、とりあえず技術【七色硝子の貴公子】で習得した【溶解】を発動しながらガラス玉に触れてみる。
飴のように溶けたガラス玉。
その中にある不思議な植物を手に取り、【審美眼】で視てみる。
【聖なる綿雲草】
『雲を作る聖なる草。古来より、水が貴重な砂漠地帯では雨を司る草として神聖視されている。【虹を呼ぶ天使】の大好物である』
「きるる様の仰る通り、【虹を呼ぶ天使】の好物だそうです」
「えれふぁん・えんじぇる……天使のぞうさんですか?」
「んん……実はゲームではそんな生物いなかったのよね。ゲーム時代は設定、いわゆる伝承だけの存在だったのだけど……だから実物が見れるかもって、【ひび割れた水宮殿】に来るのを楽しみにしてたのよね」
「ロマンってやつだね、きるるん」
それから俺たちは数匹のオークと遭遇するも、3人の魔法少女によって即座に倒されてゆく。ステータス2倍のバフは伊達じゃない。
そして前回の防衛戦でも思ったのだけど、そらちーは徒手空拳を得意とする魔法少女らしい。その身体に羽根が生えているかのような立体的な動きで、相手にパンチや蹴りなどの物理的な攻撃を行う。
おそらくその拳に青系統の魔力をまとっているのだろう。
きるるんとそらちー2人が前衛でぎんにゅうが中衛、なかなかバランスが取れたパーティーのように思える。ちなみに俺は撮影係兼後衛って立ち位置だ。
そんな風に攻略も安定してきた頃、俺たちは妙なものを発見した。
それは妙にデフォルメチックなクマ————
小さなクマさんのぬいぐるみたちが屋根の上に、路地裏の奥に、二階の窓際に——
至る所にいたのだ。
廃墟の影に蠢くクマさんたち。
生気のない真っ黒まんまるな瞳で、こちらの様子をうかがっている。
「なによ……あれ……」
「かわいい、クマさんです?」
「たったしかに……! かわいいぬいぐるみだね!? 追いかけてみようよ!」
妙にテンションの高いそらちーだが……俺は違和感を覚えた。
技術【万物の語り部】による意思疎通が、あのぬいぐるみと……くまさんたちとできないのだ。
そんなのが無数に建物の影からちょこちょこと現れ、こっちを監視している。そして、ぴょこぴょこと手招きをしているのだ。
ちょっとした不気味さを覚えるのは俺だけだろうか?
「何にしろ、捕まえてみましょう。なんだか面白そうだから緊急生配信をするわよ!」
「わーい! 賛成です!」
「あのクマさん、も、持ち帰ってもいいよね!?」
俺だけだったようだ。
◇
【海斗そら 変身後ステータス】
身分:魔法少女/拳闘姫/天海姫
Lv :3
記憶:2
金貨:11枚
命値:2(+1)信仰:3 (+2)
力 :2(+2) 色力:3(+1)
防御:2(+1) 俊敏:1(+2)
【スキル】
〈魔法少女Lv1〉
〈鉄腕Lv1〉
〈蒼天魔法Lv1〉
【技術】
〈魔女の弟子Lv1〉〈怪力Lv1〉
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