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27話 クラスの推しと画面の推し
しおりを挟む「ナナシロくん……少し話があるんだけど……」
【砂の大海】で一夜を明かした次の日。
早朝から神妙な面持ちでキヨシさんたちが話しかけてきた。
「どうかしましたか?」
「その……昨夜からステータスが上がってるんだ……僕は命値が2も上昇していたよ」
「わしゃ色力と信仰が1ずつじゃ」
「俺は素早さが2も上がってたぜ。身体がかりいー」
「私は筋肉と信仰であーる!」
「これってまさかと思うけど、昨夜食べたナナシロくんの料理のおかげ……なのかい?」
「あー……」
やっばい。
昨日は『海渡りの四皇』のみんなから仲間認定されたような気がして、つい嬉しくなって料理をふるまってしまったけど……正直に話していいものなのか判断しかねる。
紅曰く、俺の作る料理の力を権力者なんかに狙われたら、独占目的で監禁されたりする恐れがあるって話だったよな……。
でも……。
じゃあコソコソ夕姫財閥の影に隠れて、料理を提供してゆくだけでいいのか?
そもそもそういった危険性から身を守るために後ろ盾を得たんだ。
だったら、俺が料理を食べてもらいたいと思った人ぐらいは、いいんじゃないだろうか?
『海渡りの四皇』のみんなは少なくとも信頼できる。
だから、正直に向き合おう。
「はい。どうやら俺の作る料理には、ステータスを一時的に変化させるものから、永久に変化させるものもあるようです」
「それは……!」
さすがはキヨシさんたちも高位の冒険者だ。
紅と同じく、驚愕の顔で俺を見つめる。
「なるべく言いふらさないでほしいです」
「も、もちろんだ! ナナシロ君がそう願うなら、みんなも無闇に広めないよね?」
ニカッと清々しい笑みでサムズアップするキヨシさんに続き、他のメンバーもすぐに同意してくれる。
「ふぉっふぉっ。ナナシロ坊の機嫌をそこねて、またあの美味なる珍味を口にできなくなってしまう方がわしゃ嫌じゃ」
「つーかよお、こいつの絶品料理を誰かに言うってことは、俺らがこいつの飯にありつける機会が減るってことだろー? んなもん、ぜってーにさせねえ」
「強き筋肉の望みならば、神の御心と同じく従うのみである」
「それで実はなんだけど……少し、みんなと話し合ってね。もしナナシロくんよかったら、僕たち【海渡りの四皇】に入らないかい?」
「ふぉっふぉっ、ぬしが入れば五皇になるのお」
「俺は美味い飯が食えればなんでもいい」
「筋肉が増えるのはよいことであーる!」
まさかの高位ランク冒険者たちに勧誘された。
その事実は喜ばしいものであったが、彼らがいい人であればあるほど少しだけ心苦しかった。
「すみません。俺にはもう……お仕えするべき主がおりまして! その、勧誘のお話は嬉しいですが、申し訳ありません!」
「へえ……ナナシロくんほどの人物が『仕える』ねえ。それはすごそうだ!」
「ふぉっふぉっ、愉快そうじゃのお?」
「っち。おもしろくねーけど、しかたねーか!」
「筋肉の決断は何よりも優先されるのであーる!」
こうして俺たちは和気あいあいと【世界樹の試験管リュンクス】へと帰還した。
約三日間の冒険は実り多いものだった。
「じゃあ僕はクエスト完了の報告に行くよ。報酬の分配は口座に振り込んでおくね」
「わしゃあ家に帰るかのう。生きとるうちに孫を少しでも見ておきたいのじゃ」
「ちっ。仙じぃはなんだかんだ長生きするタイプだろーが」
「よしよし、十分に間に合ったのである! 三日後はゆっくりと、そらちゃんのダンジョンコラボ配信をリアタイでチェックできるのであーる!」
解散する流れとなったので、俺も俺でスマホをチェックする。
すると紅から数件の業務連絡が来ていた。
なになに、順調に【海斗そら】とのコラボで登録者数は伸びている。
ぎんにゅうにはモデル業の依頼がさっそく2件も問い合わせがきていた。
ふむふむ、今日はダンジョン配信の前準備として、【海斗そら】と一緒に【世界樹の試験管リュンクス】へオリエンテーションに来ている。
ん?
これってもしかして豪田さんに言えばめっちゃ喜ぶんじゃ?
いや……でも、相手は登録者数300万人超えの超大物だ。いくら友達にファンがいたとしても、仕事の関係上で関わる相手と引き合わせるなんて失礼じゃないだろうか?
そもそも豪田さんがリア凸勢の類だって勘違いされたら、かなり迷惑がられてしまう。
「そらちーと会うためにも、まずは帰宅して身綺麗にせねばらないのであーる! そして、来たる三日後は【世界樹の試験管リュンクス】を徘徊しまくるのであーる!」
んんんー……リア凸勢?
豪田さん。
すまない。
紅から送られてきたタイムテーブルを見る限り、明後日には【世界樹の試験管リュンクス】から【天空城オアシス】といった黄金領域に移動するらしい。
コラボ配信が始まってからじゃ……【砂乗り船】を使っても、さすがに追いつけないだろうなあ。
さて、俺も明後日からは彼女たちと同行する予定だから、疲れをしっかり取るためにも帰宅するか。
◇
今日はいよいよ【海斗そら】とのコラボ配信が迫っている。
学校はちょうど午前授業で終わるため、午後から配信を始める予定だ。
今更だけど少しビビっている。
なにせ登録者300万人なんて大手だ。成功すればかなり話題になるだろう。逆を言えば、今回のコラボはきるるんとぎんにゅうにとって、絶対に失敗できないチャンスなのだ。
そんな場に俺も同行する。
だから俺は————
身を引き締めるため、久しぶりに早朝登校していた。
「ふぁあ……やっぱ、誰もいない教室ってなんか落ち着くなあ」
「ありゃ? 誰もいなくなくてごめんね?」
俺の独り言に反応してくれたのは、まさかの藍染坂蒼だった。
たった今、教室に入ろうとしていたのか、ドアの隙間から可愛らしい顔をのぞかせている。
「お邪魔だったかな?」
「やっ、別にそんなことないよ! こっちこそ変な気を使わせてごめんっていうか」
「ならよかった」
そうして藍染坂さんは自分の席につくかと思えば、なぜか俺の前の席に着席して俺と向き合った。
なぜか『むふー』っと天真爛漫そうな笑顔を咲かせる。
おわーやっぱ早起きしてみるものだなあ。
クラスのリアル推しの尊すぎる笑みいただきましたー!
「最近の七々白路くんは顔色がすこぶるよいね?」
「ああ、推し活————じゃなくて推しごとが楽しくてな」
「ふぅーん? おしごとね。アルバイト掛け持ちって聞いてたけど、無理はしないでね?」
やさすういいいいいいい。
これだ。
これこそ俺が求めていた言葉。
するっと心に入り込む癒しである。
「仕事は一本に絞ったんだ」
「わあ、決心したんだね」
「そんな大それたことじゃないけどな……」
「何はともあれ、七々白路くんが健康そうならあたしも安心かな」
どうして安心するのかとか、どうしてこんなに藍染坂さんは優しいのかとか、そんなのはどうでもよかった。ただただ、藍染坂さんの素晴らしさに感銘を受けるばかりだ。
「今日は一日よろしくね? 七々白路くん」
「ああ、よろしく?」
気さくな距離感バグ、それが藍染坂蒼という美少女だ。
クラスでの付き合いが決して上手じゃない俺にすら、するっと懐に入ってきては心地良い空間を作ってくれる。
彼女は天性の人たらしなのかもしれない。
「んーでもちょっと堅いなあ」
「えっ何が?」
「んんー動き? よーっし、このあたしが七々白路くんの肩をもんであげる!」
「えっ、えっ!?」
俺が拒否する間もなく彼女はするりと背後へと回り、肩をもみもみしてくる。
藍染坂さんのシャンプーの匂いがする。
「ほらほらよーしよし。だんなあ、けっこう肩がこっていやすねえ」
「あっ、ああ……うむ」
「どうですかい? あっしのほぐし加減は?」
「な、なかなかによいぞ」
藍染坂さんがいつも演じる変なキャラ設定に、思わずクスリとなる。
いつの間にか。
今日のコラボに対するプレッシャーが……強張っていた俺の緊張はほぐされていた。
◇
「ぎんちゃんとナナシ、今日はいつも以上に気合を入れてゆくわよ!」
「きょ、今日も頑張ってばっちばっち稼ぎます。きるる姉さま!」
「おー」
きるるんは瞳をメラメラと燃やし、ぎんにゅうは瞳にドルマークが浮いていた。
どうやら【海斗そら】とのコラボウィークはかなり功を成しているようだ。
「わかってるとは思うけれど……コラボウィークの大取り二日間飾るのは、私たちの十八番分野、ダンジョン配信よ! ここで一気に【海斗そら】のリスナーの心を掴んで、あらかたもぎとって私たちのチャンネルの糧にするのよ!」
「は、はい! く、喰らいつきます! ぜ、ぜんぶ、おいしいところ、いただきますっ!」
「おー」
「あははははっ! やっぱりきるるんは面白いねー!」
我々【にじらいぶ】のそんな黒い会合に入り込むのは、コラボ相手ご本人様である。
空色の髪はミディアムロングにハーフツインといった、ちょっとあどけなさが残るスタイルだ。しかし身体のスタイルは手足が長く、健康的である。
まさに部活少女といった雰囲気ではあるけれど、色白なのが妙にミステリアスさも醸している。
「普通さ、コラボ相手を目の前にしてそんな際どい発言しないよ?」
「ふっ。私は貴女に誠意を示してるつもりよ? 今後を考えるなら本音で語り合った方が建設的でしょう?」
そして何より印象的なのは蒼穹色の両目だ。
海の深淵に吸い込まれるような、シンプルな綺麗さが幾人もの男子を魅了してきただろう。
まるで、そう————
藍染坂さんのような瞳に、少し動揺する。
「まーあたしもそっちの方がわかりやすくていいかな? やりやすいしー!」
「貴女はそういうタイプよね。それに例の件を前向きに検討してもらうにも、私とぎんちゃんの実力は知っておきたいでしょ?」
「そらちゃん、僕、がんばります」
あれ?
なんか【海斗そら】って藍染坂さんに似てないか?
しかも何ていうか……紅、きるるんと【海斗そら】のやり取りは妙にフランクというか、コラボウィーク後半といっても距離感が近いように思える。
たった数日でここまで自然に語り合えるのだろうか?
そう、まるで既知の間柄であったような……。
「それで、そちらの人————」
【海斗そら】さんは俺の方を見つめ、きるるんを促す。
「きるるんの執事さんを、あたしに紹介してくれるのはいつになるのかな?」
「はぁ? 今更このナナシを紹介しても無意味よね?」
「そうですね」
えっ、ぎんちゃんまでひどくないか!?
「まあ、そうなるよねー。別に紹介はいらないかー」
えっ、【海斗そら】さんまで!?
大御所なだけあって、他所のスタッフを軽視する対応でも許されるのかあ。
そんな扱いに悲嘆する俺に、【海斗そら】さんは首を傾げながら急接近してくる。
おわっ、この間合いをするりと詰めて来る感じ————
妙に既視感がある?
ん、この香りもどこかで嗅いだことがあるような————
「あれれ? あれ? うわー……気付いてないんだ? うっわー、あたし地味にショックかも」
「ゴキブリだから仕方ないわ」
「Gってわりと敏感なはず、ですよね?」
三人だけが状況を理解していて、もはや俺だけ置いてけぼりだ。
しかも、【海斗そら】さんはすっと俺の後ろに回り込み、なぜか肩をもみ始める奇行に走る。
余計に訳がわからず、混乱しながらもどうにか後ろを振り向く。
すると彼女は頬をぷくーっと膨らまし、ひどく可愛らしいご尊顔を拝ませてくれた。
「ほらほらよーしよし。だんなあ、けっこう肩がこっていやすねえ」
「えっ?」
その口調、その台詞……。
「今日は一日よろしくね? 七々白路くん」
「えっ……えーっと、もしかして藍染坂さん?」
「やっとお気づきになられたかーだんなあ! あたしも魔法少女っす!」
「えええええええええええええ!?」
まさかの【海斗そら】は、現実の推しだった。
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