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23話 銀条さんのお願い
しおりを挟むぼくの家は母子家庭で歳の離れた小さな妹たちがいます。
お母さんはいつも働きづめで、だから中学に上がってからはアルバイトをよくするようになりました。主な収入源は新聞配達のアルバイトです。
家計を少しでも支えたい。
そんな思いで過ごしていた中学二年生の春、僕は魔法少女のステータスに目覚めました。『異世界アップデート』が起きた当日だったのです。
何のとりえもない……妹たちに隠れて自慰行為にふけるだけの僕に、これはきっと神様がくれたチャンスなんだって思いました。
これでやっと、まとまったお金が稼げるかもって期待したです。
でも、僕のスキルは『相手の攻撃をある程度反射するもの』だったり、バフをかけたりするもので……役に立たないわけではないけれど強力ってわけでもありません。
地味なスキル。
普段の僕を体現したようなもので……最初の頃は魔法武装で冒険者の中でも強い方だったのに……だんだんとついていけなくなって……。
命を賭けているのに自分だけ成長できないまま、危険にさらされます。
いつしか割に合わないって辞めちゃいました。
それから僕は興味本位で……自分の快楽に溺れるために、自分の身体をSNSで晒すようになりました。
誰かが僕に夢中になって、えっちなことをしてると思うとすっごく興奮しました。
でも、何かが満たされなかったです。
多分……それはみんなが見てるのは僕の身体であって、僕の心ではないから。
僕の身体に惹かれて僕の身体だけを求めている。
だから直接金銭のやり取りやオフ会は怖いからしませんでした。
トラブルになりそうだし……。
でも生活費を支えるためには多少の稼ぎが必要だったから、定額制のサービスを開始しました。月額500円を払ってくれる人にだけ、いつも晒す写真よりちょっと刺激的な衣装を着た限定動画を送ったり。
そうしてどうにか妹たちの食費を賄います。
良かったと思います。
僕も気持ちいいことは好きだし、みんなも喜んでくれるなら幸せなんだって。
でも安心できる誰かと……一緒にあんなことやこんなことができたらなって、自分の身体を晒すたびにその欲求とフラストレーションはたまってゆきました。
クラスの隅で僕は一人、本を読みます。
地味で目立たない僕が……実は裏垢をしてるって同級生の男子にバレちゃって、それをネタにゆすられて……あんなことやこんなことをされて、性欲を吐き出すだけの道具として乱暴に扱われて……それで最初は互いの身体を求めるだけの関係だったのに、だんだんと本気になって……そんな妄想をずっとするようになりました。
そんな時、七々白路くんに出会ってしまったです。
うーうん。以前から七々白路くんのことは知っていました。
綺麗な顔をしてるのに、いつも疲れきって死んだ魚の眼をしてるから『おじ』ってあだ名で呼ばれてるのを耳にしていたから。
彼もバイトに明け暮れる日々を送ってるそうで。そんな彼に少しだけ共感を覚えていた時期がありました。
それでも彼をちゃんと意識し始めたのは、魔法少女VTuberの【手首きるる】さんの配信がきっかけでした。
魔法少女なのに、冒険者として配信を始める。
今もまだ諦めずに冒険者をする……そんな彼女を、多分……魔法少女だったら絶対に見てると思います。一度は諦めた道を、まだ追えるだけの強さがある魔法少女がいるのかって、興味を絶対に抱いちゃう。
だから配信で見かけた【世界樹の試験管リュンクス】に足を運んでみました。
リア凸みたいな形になっちゃったけど……。
そうして僕は【手首きるる】さんには会えなかったけど、彼女の執事さんであるナナシちゃんに美味しいバウムクーヘンを御馳走してもらいました。
そう、某掲示板で見かけたナナシちゃんのスクショは……どことなく、隣のクラスの七々白路くんに似てるって思っていたけど。
まさか本当に本物で、執事のナナシちゃんが隣のクラスの七々白路くんだなんて夢にも思わなかったのです。
彼が魔法少女を支える執事さん。
運命って感じました。
それこそ、僕の妄想を叶えてくれる王子様なのかもしれないって。
そんな気持ちをこの間、ちょこっときるる姉さまに言ってみたら『王子様なんて待っていても来ないのだから、こっちから迎えに行けばいいだけなのよ』と鼻で笑われました。
とにかく僕は七々白路くんと、もっと、お話をしてみたいって思うようになりました。
今では2人と出会えたおかげで、安定して稼げています。
収入も増えて、目に見えてお母さんや妹たちの笑顔も増えてとっても幸せです。
魔法少女VTuberになるためのプロデュースをしてくれたきるる姉さまと、きっかけを作ってくれた七々白路くんにはすごく感謝しています。
それに……僕の性欲を満たしてくれそうな素敵な男性もいるから最高です。
なんとなく、七々白路くんといれば安心できます。
でも、一つだけ彼には不満があります。
だから今日は、勇気を振り絞ってそれを伝えてみようと思います。
すごく、すごく、恥ずかしい要求だけど、でも絶対にしてほしいことです。
「おー、銀条さん。昨夜のゲーム配信おつかれー」
「あ、七々白路くん。見てくれた、ですね」
「まあ、ライバーさんの配信をチェックしておくのは仕事のうちだし。でも銀条さんは無理しすぎないようにね。ただでさえ環境が一気に変わっただろうし」
「うーうん……楽しいから、大丈夫です」
「そうか? マジできつくなったら俺からも紅に言っておくよ。俺なんか不平不満はすぐ紅にぶつけまくってるよ?」
「紅、さん……」
「ん? 紅がどうかした?」
彼の首を傾げる仕草が妙にえっちです。
喉ぼとけがもりあがって、首筋から伸びた筋肉が————
あ、惚けてる場合じゃないです。
今が僕の欲求を、要求と伝えるチャンスです!
「あの……きるるんばっかりずるいです」
「え?」
こんなことを要求するのは恥ずかしいです。
でも、ここで言わないと————
「あの、僕のことも……下の名前で呼んでほしい、です」
下の、だなんて我ながらえっちな台詞です。
「え? にゅうってこと?」
「ち、ちがいます! そ、その、月花って……」
「あー……ああ、本名の方か! オーケーオーケー。んー、銀条さんって月花って名前なんだ。綺麗な名前だな。俺もせめてそういう感じの名前がよかったよ」
僕が思ったよりもすんなり、本当にすんなり七々白路くんは受け入れてくれました。
小学校以来、男子から名前で呼ばれることなんてなくなった僕には……刺激的すぎる一大イベントも、彼にとっては日常茶飯事なのかもしれない。
そう思うと…………うん、これはこれでいいかもしれないです!
この雑に扱われる感じ……性欲のはけ口にされて消費されるだけのオナ〇ホと同じような————って違います!
今はそうじゃなくてですねっ!
「じゃあ、月花も俺のことは名前で呼んでもらって構わないよ」
「あっ、やっ……それは恥ずかしいと言いますか……」
「だよなー……」
「あっ、やっ……決して七々白路くんの名前が変だからってわけではなくて……」
「大丈夫、大丈夫、そこんところは気にしないで。自分の名前が呼びづらいってのは、わかってるから」
自分は求めてるのに、同じことを自分がするってなると恥ずかしくなって、怖気づいてしまう……そんな自分が情けないです。
彼にも申し訳ないです。
「さ、紅がミーティング待ってるだろうから図書室に行こう。月花?」
だけど彼は、気にした素振りもなく僕に手を差し伸べてくれます。
やっぱり七々白路くんは……優しくて。
僕の王子様なんだと思う。
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