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21話 神々の遊び
しおりを挟む【夢の雪国スノウドリーム】は『図書館ダンジョン』シリーズと呼ばれるダンジョンらしい。かなり珍しいダンジョンで攻略者がダンジョンの所有権、というより本の主として認められるそうだ。
つまり【夢の雪国スノウドリーム】と背表紙に書かれた本は……今や、俺の個人的な持ち物となっている。
この本を開けばいつでもどこでも『夢の雪国スノウドリーム』へ転移できるってわけだ。
「まるで物語の中に入り込むみたいだな」
『おおーきたかきたか。うぬが来るのを待ちわびておったぞ』
『やあ、フェンさん。調子はどうだい?』
『なかなかのものだな。ほれ、【羊毛の雪娘】らもきっちり【雪羊】の面倒をみておる』
『フェンさんがしっかり教育指導してるからだね』
実際はフェンリルという強大な神獣が四六時中睨みを利かせていたら、誰でも死に物狂いで働くだろう。
厩舎では頭から羊の角を生やした少女たちが、数十匹の【雪羊】の世話をしている。
【羊毛の雪娘】と呼ばれた亜人種たちが、雪のような真っ白いもふもふを一生懸命に育てている様子は微笑ましい。
フェンさんの脅しさえなければ。
『フェンさん。彼女たちは俺たちにすごく協力的だから優しくね?』
『我に従うのは自然の摂理だが?』
『自然の摂理ねえ……知ってたかい? 人間も動物も神獣もストレスが続くと、あらゆる面で不都合が生じるんだ。これも生物にとっての摂理かな』
『ほう。それと我が【雪見もちもち】がどう関係すると?』
『俺の【審美眼】で【雪見もちもち】は、【雪羊】のフンで育ちやすくなるって判明したよね? その【雪羊】がもしストレスを抱えたらフンの出も悪くなる。そうなると【雪見もちもち】の品質は下がるだろうなあ』
『一理、あるやもな……【雪羊】を無闇に急いたり威嚇するのはよそう』
『動物っていうのは敏感だろう? お世話をする人達も恐怖に怯えていたら、そのストレスは【雪羊】たちにだって伝播するよ?』
『……ぬううう。あいわかった。【羊毛の雪娘】らにもプレッシャーはかけぬ』
『そうそう。偉大なフェンさんはどっしりと優雅に構えてればいいんだよ。あとは彼女たちや農作物を、危険から守ってくれればいいだけさ。敵なしのフェンさんにとってそんなの朝飯前だろうし』
『ぬしはわかっておるな。承知した』
それから俺は【羊毛の雪娘】に混じって【雪羊】の面倒を見てみることにした。
「ナナシ様。ご機嫌麗しゅうめぇー」
「ナナシ様きたらフェンリル様が優しくなっためぇー」
「めーめー! さすが【吹雪く花憐スノウホワイト】様の相談役様めえー」
実際には俺が女神に相談している側だけれど、この国での立場は相談役らしい。
だからこそ彼女たち【羊毛の雪娘】たちも俺に協力的なのだが。
「みんなおつかれさま。何か変わったことはあったりする?」
「こちらの【雪羊】の親子が元気ないめえー」
「こっちの【雪羊】の雄は、気性が荒くてうちらの言う事をなかなか聞いてくれないめえー」
「ふーむ」
俺は元気のない親子へ技術【放牧神の笛吹き人】で習得した、【陽気な口笛】を吹いてやる。
「ピュッピュッピューイ♪」
すると親子は目に見えて生気を取り戻し、餌を食み始めた。
この口笛は獣たちの病を癒やしたり、活性化させたりする効果がある。
また、気性の荒い雄には……ふむ、彼はどうやら群れのリーダーであるようだ。ならば【安堵の口笛】を施す。
彼はフェンさんの強大さを誰よりも理解しており、常に警戒態勢だったらしい。【羊毛の雪娘】たちもフェンさんの仲間と判断した彼は、全面的に屈服はしていないと態度で示していたらしい。でないと群れの権利が全て剥奪され、喰い尽くされると思っていたようだ。
しかし俺の口笛により、俺やフェンさんが望むものがわかれば安堵してくれた。
ついでに俺たちの庇護下にいれば、フェンさんが群れを守ってくれさえすると伝えれば、上機嫌で【羊毛の雪娘】の毛刈りにも協力的になった。
そう、【雪羊】の毛は様々な物に加工できるのだ。
今は女神の復活により気温も穏やかでぽかぽかしているが、ダンジョン攻略当初はきるるんもぎんにゅうも寒そうにしていた。
俺には技術【神を彩る裁縫士lv70】があるので、推しのために防寒着を作るのも夢ではない。
さらに【雪羊】たちの雌たちからは定期的に乳しぼりが行われており、いずれはチーズなども作れるようになるだろう。
「めーめーめめ?」
「めえええめーめっ!」
なにより【雪羊】たちは可愛い。
つぶらなくりっくりっの真っ黒い瞳がこちらに向けば、『ごはん?』『一緒にもこもこする?』『あたたまる?』『雪遊びする?』などと意思が伝わってくるのである。
雪原の中でこんもり白い塊がころころ動く姿は見ているだけで癒される……が、俺はもちろん『一緒にもこもこ』を楽しむ。
毛刈りの済んだ子たちも丸裸にされて不憫に見えるが、彼らはぽかぽかな雪に身を投じてはしゃいでいる。
雪で暖を取っていると言ったらおかしな話だが、いわば天然の温泉に浸かり放題といったシチュエーションらしい。普段は他の捕食動物を警戒しなくてはいけないが、今は群れ全体にフェンさんが護衛をすると正確に伝わったようで幸せそうだ。
俺も【雪羊】たちの輪の中へ溶け込み、ぽっかぽかの雪が積もった場所へダイブする。
「うはぁー……ちょっと弾力性のある雲の中って感じ?」
しかも手足の先までじんわりと温まる心地よさ。
癖になるぞ!?
「さすがめえー……」
「数時間でこれほど【雪羊】を統率できるなんて、偉業だめえー」
「放牧神さまの生まれ変わりめえー」
自堕落に寝そべっているだけなのに、なぜか【羊毛の雪娘】たちの尊敬の眼差しがすごい。
さて、いつまでもだらけている場合じゃない。
俺はあくまで紅の雇われの身。
ひいては魔法少女VTuberたちのお世話をしなくてはならないのだ。
次の食材ぐらいは調達しなくてはいけない。
というわけで少し離れた場所に生えた巨木を素手で叩き折る。
さすがステータス力302の怪力だ。
「んんー……『氷晶の樹木』ね……まあ、素材としは問題ないかな? ————【農具生成】」
技術【神器職人】による技で、試しに鍬や鋤を生成してみる。
神が宿るから神器、なんて大げさな技術の説明文だが、ゲーム時代と同じならそこそこの性能の道具が創り出せるはず。
「【雪神の鍬】と【凍神の鋤】ね……ふむふむ、どちらも雪原を土壌として耕すには最適な農具か……しかも装備中はスタミナが減少しないし、自動で耕してくれる? これは使える!」
っしゃああああというわけでこの辺を耕しまくる。
区画は【雪見もちもち】が植えてある隣の土地を指定し、豪速かつ丁寧に鍬と鋤を使い分けて耕しまくる。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
「農耕の神が舞い降りためえー」
「まるで鬼神のようだめえー」
ものの数分で100平方メートルの農地が完成。
というか雪と土をうまくブレンドした特殊な農地になってるけど……これで大丈夫なのか?
ま、【雪神の鍬】と【凍神の鋤】がこれでいいって俺の身体を自動で動かしたわけだから気にせずにいくか。
「よし! あとは……地球から持ってきたジャガイモやにんじん、そしてブロッコリーと玉ねぎなどの種を植えてゆくう!」
ジャガイモは寒かったり痩せた土地でも育ちやすい特性があるし、にんじんは吸水率が低いと発芽しないので、乾燥とは無縁な雪地で試しに植えてみるのだ。逆にブッロコリーは過湿に弱いらしいから不安だ。
玉ねぎについては寒さに強いらしいけど……正直ここはそんなに寒くない。むしろ雪はあったかいからなあ……。それでも夜になればそこそこ冷え込んだりするので、どうなるのだろう?
とにかく実験的な意味も込めて、俺のなんちゃって農業が始まった。
「————【花吹雪く王の微笑み】、【大きくなあれ】」
とりあえず俺は技術【神獣住まう花園師Lv80】で習得している栄養満点と成長促進を種たちにかけておく。
すると数分でめきめきと発芽し始めたではないか。
さっそく【審美眼】でそれらをつぶさに観察してゆく。
「おお……んん、この特殊な土壌が野菜たちに多大な影響を与えた……【雪じゃが】【雪にんじん】、【雪玉ねぎ】、【雪ッコリー】か……ふむふむ。太陽光を浴びると枯れる!? え、こっちは雪を浴びせ続けないと枯れる!?」
幸いにも今はこんこんと雪が降り、空一面は雲に覆われているので心配ないけれど……もしこれから太陽が顔を出したり、雪が止んだらまずい。
このペースで成長するなら2時間もすれば実が成って、食べれるまでになるはず。となるとこの二時間が勝負なので、俺は【審美眼】の中から【天空読み】を発動。
「よし……この天候の流れから察するに、あと4、5時間は雪が続くな。これなら雪根菜、雪野菜も問題なく成長するぞ」
『ぬしよ。何やら面白そうなことをしておるな』
『あぁ、フェンさん。言いたい事はわかるよ。【雪見もちもち】にも同じことをやって早く成長させろってね』
『うむ。なぜそうしない?』
『まだ実験の段階なんだ。数の少ない貴重な【雪見もちもち】でやって、もし味が落ちたり枯れてしまったら嫌だろう? その分、じゃがいもの種とかは地球でたくさん買ってこれるから、ここで十分試してから【雪見もちもち】に運用する予定だ。フェンさんにとって大切な【雪見もちもち】に、おいそれと適当な事はできないさ』
『ぬしはわかっておるのう……で、いつ頃わかるのじゃ?』
普段は威厳たっぷりな大狼なのに、もはやフェンさんは口から『ヘッヘッヘッ』と餌を楽しみにしている食いしん坊さん丸出しだった。
そんなフェンさんに愛嬌を感じてプッと笑ってしまう。
『おっ、おぬし、この我を馬鹿にしたな?』
『いやー、バカにはしてないさ。ただ、神を喰らった大狼がそこまで楽しみにする味ってどんなものなのかなーって。神の味よりも美味しいってことだろ?』
『むう。ぬしも喰らってやろうか?』
『俺が死んだら【雪見もちもち】に合いそうな料理のラインナップも潰えちゃうな?』
『ゆ、ゆきみもちもちに合う料理だと!? そ、それは楽しみだ!』
今さら威厳を保とうとするフェンさんだが、すぐにそんなものは崩れ去ってしまう。
そんな態度が余計に面白くてついつい笑ってしまう。
そしてつい自然にフェンさんの毛並みを堪能するようになでてしまった。ちなみに顎下のあたりだ。
「クルルルルゥゥゥ………………グルウゥゥゥゥゥウウウ!?」
フェンさんが気持ちよさそうにしていたのも束の間、思い出したように威嚇の唸り声を上げる。
「きゅっきゅっきゅー?」
すると俺のポッケで寝ていたきゅーが、面白そうな雰囲気を感じ取ったのか『自分も混ぜて!』と飛びだしてくる。
すぐさま巨大化し、フェンさんへと絡み始める。
フェンさんは若干うっとうしそうにしながらも、きゅーは大はしゃぎでじゃれつく。そうして2人はしばらく楽しそうに遊び回った。
「あっはっはー、フェンさんもきゅーも可愛いなあ……ん? ちょ、ちょっと!? 天候が変化するほど暴れちゃダメだから!」
あわや2人が魔法を行使しそうになっていたので、俺は農作物のために必死になって2人を止めた。
その様子を戦々恐々と眺めていた【羊毛の雪娘】は後に語る。
『あれは神々の闘争であった』と————。
しかし本人たちは『戯れ』だったと弁明するも、彼女たちが『神々の戯れとは恐ろしや』と余計に畏敬の念を深めたのだった。
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