どうして俺が推しのお世話をしてるんだ? え、スキル【もふもふ】と【飯テロ】のせい? ~推しと名無しのダンジョン配信~

星屑ぽんぽん

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13話 ボス攻略配信とは……?

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『君の手首もきるるーんるーん☆ 魔法少女VTuberの手首きるるだよー♪』

 今話題になりつつある魔法少女VTuberのダンジョン配信が始まると、同時視聴率は10万人を超えた。破竹の勢いである。
 何せ登録者数100万人超えの人気VTuberであっても、リアタイで10万人超えの達成は難しい。

 彼女はつい最近まで登録者数10万人だったのだ。今は、先日の命を賭けたダンジョン配信が注目を集めて30万人を超えたあたりだが、それでも生配信の視聴率が記録的であるのは間違いない。

 どうして彼女が一気にバズり始めたのか、その背景には閉鎖的な冒険者社会に起因する。まず冒険者は文字通り、異世界パンドラを冒険しながら命を賭けてモンスターを討伐し、ダンジョン攻略に挑む。もちろんその活動範囲は国内で発生した問題にも対処する。

 そう、命を賭けるコンテンツであるからこそ、自身の得た情報を外部に配信するといった者は滅多にいない。もちろん冒険者の配信者はいるものの、すでに発見された手法や魔物の攻略法を紹介するのがほとんどである。つまり、真新しい発見があってもその利権を確保するために公表しない者がほとんどなのだ。
 そんな中、【手首きるる】の配信は新アイテムのレビューから始まり、新モンスターの発見を余すことなく配信したので、一般層からも冒険者層からも注目されているのだ。
 また、魔法少女といった大きなリスクを抱えての冒険が、視聴者が手汗握る一体感を覚えているのかもしれない。

 ゆえに、一般層からはまた・・未知を発見してくれる、何かやらかしてくれそうだと期待が込められる。
 そして冒険者層からは冒険の役に立つ貴重な情報源として……もしくは価値のわからないバカがまた情報を垂れ流してくれるぞ、と『美味しい所いただきます!』を狙っている。

 そんな自分の立ち位置を正確に把握しながら、彼女は配信を続ける。

『さーって、今日は二度目のダンジョン配信! って言いたいけれど、実はもう執事のナナシちゃんと【地下砂宮さきゅうブルーオーシャン】にもぐって帰って来たところなの』

:まじかああああああ
:ダンジョン攻略見たかったああああ

『ごめんね! でもすでに【地下砂宮さきゅうブルーオーシャン】を攻略配信した冒険者さんもいるでしょ? そういうのを見てるリスナーさんにとって長引くのは退屈かなって』

:心づかいができすぎてる件
:それはマジで助かる(1000円)
:メンヘラで病みやすいからこそ、他人の気持ちにも敏感になれるきるるん最高
:実は俺、【剣王】さんの安全攻略動画で見てたんよ


『でもボス戦はきるみんのみんなも見たいでしょ? だからボス前までは攻略済みなのよ。その辺まではサクサク進むのを見るるーん☆』

:配慮の女神、ここに降臨 (5000円)
:俺はきるるんのために攻略動画や配信をたくさん見漁った! アドバイスできるぞ!
:きるるんは絶対に死なせない!(2万円) 
:うおおおおおおおおおおおおがんばれきるるーん!
:何もかも切り刻んでやれえええええ!

『もしそれでも二回目のダンジョン攻略が気になるって人は、あとでナナシちゃんが編集した切り抜き動画をアップするから、そっちをチェックするるんるーん☆』

:絶対に見ます!
:ナナシちゃんが編集するとか胸熱すぎる
:きっとご主人様であるきるるんが好き好きすぎて、尊いシーンを厳選と吟味を重ねた最高傑作に違いない
:見なくともわかる。ばかかわいい動画になってる


『そんなわけで、まずはボス戦前の準備をするるーん☆ 休憩よ! ナナシちゃん!』

 木漏れ日が降り注ぐウッドデッキの片隅で、きるるんは木製のテーブルを正面に椅子へと腰かける。白いレースが机に敷かれていたりと、どことなくメルヘンチックでありながらもカントリーな雰囲気がこれまたいい感じだ。

『かしこまりました、きるる様。こちら【世界樹の紅茶リュンクス・ハニー】と【黄金樹のバウムクーヘン】にございます』

 繊細なカットが施されたガラス瓶からトクトクとティーカップに注がれたのは、前回も紹介された1杯100万円の紅茶だ。そしてお茶請けは黄金色に輝くバウムクーヘン。

「相変わらずいい香りね。【黄金樹のバウムクーヘン】……いただくわ」

 きるるんは上品にフォークで小さく切り分けてから口へと運ぶ。
 

「……え、ちょっと……美味すぎるわよ……もふっとした食感なのに口に入れた瞬間からしっとり溶け消えちゃうぅぅぅ……しかもお口に広がるレモンの風味のおかげで、甘すぎないわ! 紅茶との相性もバッチリ……殺人的な美味しさね……!」

 配信を見ている全リスナーが自然と生唾を飲み込んでしまう。
 それほどまでにきるるんのバウムクーヘンを食す表情はほがらかなものだった。

 美少女が美味しそうに何かを食べる。それだけで素敵領域は展開され、食欲を刺激される。甘いものを嫌煙しがちな者ですら、その黄金色に輝くバウムクーヘンを口にしてみたいと思うほどだった。

『えっ、待って……何か力がみなぎると思ったら……30分間、ステータス命値いのち+4と力+2……? う、嘘でしょ!? ええ、信仰MPも即座に2回復とかすごすぎるるーん☆』


:まじかよ
:ステータスの6ポイント分の強化って、実質6レベル分の上昇だよな?
:やばすぎぃ!
信仰MPをすぐに2回復できるのもえぐいって
:またぶっ壊れなものが出てきたなwwww


『……これで100万円はお得すぎるんるーん☆ でも、まって……じゃああの噂は本当なのかしら?』

『きるる様、お噂とは?』

 妙に棒読みな合いの手がナナシちゃんから入る。


『最高クオリティの★3は、朝に限るけれど食べてから1時間は死んでも復活するらしいのよ』

『それが真実であれば、のどから手がでるほど欲しくなりますね』

『でもさすがに手が出せないわ。なにせ1000万円だったもの』


:うおおおおおお、またきるるんが俺たちへの配信のために身銭を切ってるるーん(3000円)
:どうか配信の足しにしてくれえええ(1万円)
:きるるんは俺が死なせない(70万円)
:いや、それは俺の役目だ(120万円)
:一千万円まで届けええええこの想い(5万円)


『みんなありがと! じゃあ英気も養ったところで、ボスを切り刻みに行ってくるるーん☆』

 それから手首きるるは【地下砂宮ブルーオーシャン】を着実に進み、ボスのミノタウルスに挑戦していった。


:ミノタウロス……いかつ……
:でかすぎだろ
:きるるんの2倍以上はあるよな?
:3メートル超えはさすがに怖い
:画角もずっと上向きがちだしな
:ここまでついて来れるナナシちゃんってマジできるるんを信じてるんだな
:愛だな
:きるるんも絶対にナナシちゃんを死なせない覚悟で来てるんだろうな
:……バカ熱くね?
:が、がんばれきるるん!

:うわっ、痛そう……
:あんなんに殴られたらきるるんじゃなくても吹っ飛ぶよ
:変な音しなかったか?
:ゴキッって鈍い感じのな
:あれ確実にあばらいってるでしょ……
:やばい、見るのが辛い
:立て、立つんだきるるん!

:おいおいおいミノタウロスこっち来てるぞ!?
:ナナシちゃん逃げろ!
:いけえええ、にげろおおお

:あれ? きるるんの方に向かってね?
:っていうかきるるん、まだ立ち上がれてない?
:おわっ、きるるんのどアップ
:うわ……口から血吐いてるじゃん……
:ナナシちゃんまさかのお姫さま抱っこ

:ご主人様を置き去りにしないのな
:ちょっとまて、ナナシちゃん異様に足早くないか?
:それだけ必死さが伝わってくるぞ……
:主人のピンチにかけつける執事ちゃんとか胸熱展開
:よしいけ! そのまま逃げろ! 戦略的撤退だ!
:逃げろおおおおおお!

 
 ボスエリアを脱した2人は、どうにかダンジョン内の安全な場所へとたどり着く。こうしてボス攻略は失敗に終わってしまう。
 だが、誰もがきるるんとナナシちゃんの無事に安堵していた。
 
『きるる様、こちらを飲んでください』
『ケホッ……予備の……【世界樹の紅茶リュンクス・ハニー】……こんなに激しい冒険にも……耐えられる特殊なびん、しかもお洒落で軽くて、持ち運びがしやすい……さすがだわ……』

 さすがのきるるんも今回は優雅にティーカップでいただくことはできなかった。
 だが妙に説明口調で、お洒落な瓶の口から紅茶を飲み干す。
すると青ざめた顔は一気に血色がよくなった。


『はあはあ……まだミノタウロス攻略は……私には早かった、わ……』

 悔しそうに顔を歪めるきるるんに、リスナーたちは励ましの言葉を投げかけようとする。諦めなければ絶望はないと、まだまだ頑張れると、応援するよと、そんな暖かいコメントで溢れさせようとしていた。
 だが、そんなリスナーの思惑を裏切るように絶望が鎌首をもたげた。


「クキュウウウウウウウウウウン!」

 それは巨大な妖狐フォクシアの姿だ。
 荘厳にして壮麗、金色に煌めく体毛は神秘的とすら思える偉大さを誇っていた。
 その圧倒的すぎるたたずまいは、見た者全てに畏敬の念を植え付ける。それほどまでの迫力があった。


:やばい、やばいぞ!
:なんだよあれ……
妖狐フォクシアだ……でもどうして妖狐が初期街近くのダンジョンに!?
:いやいや妖狐フォクシアにしてはでかすぎるだろ? 一軒家ぐらいのサイズはあるぞ!?
:尾が一、二、三……九……
:オワタ
:九尾じゃねえええか!
:は? え、たった一匹で国を滅ぼしたって伝承のある、あの九尾?
:生きる災厄って言われてる伝説上のモンスターだぞ!
:逃げてえええええ!
:マジで逃げろおおおおおおおおおおおおおお!
:やばい、やばい、やばいいいいいい
:これはマジで死ぬやつうううううううう

 リスナーやきるるんが騒然となる中、なぜかカメラワークが巨大すぎる妖狐フォクシアにどんどん近づいてゆく。
 

『ちょっと、ナナシちゃん! 何してるの!? に、逃げましょう!?』


『わあー、きゅーかあ。大きくなったなあ……ん、これが今の最大サイズなのかあ、立派だなあ』

 全リスナーがキョトン顔。
 きるるんにいたってはポカーンとあごがずり下がってお口パッカーンだ。絶対にアイドルがしてはいけない驚愕の顔。が、今はカメラワーク外なので問題はなかった。


『ちょ、ちょ、ちょ、ちょっとナナシちゃん!? ふ、普通に受け入れないで!? その魔物は一体なんなの!?』

『くきゅっ?』

『あ、この間の空色きつねです。今は、えーっと【九尾の金狐ヴァッセル】? って種族に進化しました』

『どうしてそうなったの!? わ、訳がわからないわ!? もう目が回るんるーん!?』


:見てるこっちが心臓止まるかと思ったわ
:もうナナシちゃんへのツッコミが止まらないwww
:主人より好き勝手やっていく執事ちゃんwww
:速報『またもや新種を見つけてしまう執事ちゃん』
:いや、生きる災害を手懐けてるのはさすがにやばくね?

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