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別れ
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エイコは消えた。ぼくが彼女の記憶から覚めて、現実を見渡すと、そこには彼女の骨しかなかった。優しい彼女の姿はなかった。嫌に体がぐったりとしていた。ぼくはエイコのかけらを握りしめて、炎天下に倒れた。遠くから、お父さんがぼくを呼ぶ声が聞こえた。
――エイコがね、ずっと一緒にいたんだよ。
記憶にはないが、ぼくは二人にそう言ったそうだ。
――エイコがおばあちゃんの髪留めくれたんだよ。エイコはおばあちゃんにごめんねって。千寿夫のこと、ごめんねって。
ぼくの中に残留していた彼女の上澄みが、ぼくを無意識のままにそうさせたのだろう。ぼくはそう検討をつけている。気がついてからは、ずっと頭がぼんやりしていた。おばあちゃんはさわられている、と言っていた。
お父さんに後で聞いた話だ。おばあちゃんは、ぼくの口からエイコの話を聞くと、泣きだしてしまったそうだ。そしてぼくが家の中に隠していたエイコの宝物を見つけると、何度も彼女に謝ったそうだ。千寿夫は探し出されたが、産まれた時から存在しないことにされていたエイコは、土に埋まったまま、誰にも探されなかった。そう言ったそうだ。ずっと、探してやらなくてすまないと、見つけてやれなくてすまないと、そう謝っていたそうだ。
手の中のエイコを、ぼくはお父さんに差し出した。ああ、ちゃんと供養するよ。嬰子おばさんは、相田のお墓に入れてあげるよ。お父さんはそう約束をしてくれた。
あのとき、ぼくはおおいに子どもだった。両親は大人だった。ぼくは多くのことを知らなかった。ぼくが好きだと思っていたお母さんがどんな妻だったか、ぼくが好きだと思っていたお父さんがどんな夫だったか。知っていたとしたら、ぼくの幸福な子ども時代はなかっただろうけれど。ぼくは十分に子どもだった。彼らに抗うすべなんてなかった。両親は離婚した。ぼくはお母さんに引き取られて、お父さんには会えなくなった。
――エイコがね、ずっと一緒にいたんだよ。
記憶にはないが、ぼくは二人にそう言ったそうだ。
――エイコがおばあちゃんの髪留めくれたんだよ。エイコはおばあちゃんにごめんねって。千寿夫のこと、ごめんねって。
ぼくの中に残留していた彼女の上澄みが、ぼくを無意識のままにそうさせたのだろう。ぼくはそう検討をつけている。気がついてからは、ずっと頭がぼんやりしていた。おばあちゃんはさわられている、と言っていた。
お父さんに後で聞いた話だ。おばあちゃんは、ぼくの口からエイコの話を聞くと、泣きだしてしまったそうだ。そしてぼくが家の中に隠していたエイコの宝物を見つけると、何度も彼女に謝ったそうだ。千寿夫は探し出されたが、産まれた時から存在しないことにされていたエイコは、土に埋まったまま、誰にも探されなかった。そう言ったそうだ。ずっと、探してやらなくてすまないと、見つけてやれなくてすまないと、そう謝っていたそうだ。
手の中のエイコを、ぼくはお父さんに差し出した。ああ、ちゃんと供養するよ。嬰子おばさんは、相田のお墓に入れてあげるよ。お父さんはそう約束をしてくれた。
あのとき、ぼくはおおいに子どもだった。両親は大人だった。ぼくは多くのことを知らなかった。ぼくが好きだと思っていたお母さんがどんな妻だったか、ぼくが好きだと思っていたお父さんがどんな夫だったか。知っていたとしたら、ぼくの幸福な子ども時代はなかっただろうけれど。ぼくは十分に子どもだった。彼らに抗うすべなんてなかった。両親は離婚した。ぼくはお母さんに引き取られて、お父さんには会えなくなった。
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