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裏山
しおりを挟む裏山からは、花火がよく見える。
おじさんはそう言った。ステテコに白いシャツを着た、汗臭いおじさんだった。おじさん、というよりは、彼の年齢を考えるとおじいさんの方がいいのだろう。ともかく、蚊取り線香がいつも置かれているおばあちゃんの家の縁側に、おじさんはよく似合った。当時は平成だったけど、おじさんは昭和のまま時間が止まってるみたいだった。実際そうだったのかもしれない。庭では、セミがけたたましく鳴いていた。
おじさんは確か回覧板をまわしに、おばあちゃんの家、に来ていた。そこは、正確にはぼくのお父さんの実家だ。いまではそんな肩書はあまり意味を持たないが、おばあちゃんは村の地主の家系らしく、家は大きな古い木造平屋建ての屋敷だった。おばあちゃんの一人暮らしでは、使ってない部屋がいくつもあった。お化け屋敷や、映画で猟奇的な殺人事件が起こるような家だ、とぼくがこっそり思っているのは、いまだに誰にも言ったことがないのだが。
おばあちゃんがお茶を勧めたんだろう、おじさんは回覧板を渡してもまだおばあちゃんの家にいた。
――ちょっと。この子に変なこと吹き込まんでくださいよ。
ぼくにゆでたトウモロコシを持ってきたおばあちゃんが、迷惑そうにおじさんを見た。おばあちゃんは背は低かったけれど、体つきはがっしりしていた。病気なんかひとつもしない、丈夫な人だった。
おじさんはけらけら笑って、ぼくの頭を撫でてくれた。
――まったく、人の子だと思って……。
おばあちゃんは縁側にどんとスイカの乗った皿を置いて、釘をさすようにぼくをじっと睨んだ。いつもの優しいおばあちゃんの目じゃなかった。
――裏の山にゃあ、入ったらいかんけえね。
そしておばあちゃんは、恐い口調でそう言った。それは確固たる警告だったのだろう。ぼくはそれに従うべきだったのだろう。そうしたら、きっとただの最高につまらない夏休みで済んだ。だけど人間、いけないと言われればやりたくなるものだ。当時のぼくは、花火を見に行くことにした。
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