Bro.

十日伊予

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1566 蜜月

ずっと

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 アルバの手のひらがラスの肌に触れる。伝わる熱い体温に、ラスがうめき声を上げた。ネッドが毎日綺麗に整えているシーツはもうぐちゃぐちゃだが、二人は少しも気にしない。アルバは愛情を込めてラスを抱く。丁寧に触れて、何度も口付けて、怯むことなくラスの瞳を見つめた。アルバの熱っぽいまなざしに、ラスは頬をうち赤く染める。
 ラスへの思いをはっきりと掴んでから、アルバにとってラスとの性行為の意味はがらりと変わった。それまでは体でラスを繋ぎ止めようと必死で抱いていたが、今はラスへの愛情表現として彼に触れている。良い意味で興奮しすぎなくなり、ラスの体を気遣う余裕もできた。ラスはアルバの様子が変わったことに最初は戸惑ったが、それが自分への愛情ゆえとすぐに気がついて受け入れた。
「なんか、すっごくしあわせ」
 行為を終え、体が落ち着いてくるとアルバはそう言う。ラスはアルバの腕枕に甘えながら、ふふと笑った。
「そうだね。この先も、何年経ってもこうしていたいな」
 ラスの言葉にアルバも嬉しそうに口元を綻ばせるが、しかし彼はふとあることを思い出す。
「そういえば、もうすぐ営業再開なんだよね……」
 口元を手で押さえてそう言うアルバに、ラスが小首を傾げる。んー、とアルバがうなった。
「営業再開したらさ、いつまで都でやるのかなって。ほら、ぼくら旅芸人だから、ずっと同じ街に留まってはいられないんだよ」
 アルバの話に、それまでばら色だったラスの顔があっという間に青くなった。
「や、やだよ!」
 彼は何度も首を横に振る。知り合った当初は一座が全国を巡ることは知っていたが、今ではアルバが隣にいることが当たり前になりすぎて、必ず来るだろう別れをすっかり忘れていた。
「ぼくだって嫌だよ。でも、ぼくは旅芸人以外で働いたこともないし、フランマやスースだっているし。どうしよう……」
 アルバが困った顔になる。ラスは堪えきれず、アルバに抱きついた。
「私がついてく! アルバと一緒にいたい!」
 ラスの言葉に、アルバは眉をひそめる。
「何言ってるんだよ、お前、家族はどうするんだ」
「父さんと母さんとはここで別れるよ」
 ためらいなく、ラスはそう言った。たちまち、アルバの顔が赤くなる。
「だめだよ!」
 思わず、アルバは大きな声を出した。
「家族を捨てちゃだめだ!」
 彼がそう言い、ラスはハッとする。ラスにとってはそれは自立だが、アルバには違うのだ。そう察し、目を伏せる。
「ごめん……」
 家族に捨てられたトラウマのあるアルバにそんな発言をしたことを恥じて、ラスが謝った。
「ぼくこそ、大きい声を出してごめん」
 アルバはハッと我に帰り、慌てて自分も謝る。ラスを宝物のように抱きしめると、彼の頭に頬を擦り付ける。
「ちょっと寝よっか。このことは、もっと落ち着いて考えよう」
「うん……」
 そうして二人は目を閉じるが、なかなか眠れない。アルバとラスが悶々としている間にも、一座の営業再開の日は近づいている。




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