Bro.

十日伊予

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1566 蜜月

決闘前夜③

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 暗く重たい水に、ミューズは溺れていく。暖かい地方とはいえ冷たい海水の中、顔を水面に出そうともがくほど沈んでしまう。沖中士たちは恐る恐るそれを眺めていた。
 死にたくない、ミューズがそう思った瞬間、彼の太ももに鋭い痛みが走った。彼は混乱し、やがてそれがポケットに入れていたジャグリング用のナイフだと気がつく。つめの甘い沖中士たちは、ミューズの持ち物をあらためなかった。ミューズは抜き身で入れておくのは危ないと皮紐を刃に巻き付けていたのだが、暴れるうちに紐がほどけ、剥き出た刃がポケットの裏地を突き破って彼の太ももを切りつけたようだった。とっさに、ミューズの手はポケットを目指す。二本まとめて縛られた腕は幸いにも体の前にあり、思い切り身をよじって指を精一杯伸ばせばポケットの入り口に届く。彼自身には数分にも思えるような数秒ののちに、ミューズの指先がナイフの柄に触れた。指先でそれを繰り寄せ、ようやっと手にすると、巻き付けた革紐から覗く刀身で縄を切る。
 縄がほどけ、ミューズは息が尽きる直前に水面に顔を出せた。口かせが濡れて苦しいので、彼はそれもほどくと叫び声を上げる。
「助けて! 誰か!」
 その叫びと、バシャバシャという水音に沖中士たちは身を震わせる。予想外の事態に彼らはパニックになり、そちらに漕いでいくとかいで思い切りミューズを叩きつける。バン、バシャン、バシャっと、かいの先がミューズを叩いたり、暗闇で狙いが外れて水面を叩いたりするたびに、大きな音がする。体力はもう限界だが、ミューズの悲鳴はやまない。
「おい! やめろ!」
 沖中士たちが気がつくと、ランタンを吊るした舟が近くにいた。エンリットの商会が嫌がらせを受けているので、自分たちも被害に遭わないようにと港を巡視していた他の商会の沖中士たちだ。彼らは夜更けに沖へと漕いでいく二人たちを見つけ、慌てて追いかけてきた。メース商会に雇われた沖中士たちは、ミューズを押さえつけることに必死で彼らの船の灯りに気が付かなかった。
 青くなる二人の沖中士に、ランタンの舟に乗った男たちはボウガンを向ける。一人が、ミューズにロープを投げてやった。二人の沖中士は投降し、ミューズは舟に救助される。ミューズはほっとして、意識を失った。

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