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十日伊予

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1566 蜜月

エンリットの条件

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 ツィオとウェイドは、安いホテルに部屋を取ることになった。ラスに出させてはいけないと、アルバは自分の財布から二人の宿代を出す。無理がたたって熱を出したツィオは部屋に寝かせ、ウェイドとアルバでどう逃げるかについて話す。ラスが父親に頼めばすぐ逃がせるだろうが、ラスにはこのことにこれ以上関わらせたくないと、アルバは彼を話し合いに入れない。ラスもそれに納得しているようで、二人がロビーで話している間は別の場所で過ごした。
 国内に大きなネットワークと、貿易船を持つエンリットからは、どこへ行こうが逃げきれない。エンリット以上に力を持つ商人がいないわけではないが、皆エンリットと懇意だったり赤毛たちを気味悪がったりしていて助けてくれない。赤毛たちで反乱を起こすのも、愛人になって家族を養っていたり今の贅沢暮らしに満足したりしている赤毛が、家族や贅沢のためにエンリットに告げ口をしかねない。信用できる者たちだけでエンリットを殺そうとしても、彼は日頃は用心棒に囲まれているし、彼自身も腕が立つので無理だ。そんな現状をウェイドから聞かされ、アルバは「それならぼくが直接話すよ」と答える。ツィオが買われた時、エンリットはアルバが「返せ」と言えば返そうとしてくれた。彼は落胤の自分に憧れているから、と話すアルバに、ウェイドは首を横に振る。あの時とは違う、ツィオは今やエンリットの一番のお気に入りだ。
 話が煮詰まっている間に、夜が来る。二人は何も良い案を出せないまま、部屋に戻った。
 翌朝になると、エンリットがホテルを訪ねて来た。彼は自分の愛人たちのことでラスとアルバに丁寧な謝罪をし、泣き喚く二人を部下に捕まえさせて連れて帰ろうとする。
「二人を解放してあげてほしい」
 それを止め、アルバはエンリットに頼んだ。
「お金が必要ならいくらでも払う。今持ってる分で足りなければ、これから働いて返す」
 そんなことを言うアルバに、エンリットは失笑しそうになる。
「信用というものがなければね、買うことはできないのですよ」
 笑いを堪え、エンリットは言う。
「金があればいいという訳ではないのです」
 そう言われ、アルバはどうしていいか分からずに黙ってしまった。故郷と天幕の中しか知らない世間知らずの彼が、国を股にかける商人にかなうことはない。
 エンリットはラスにちょっと目をやる。ラスは複雑な表情で、しかし自分は関わらないといった態度だ。
「しかし、落胤さまにそう意地悪を言ってはいけませんね」
 ラスの様子で方向を決め、エンリットは微笑む。
「では、決闘でもいたしましょう。勝てばこの子を譲り渡します」
 そう言って、ツィオの肩を抱いた。たちまちにウェイドの顔が青くなる。
「マッツィオだけ?」
「ウェイドがほしければ、それは別件としてお話いたしましょう。こんなにかわいい使用人を一度に二人も手放すのは、私もつらいのです」
 眉をひそめるアルバに、エンリットがにっこり笑って見せる。それを聞いた途端、ウェイドが激昂した。
「話が違う! お前だけ逃げるのか!」
 そう怒鳴ってツィオの胸ぐらを掴む。彼を殴りつけようとしたが、すぐに我に返った。彼は唇をわなわなと震わせ、ツィオを離すとどこかへ走っていってしまう。後を追おうとした部下を止め、エンリットはアルバにまた向き直る。
「あの子は頭が冷えた頃に回収するとして、そうですね、マッツィオを賭けた決闘ですが、今回は簡単に行ってもよろしいでしょうか? 例えば、礼式も口そそぎと辞宜くらいにするなど……」
「ええと、決まったやり方を簡単にするってこと? 助かるよ、ぼくは詳しくないから」
 二人の間で、決闘の話は進んでいく。ラスはそれをはらはらと見ていた。

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