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1566 蜜月
消えない不安
しおりを挟むアルバが目を覚ますと、隣でラスが寝息を立てていた。閉じたカーテンの隙間から差した朝日が、シーツの上まで届いている。静かな朝の気配に、ラスのゆっくりとした呼吸の音。アルバは充足感で満たされて、どうしたってにやけてしまう。昨晩、彼を抱いたことを思い出すと、ほのかな興奮としあわせが押し寄せてくる。胸にじんわりと愛情が染みて、ラスの体を抱き寄せずにはいられない。
「……おはよう、眠れた?」
ラスはアルバの腕の力に目を覚ます。彼の目を見つめると、まどろみから抜けきれないまま、微笑みだけを浮かべる。アルバはラスの頭に鼻先を押し付けて、髪の香りを吸い込んだ。
「ねえ、昨日のしたい。起きてよ、ラス、ねえ、ラス」
ラスが眠たげなのもお構いなしに、アルバはねだる。寝起きの体をラスに押し付けると、腰を揺すって催促をする。
「んー、寝かせてよ……」
ラスはむにゃむにゃと返事をした。目をこすり、あくびを一つするとアルバを抱き返す。
「後でね……」
そう言うと、彼はまた眠りに落ちていく。アルバは唇を尖らせた。ラスが起きそうにないので、自分も目を閉じてみる。
そのまま横になっていると、不安がぞわぞわと背中をのぼってきた。こんなにもしあわせなのに、風が吹くだけでもラスが自分にくれるぬくもりが全て飛んでいってしまうように感じてしまう。ラスを抱きしめる腕に力が入る。好きだと言わせたい。ツィオとの時のように、自分だけが付き合っていると思っていたなんてことは嫌だ。ラスは関係をおおっぴらにして何度も愛を見せてくれるのに、アルバはいまだにそう願ってやまない。彼の器の底には穴がある。
「好きだよ、ラス」
それが自分の本心かもわからないまま、アルバがつぶやく。強要じみた言葉への返事でいい、ラスからの言葉がほしい。
その言葉はラスが心から望むものなのに、眠りの中にいる彼に届くことはない。彼は返事をするわけもなく、すうすうと寝息しか返さない。アルバはそれっぽっちで怖くなってしまう。ラスが起きている時に言えばいいものを、アルバの心はラスの寝顔だけでくじけてしまう。アルバはラスの香りを思いっきり吸い込んだ。今でも手放せないツィオのシャツにそうするように。
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