Bro.

十日伊予

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1566 蜜月

初めての話

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「受け入れるのは初めてだよ」
 汗ばんだアルバの腕を枕にして、ラスが嬉しげにつぶやく。毛布の下に投げ出された素足を絡め、一糸纏わない体をピッタリと密着させる。
「好きだ」
 胸に満ちる愛情のままに耳元でささやくと、天井を見つめていたアルバはラスに目をやった。彼は少し赤らんだ顔で、アルバを見返す。
「ずっと一緒にいたいな」
 ラスがそんなことを言う。
「……ずっと一緒にいてよ」
 アルバは気だるげに、しかし心の底から答えた。ラスには、その返事が彼の愛情に思えて仕方がない。彼ははっきりと口にはしないが、なんでもない言葉の端々や、手が触れ合った時に緩む唇はあからさまにラスが好きだと言っている。もちろん口に出してもほしいが、彼が素直に言えるまで待つには、そのあからさまさで十分だった。
 ずっと一緒に。そんなせりふに、アルバはツィオを思い出してしまう。最中はラスに夢中で忘れられたが、ツィオとの記憶も感情も彼の心からは消えない。
「みんなね、ぼくからいなくなっちゃったんだ」
 込み上げてくる不安のまま、アルバは口を開く。ラスから天井へ目を移し、ふう、と息をはいた。ツィオに過去を話してしまったように、ラスにも知ってほしい。
「ぼくを産んだ人だけじゃない。好きだった人も、妹も、ばあちゃんも、父さんも……」
 一座に入る時に妹たちに決別されたこと、市場でその日暮らしをしてきたこと、体の不自由だった父を水難事故で亡くしたことを、ぽつりぽつりと話していく。不思議と抵抗があり、ツィオとのことは詳しく話せなかった。ラスは悲しげな目で、しかし同情でなく愛情を込めてアルバに触れる。そのぬくもりに、アルバは涙をこぼした。
「父さんは優しかったよ。大好きで、自慢の父親だ」
 ツィオにも話せなかったことが、唇から滑り落ちる。
「父さんはあの人のせいで死んだんだ。全部、悪いのはあの人だ。でもほんの少し思うんだ、父さんじゃなくてぼくが死んでたらって……」
 涙が彼の頬を伝う。ぐず、とアルバが鼻をすすった。
「ぼくにその価値はあったのかな」
「あるよ」
 彼の言葉に、ラスが間髪を入れずに答える。アルバが驚いて彼を見やると、ラスはしっかりとアルバを見つめていた。金色の目は、確かな意思を持ってアルバの存在を肯定している。
「お父さんは命をかけて君を守ったんだよ。君に生きてほしかったんだよ」
 そう言い、ラスはアルバの手を強く握る。思わず、アルバは彼に手を伸ばし、背を丸めて体全体でラスを抱きしめた。嗚咽がアルバの喉から漏れる。
「幸せに人生をまっとうするのが、君がお父さんにできる恩返しだよ」
 泣きじゃくる彼を抱き返し、ラスは目を閉じた。ツィオはアルバの存在を否定し、呪いを残した。ラスの呪いは肯定だ。


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