Bro.

十日伊予

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1566 蜜月

バカンス

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 アルバはすぐに解放されたが、一座の興行再開は国祖神の勅許が出てからとなった。
 封鎖が解かれて興行再開となるまで、誰も拠点に立ち入れない。拠点で寝起きしている団員たちが途方に暮れていたので、ラスがその間の宿にと、海岸沿いのリゾート地に旅団員を全員招待した。あちこちのホテルに部屋をとり、下働きも芸人も関係なく、一人に一部屋を用意する。食事はもちろん、水遊びのための水着やらボールやら何から何まで用立て、一座にバカンスをプレゼントした。
 旅団員たちはラスに何度も礼を言い、豪華なホテルの部屋に通されると大はしゃぎでベッドに飛び込んだ。人気芸人以外はテントや馬車に仲間と雑魚寝しているので、こんなに広い部屋を独り占めできるなんて彼らには夢のようだ。しかしラスをアルバのことで面白がったり、封鎖の騒動で疑っていたりしたことが後ろめたく、素直に喜べない者も多い。居心地悪そうに用意された部屋をうろつき、ホテルの食堂で慣れない料理を恐る恐るつつく。ラスはホテルをまわって皆の様子を見ていたが、そういう者たちにはあまり声をかけないようにしていた。ダイモンはというと、ラスへ頭を下げたり、団員が観光地で騒ぎを起こさないように見回ったり、興行停止と再開の手続きで奔走したりと忙殺されている。もはや作り笑いも意味をなさないほどに顔に疲労が滲み出ている。
「うひょー! 泳ぐぞ!」
 フランマが大喜びで海に飛び込む。興行停止処分はラスの仕業でなく、他の貴族からの苦情が原因と聞き、心は軽い。川に慣れ親しんだ育ちで、大好きな水遊びができることが嬉しくてたまらない。海は変な味がして流れも川とは違い、浮力も強いが、数分入っていると気にならなくなる。
「フランマさんー! 遊泳禁止のとこ入ったらだめですよ!」
 興奮しきった様子のフランマに、砂浜からミューズたち後輩芸人たちが叫ぶ。フランマは耳に入らないようで、どんどん泳いでいってしまう。
「だめだあの人。お前、捕まえてこいよ。俺よりかは泳げるだろ」
 ミューズが同期にそう言い、フランマの様子を見に行かせる。恐る恐る水に入っていく同期の姿を眺めて、ミューズは頭を抱えた。と、後ろからくすくす笑い声がする。
「あの人、あんなにはしゃいじゃって」
 振り返ると、水着姿のスースが立っている。彼女の水着は胸元が大きく開いており、ミューズは憧れの美女の滅多とない露出にたじろいだ。泳ぐ彼の目は、何度もスースの谷間を垣間見る。
「おーい、エロガキ! あからさまに見んのはやめなさーい!」
 そう茶々を入れながら、スースの後ろをブランコ乗りの一同が通り過ぎていく。
「だからあたしは止めたのよ。そんなの着るなんて」
 浮き輪を抱えたリッカがスースにしかめっ面を見せる。スースは自分の頬に手を当て、首を傾げた。
「あら、姐さん。この水着はとっても可愛いと思うわよ。それに、他の観光客はみんなこんなの着てますよ」
 そう言い、近くにいた観光客の一行にチラリと目をやる。観光客たちのうちの何人かはスースと同じようなデザインの水着を着ていた。そんなことは関係ないと彼女を睨み、リッカはブランコ乗りの若い男に、彼が着ているラッシュガードをスースに貸すよう言いつけた。スースが「あらあら」と微笑む。
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