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十日伊予

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1566 蜜月

アルバの立ち位置

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「……ああ、そうだ。街に出る時は私から離れちゃだめだよ。フードもかぶっていてほしい」
 不意に、ラスは真剣な面持ちになった。アルバが首を傾げると、ラスは彼の目元にそっと手で触れる。アルバの童顔にはそぐわない、冷淡なほど美しい青色を見つめた。
「この色、貴族は欲しがるからね。特にザラス家なんかは、没落しそうで必死になってる。私の目の届くところで手を出すようなことはないだろうけど、一人になったら攫われるかもしれない。もちろん、そんなことは許さないけれど……」
「ま、待ってよ。攫われるとか、なんでそんな物騒な話になるの」
 彼の話に、アルバはちょっと驚いて目をぱちぱちと瞬かせる。ラスはしばし目を泳がせて、ためらいがちに口を開いた。
「……君のお父上のことについて話しても大丈夫かな?」
 父。そんな言葉に、アルバは面食らった。アルバの身の上についてラスが意識的に言及しないようにしているのは、彼自身うっすらとわかっていた。ラスはアルバの出自を知っているに決まっている。貴族でもない一般市民でもわかるような見目に気がついていないはずはない。ここまで一座に入り浸っているのに、アルバの地方での巡業のことが耳に入っていないというのもおかしな話だ。それなのに、ラスは出自はおろか父譲りの容姿にもほとんど触れない。彼の口から目の色について言われたのは、付き合うことになったあの日くらいだ。
「それって、血の繋がった父親のこと?」
 少し警戒して、アルバはラスから身を引く。嫌な話が出てきたらどうしよう。急に不安が込み上げてくる。
「嫌なら話さない。大丈夫だよ」
 アルバを安心させるように、ラスがそっと肩を撫でてきた。落胤とあれば苦労もあろう、そう思って、アルバの身の上には極力触れないようにしていた。それに、自分を父の子ではなく一人の人間として見てくれるアルバには、自分からもそう接したい。
 しばらく黙り込んでいたが、やがてアルバは首を縦に振る。少しだけ、ラスへの信頼がある。
「……前にも言ったね。王族貴族は国祖神の血を引いてるんだ」
 ラスは話し始める。
「ある程度その血が濃くないと特権階級として認められない。だから親戚間で結婚したり、国祖神に子どもを授けてもらったりしている。けれど近しい婚姻には限界があるし、国祖神は必ず全ての家に血を継ぎ足してくれるわけじゃない。どうしても血が薄まって、貴族として認められずに没落する家は出てくる」
 屋根の上に投げ出されていたアルバの手に、そっと自分の手を重ねた。彼の表情をうかがい、動揺していないことを確かめながら話す。
「近いもの同士の結婚、国祖神に娘を身ごもらせてもらう……それ以外の方法が君だよ。国祖神が特権階級でないところ、民草との間に授けた子。いわば、落胤だね」
 露骨な言い方をし過ぎたが、アルバがけろりとしている様子なので続ける。
「君が地方でやっていたことは貴族の耳にも入ってて、今はまだ確証がなくてどの家も様子見をしているけど、国祖神が君の存在を認めようものならすぐに手に入れようとするだろう」
 そこまで言ってしまうと、一度口をつぐんだ。しかしすぐに笑って見せる。アルバを不安にさせたくない。
「大丈夫、私が守るからね。街にいたってテントにいたって、誰も君に手は出させない。だけど万が一、もしものために私のそばにいてほしいんだ」
 そう言い、彼の手をぎゅっと握る。
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