Bro.

十日伊予

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1566 蜜月

理由

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 それを形にする間もなく、ラスはめまぐるしく口を動かす。
「貴族以外にはあまり知られていないだろうけどね、男同士の恋がいけないのは、単純に権力のバランスを取るためだけなんだ。男色が推奨されるのは、高貴な血をむやみに流出させないため。でも情を持つと男妾が権力を持ち始めるから、性欲以上はタブー。お金や権力のある市民が貴族の真似をして、この文化が広まったけど、実際は貴族以外は守る必要はないんだよ」
 興奮した彼はひどく早口だ。アルバがその話をきちんと理解する間も与えず、続ける。
「私は貴族と言っても、実際は貴族のしがらみとは違うところにいる。なんてったって父は最高神だからね。建前上だとしても政治権はないし、父さんも国のことには口出しをしない方針だ。私は貴族でも特別な枠。君は貴族じゃない。ね、男同士がいけないなんて、私たちには関係ないでしょう?」
「でも、ぼくは……」
 アルバが何とか口を挟むと、ラスは「わかっている」と言うように首を横に振った。
「君の目の色のことは、気にすることはない」
 そっとアルバの目元に指で触れる。一瞬、ラスは悲しげな表情を垣間見せたが、すぐに笑顔に戻る。
「誰にも邪魔はさせないよ。君を守る。だから、アルバも私を守っておくれ!」
 そう言い、目をきらきらさせてアルバを見つめる。アルバがしどろもどろになっていると、「付き合いたい!」と何度もねだってきた。占い師はそんなラスの様子に、もうどうにでもなってくれと、やけっぱちな気持ちでいる。
「私とでは嫌?」
「嫌ってわけじゃ……」
 ごねるラスに、アルバは怯んでまともな返答を返せない。心の底から望んでいたこととはいえ、こんなに急に、しかもわがままじみた態度で迫られると、困惑と不安で心が鈍ってしまう。この告白がラスにとってただの気まぐれの駄々に過ぎないかもしれないと思うと、応えた先に待つ痛みが怖くてたまらない。
「運命とか、そんな子供っぽいこともうやめろよ」
 不安に耐えかね、アルバはきつい言葉をラスに浴びせる。
「世の中、お前の思い込みで動くものじゃないんだよ。好きでもないのに付き合うとか──」
「好きだよ!」
 アルバの言葉に動じず、ラスは明るく言った。
「ちゃんとアルバが好き。だから運命だと思うし、付き合いたい」
 そう言うと、アルバの手をしっかり握る。小首を傾げて彼を見つめ、彼がイエスと答えるのを待っている。運命で、自分はこんなにもアルバが好きで、彼も自分に心を開いてくれているから、望む答えは必ず返ってくる。ラスはさも当然のようにそう思っている。
 アルバは目の奥が熱くなるのを感じた。まだ完全にラスを信じることはできない。けれど彼の言葉は、あの日アルバを追いかけて抱きしめてくれた時と同じで、まぶしいほどに真っ直ぐだ。
 身を守るため閉じようとした心が、またほだされる。託してみたいけれど、全て明け渡してしまうのはまだ怖い。アルバは素直になれず、わざとため息をついた。
「本当、こうなったらしつこいよな」
 ラスの目をまっすぐ見返せないまま言う。テントの奥にいる占い師の目を気にして、ちょっとすかして腰に手を当てた。
「いいよ。付き合ってあげる」
「やったー! 嬉しい!」
 呆れたふうを装うアルバに、ラスは嘘偽りない満面の笑顔で飛びつく。驚いたアルバの胸にしがみついて、愛おしくてたまらないと頬をすり付けた。無邪気な彼に、アルバは今度は本当に呆れる。けれど、ラスの体温が嬉しいと思う自分は確かにいた。
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