Bro.

1564 旅路

ツィオのきもち

　大泣きして仕事どころではないアルバは、騒ぎを聞きつけたダイモンに連れて行かれた。数人の下働きに腕を掴まれて、足をバタバタさせて言葉にならないわめきを発しながらツィオと引き剥がされる。痴話喧嘩に集まってきていた野次馬たちが、きっとアルバはせっかんだ、アルバとあの赤毛がそんな関係だったなんて、と好き勝手話している。その真ん中で、ツィオは真っ青になって立ち尽くしていた。勝手なことをしたアルバに怒るよりも、自分がこれからどんな扱いを受けるかが恐ろしくて仕方がない。これまでは「アルバが敬愛する兄貴分」として下働きの中でも威張っていられたが、彼との関係がバレてしまえば、きっと自分は下だと思われる。
「そういうのじゃない、やめろって」
　フランマがアルバを気遣って、面白がる周囲に一生懸命声掛けをする。
「よくあるやつだよ。アルバは純粋だから、ただのお気に入りをちょっと勘違いしてるだけだ。あいつだってそのうちいい女見つけて、そうしたらそっちに夢中になる」
　彼のそんな言葉は、ツィオを逆撫でする。屈辱と怒りがわき上がる。違う、俺はアルバの愛人じゃない。そう怒鳴りたいが、体だけの関係ではないと知られてしまうとひどい目に遭う。下働きが同性の芸人に気に入られて抱かれるのはよくある話だが、恋愛となると話は別だ。向けられるのは、好奇の目だけでは済まない。ダイモンに「芸人をたぶらかした」などと思われたあかつきには、ひどい仕打ちを受けるか、擦り切れるまで利用されるかだ。
　唇を噛み、ツィオは拳を強く握る。爪が手の内側に刺さるが、その痛みは感情に覆い隠される。