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十日伊予

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1564 旅路

リッカの忠告

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「愛想が悪い、か。そうさね」
 リッカはタバコを吸い込み、煙を吐き出す。今度は煙がアルバにかからないよう、そっぽを向いて吐いた。
「あたしはお前と違って叩き上げでここまできたからね。愛想の良い若い子は、目をつけられる。その時にこうしてたのが今も抜けてない。悪いね」
 そう言い、顎で農場主の方を指す。彼はまだあの下働きと話していた。鼻の下を伸ばし、楽しそうだ。 
「ごらん、あの子。にこにこ笑うから、気に入られてるだろ?」
 ふー、と深く息を吐き、彼女はまたタバコを吸う。
「それが悪いことだとは限らないよ。むしろ、そっちのほうがいい暮らしができるって、自分から媚びを売る見習いや下働きも多い。みんなそれなりにひどいところから拾われてきたからねえ。いい暮らしに憧れてんのさ」
 彼女がタバコに口をつけると、ジジ、とその先が赤く光る。リッカの話が上手く掴めないアルバは、つまらなそうにそれを見つめていた。彼が理解していないのはわかっていたが、リッカは理解させるつもりもない。この話はこれくらいにしてそろそろ本題に入ろうかと、バルコニーに備え付けられていた灰皿でタバコの火を消す。そして、まだタバコくさい口を開いた。
「それはそうと、お前、マッツィオに随分と入れあげてるね」
 リッカの口からそんな言葉が出てくると、アルバは驚いて彼女の顔に目をやった。
「兄貴の名前知ってたんだ」
「ほとんど皆の名前を知ってるよ」
 リッカはアルバの顔を覗き込む。ツィオの話が出た途端に、彼の興味のなさそうな表情は一転、嬉しげにほころんでいる。かわいそうな子だね、と、リッカが口の中でつぶやいた。その言葉はアルバには届かない。彼女も、届けるつもりはない。
「あいつはやめときな。身勝手で、意地が汚い。痛い目見るよ」
 今度は、聞こえるようにそう言う。アルバはびっくりしてちょっとたじろぎ、しかしすぐに頭の中が怒りでいっぱいになった。ツィオのことは、フランマなどに「小さいやつ」と言われることはあったが、ここまでひどく言われるのは初めてだ。
「兄貴をそんなふうに言うな!」
 まるで自分が馬鹿にされたように、アルバは怒りをあらわにする。
「兄貴の何を知ってるんだ! 兄貴は優しいんだ!」
 顔を真っ赤にして、肩をいからせる。今すぐにでもリッカを殴りつけてやりたいが、旅団に入ったばかりの頃に何度もツィオに叱られたことを思い出す。拳を強く握りしめ、どうにか思いとどまった。何度も深呼吸をして、自分を落ち着かせる。自分が冷静になれたと感じると、リッカを睨みつけ、暴力を振るう代わりに彼女に侮蔑のハンドサインを見せつけた。それで何とか自分を納得させると、これ以上ここにいたくないと、広間の中に戻っていく。
 アルバがいなくなると、リッカはバルコニーの手すりにもたれかかる。星空を見上げ、ふう、とまだタバコのにおいの残る息を吐く。
「ばかだねえ……他人にやめなって言われるのは、本当にだめな相手の時だよ」
 アルバが自覚している以上のことを、彼女は知っていた。
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