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1564 旅路
初めての風呂
しおりを挟む新しい街での設営はほとんど終わり、作業がひと段落した下働きたちが日陰で休んでいる。この辺りもラジュガ村とそう変わらないほど暑く、力仕事をしていた男たちは皆へばっている。ツィオも例に漏れず、テントの影でぐったりとしていた。彼の隣では、アルバが心配そうに団扇を扇いでやっている。
「アルバ! ここにいたのか」
小さな麻袋を持った男が通りがかり、アルバに声をかける。芸人の一人、フランマだ。ジャグリングを得意としている。肌は褐色で、白いターバンの下は艶々とした黒髪の彼は、アルバと同じでこのあたりの地方の出身だ。フランマが二つ年上と、年が近いこともあり、芸人の中ではアルバと一番親しい。といっても、フランマが一方的にアルバを気に入って、話しかけているだけなのだが。アルバはツィオにべったりとくっついてまわり、ツィオのことでいつも頭がいっぱいで、他の人間に興味を持たない。
「はは、どっちが付き人なんだか」
フランマは、ツィオに尽くしているアルバを見て笑い出す。
「いいんだよ。ぼくが弟分なんだから」
下働きのツィオを馬鹿にされたと感じて、アルバがいらだって強い口調で言う。ツィオは「そうだそうだ、俺が兄貴分だ」とアルバの肩を抱く。フランマが呆れて目を回した。
「それより、いい話がある」
フランマは嬉しそうに言う。
「親父が風呂屋を貸し切ってくれた。芸人から入っていいってさ。そこの付き人くんも行こうぜ! アルバは風呂なんて知らないだろ、面倒見てやらないと」
彼の話に、ツィオが興奮して「やった!」とガッツポーズをする。川辺の地域の生まれで、水浴びしか知らないアルバはよくわからずに首を傾げる。ツィオが風呂について説明してやると、たちまち顔を青くした。
「無理だよ、ぼく、水は怖いんだ」
ぶるぶると震えて、団扇の柄をぎゅっと握る。父を川で亡くしてから、川に近寄れなくなった。湯をいっぱいに張った風呂など、想像しただけで恐ろしい。
「何言ってんだ、身綺麗にしないと」
何も知らず、フランマが清潔の大切さを説く。アルバがイヤイヤと首を横に振るので、ツィオはその頭を優しくポンポンと叩いてやった。彼の過去を知っているわけではないが、普段から冷たい水や川を怖がるので、何かあったのは察している。
「俺に掴まってていいからさ」
アルバに自分の腕を掴ませ、笑いかける。アルバは不安だったが、ツィオの暑い体温を信じることにした。
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