Bro.

十日伊予

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1564 旅路

兄弟

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「よう、兄弟」
 テントの入り口の幕をめくり、ツィオがシャマシュに笑いかける。彼は中身の違う皿を二皿持っていた。片方の皿には下働きの質素な食事が載り、もう片方にはふた切れのぶ厚い肉と果物や野菜、パンと豪華な食事が乗る。テントの中で読み書きの本とにらめっこしていたシャマシュは、ツィオと食事を見るとぱあっと顔を明るくした。
「ほら、飯だ。今日もうまそうだな」
 ツィオがシャマシュの隣に座り、自分の膝の上に皿を置く。質素な皿に豪華な皿からいくつかの果物と肉をひと切れ移すと、豪華な皿をシャマシュに差し出した。シャマシュは面倒を見てもらうかわりに、ツィオには自分の食事をわけてやっている。ツィオは肉を口いっぱいに頬張り、この上なく嬉しそうな顔をした。
「お前の付き人になれて本当によかったよ!」
 肉汁で汚れた口を拭い、ツィオが笑う。自分の食べる分が減ったとしても、誰かと分け合って笑えるのが嬉しくて、シャマシュは顔をほころばせた。
 シャマシュが一座に迎えられてもう一週間になる。旅団はまだラジュガ村の近くの市場に滞在しているが、あれ以来、シャマシュは村に戻っていない。家族のことは、考えるだけでもつらかった。けれど今はツィオがいてくれる。
 旅芸人のことや読み書きを教えられたり、一緒のテントで寝起きしているうちに、シャマシュはツィオがどんな人間かなんとなくわかってきた。人懐っこくて面倒見のいい性格で彼を慕う者も多いが、その反面、食い意地がはっているところを厭われることも多い。見栄っ張りなところもあるらしく、よくシャマシュを野営地じゅう連れ回して、自分が付き人だと下働きに自慢してまわる。シャマシュはそれが気恥ずかしい気持ちもあったが、自分が自慢されるような人間だと思うと嬉しくて、大人しく彼の後ろをついて回った。
 このあたりでは立派な馬車は手に入らないからと、今はちょっとしたテントを与えられてそこで寝起きしている。下働きたちのテントで雑魚寝するよりずっといいと、ツィオはシャマシュのテントで一緒に寝たがる。シャマシュはそれも嬉しくてたまらなくて、ツィオが寝入っても彼の顔を見つめて夜を過ごした。
 ツィオはシャマシュを「兄弟」と呼ぶ。それは彼の馴れ馴れしい性格と、人気芸人のたまごと兄弟分なのだという見栄からだ。シャマシュはそんなことには気づかず、「兄弟」という響きに含まれる親しさに酔いしれていた。自分に本当に兄がいたらこんな感じなのだろう。そう思うと、ツィオに懐かずにはいられなかった。
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