Bro.

十日伊予

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1564 旅路

居場所

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 シャマシュは普段、市場で寝起きをして村に帰ることはない。だが、今日は果物を手に村に立ち寄った。村人は返り血まみれのシャマシュを見ると、皆怖がって家や木陰に隠れてしまう。フン、とシャマシュが鼻を鳴らした。
「兄さん!」
 餌の入った桶を抱えて鶏の餌やりをしていたトパは、兄を見つけると嬉しそうに手を振る。幼かった彼女はもうすっかり手足も伸びきり、大人びた顔つきをしている。シャマシュは唇の端をちょっと上げて、すかした笑みを見せた。
「ほら、食え」
「わーい、ありがとう!」
 二人で木陰に並んで座り、シャマシュが果物を一つ差し出してやる。盗品であることも構わず、トパは喜んでかぶりついた。妹が美味しそうに果物を食べるのを見ていると、シャマシュは穏やかな顔になれる。市場にいる時は常に警戒してぎらぎらした目で歩いているが、妹の前では優しい兄になれる。自分と違って村の人間として暮らしている妹に嫉妬がないと言えば嘘になるが、たまに顔を見せてやると無邪気に喜ぶ妹が、シャマシュには唯一の居場所だった。
「兄さん、また怪我してるね。あんまり喧嘩しないでね」
「ん、ぼくがふっかけてるんじゃなくて、向こうがふっかけてくるんだよ」
「でも兄さんが痛いのは嫌だなあ」
 シャマシュはトパの、自分と同じふわふわの癖毛を撫でてやる。二人が話していると、一人の青年がずんずんと大股で近づいてくる。その姿に気がつき、シャマシュはウエッと舌を出して吐くふりをした。それとは反対に、トパの顔がぱあっと明るくなる。
「ハミァム!」
 トパが青年を呼ぶと、青年──はとこのハミァムは彼女にニコッと笑って見せる。が、すぐにシャマシュにけわしい顔を向けた。
「何しに来たんだよ。そんなもん食わせて。お前のせいでトパがのけものにされたらどうするんだ」
 強い口調で言うが、彼の内心は怯えている。シャマシュの体には至る所にあざがあるが、それ以上に人を殴っていることは知っていた。
「トパ、あんまりこいつの周りウロチョロすんなよ」
 うんざりした顔で、シャマシュがトパに言う。ハミァムがどんな目でトパを見ているかは知っている。トパは口をへの字に曲げた。
「もう、仲良くしてよ。兄さんはわたしのたった一人の家族なんだから、ハミァムは邪険にしないで。ハミァムの家にわたしはお世話になってるんだから、兄さんもそんなこと言わないで」
 シャマシュの腕に抱きつき、頬を膨らませる。シャマシュが勝ち誇った顔で妹の肩を抱いて見せるので、ハミァムは顔を赤くしてぐぬぬと声を漏らした。
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