Bro.

十日伊予

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1547 序章

来訪者

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 ドナは相変わらず恥ずかしさでいっぱいだ。息子にも義母にも見られてしまった。ナャが動じていないのが信じられない。
 ラジュガ村を含む、この土地は性に寛容だ。こうやって親が幼い子に夫婦生活を説明することは珍しくないし、祖父母世代も若い夫婦の営みを気にしない。シャマシュは遭遇したことはないが、若いカップルが物陰に隠れて楽しんでいることさえある。一年を通した暑さから、下着という概念もなく、肌を見られることにも抵抗はない。だが、ドナの故郷は違う。ある年齢まで性的なことは子どもには教えず、夫婦の寝室は独立しているのが当たり前だ。冬が厳しく、皆服を着込み、大人になれば夫婦間の他では肌を見せない。ドナはラジュガ村に流れ着いたばかりの頃は、男は腰巻、女も長い布を体に巻きつけただけの服装に慣れず、苦労したものだ。
「ねえ、ドナ」
 ナャが隣に戻ってきて、ドナに甘い声を出す。ドナは顔を覆って首を横に振った。
「続き、嫌?」
「嫌に決まってるでしょ」
 彼女の厳しい声音に、ナャは「今日はもう無理だな」と悟る。少し気持ちが落ち着いていたこともあり、大人しく諦めた。ドナの隣に寄り添って寝転び、彼女をそっと抱きしめる。
「大好きだよ」
 ドナの耳元でささやく。
「シャマシュも、トパもいて、すごく幸せ。ドナがぼくのところに来てくれて良かったよ。しあわせだね」
 彼には、ドナの生き別れた元夫への優越感があった。会ったことはおろか、話にもほとんど聞いたことがないが、立派で頼りがいのある男だろう。ドナが自分に求めてくる男性像から、そう伺い知れる。だが彼はどうだ、自分と違ってドナの傍にいない。ドナをしあわせにしているのは自分だ。
「うん……」
 力なく、ドナは返事をする。彼を抱き返せはしないが、完全に拒絶もできない。余所者の自分を拾って、血の繋がらないシャマシュも自分の子として育ててくれる。そんなナャに感謝はしている。
「家族をくれてありがとうね」
 ドナがポツリとつぶやいた。ナャは嬉しくなって、彼女を抱く腕に力を入れる。
 空がピカっと光ると同時に、爆音が鳴り響いた。
 シャマシュとトパが泣き出す。祖母が二人を抱き寄せて、なだめた。
「近くに落ちた!」
 ナャが飛び起きる。ドナもサッと立ち上がり、すぐに窓の布を捲り、どこに落ちたかを確かめる。家に落ちたのなら、火を消しに行かないといけない。
 と、暗闇の中に、うっすらと光るものがあった。それは宙に浮かんでいて、やがて暗さに目が慣れてくると、長い髪の毛だとわかる。人より頭一つ、二つ……五つは背の高い、巨体の男が立っている。雷は男のすぐ脇の高い木に落ちたらしく、そこがパチパチと燃えている。火の灯りに、長い髪が金色に揺らめいた。一本一本が柔らかい金属の糸のような髪の毛は、雨にじっとりと濡れて、滑らかな光沢を見せる。その風貌は、とうてい人ではない。
 彼の姿を見とめた瞬間、ドナの目がこれ以上ないほどに見開かれる。
「雷神さま‼︎」
 ドナは彼の名を呼び、窓を乗り越えて飛び出した。
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