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十日伊予

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1547 序章

夫婦の間

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 空がまた光り、雷鳴がとどろく。ドナの謝罪に少し安心したようで、ナャは弱々しく笑った。親たちの空気に嫌なものを感じ、シャマシュがぐずつく。ナャはそれに気づくと、けんかじゃないよ、と優しい顔をして見せた。
「母さん、今日はトパとシャマシュと寝てくれないかな」
 布団を敷いてしまうと、ナャが祖母に言う。
「大丈夫だよ、わたし、子どもたちと寝るよ」
 祖母の返事を待たず、ドナが口を挟んだ。物心もつかないトパはともかく、叱られてばかりのシャマシュは祖母を少し怖がっている。一緒には寝たがらず、ぐずるに決まっている。
「いいのいいの。母さん、お願いね」
 ナャはドナに意味ありげな目配せをした。彼の言わんとすることを理解し、ドナは背中にゾワっと寒気が走るのを感じた。ナャは調子のおかしい自分を心配しているのではない。久々に「しよう」と、だから子どもたちを祖母に任せようとしている。祖母もそれはわかったらしく、イヤイヤをするシャマシュを自分の布団に入れてしまう。
 ドナはせめてもと、ナャに背中を向けて横になった。しかし、シャマシュが寝息を立て始めてすぐ、ナャが体を触ってくる。
「やめて。嫌。今日はしたくない」
 ドナは彼の手をぴしゃりと払った。元々あまり気の進まないことの上に、今晩は故郷のことで頭がいっぱいだ。遠い土地で生き別れたきりの元夫のことが浮かび、ナャの体温に嫌悪すら感じてしまう。
「そんなこと言わないでよ。トパができてからめっきりしてないじゃないか」
 おっとりとして柔らかいナャの声音が、甘ったるく感じる。ナャはドナに後ろから抱きついた。彼に腰を押し付けられ、ドナは苦虫を潰したような顔をする。
「嫌だって言ってるでしょ。シャマシュもトパも、お義母さんだって隣で寝てるのに」
「相変わらず、ドナは固いなあ。みんな、そんなの気にしないよ。母さんだって三人目ができたら喜ぶよ」
 ナャはドナが嫌がるのも構わず、彼女の上にまたがってキスをする。
 この人のこういう所が一番嫌いなんだよな。
 ドナはうんざりした。もう好きにさせようと脱力し、ナャにされるがままになる。彼の頼りなさより、子どもへの甘かしより何より、夜のひとりよがりで強引な所が嫌いだ。
 ドナを抱くことで、ナャの胸の不安は消えていく。故郷がなんだ。ドナが過去に誰を愛していようが、今こうやって抱いているのは自分だ。偉大な神からシャマシュを授かり、トパもこさえて育てているのだって自分だ。
「……かーちゃん」
 床板のきしむ音の中、不意にシャマシュの声が響いた。ドナはビクッとし、慌ててナャを自分から引き剥がすと、彼が散らかした服を引っ掴んで裸の体を隠した。
「なにしてるの?」
 シャマシュは祖母の横で、ぼんやりと両親を見ている。祖母は黙ったまま、邪魔をしちゃいけないと言うように腕でシャマシュをこちらに引き寄せた。
「ばーちゃん何ぃ! ねー、かーちゃんととーちゃんなにしてるの?」
「夫婦だから特別に仲良ししてるんだよ。もう寝な!」
 わめく孫息子を早口で叱りつけ、祖母はまた寝たふりをする。ドナは真っ赤になった。
「シャマシュ、起こしてごめんね」
 腰巻を巻き直し、ナャはシャマシュの傍に寄る。優しく息子の頭を撫でてやる。
「とーちゃんとかーちゃんは夫婦だから、いっぱいぎゅーって抱き合ってたんだ」
 恥ずかしげもなく説明をする。
「シャマシュが物のわかる頃にはもうトパがいたから、見るのは初めてだよね。夫婦はこうやって、大好きだよって伝え合うんだ。シャマシュも大人になって、お嫁さんにしたいって思える子が見つかったするだろうけど、それまではしちゃだめだよ。子どもができるとか、また今度ちゃんと教えてあげるからね」
「ふうん」
 よくわからないままシャマシュが頷く。
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