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本音

違うから

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 駐輪場に宇野の自転車を見つけると、勝手にサドルを掴む。足を上げて、荷台にまたがった。
「二ケツすんの?」
「たっちゃん待たせちゃうじゃん」
すると、宇野はちょっと頭をかく。
「そういうの……男っぽくて嫌だ。ごめん」
遠慮がちにつぶやく。あ、と思った。荷台を降りて、サドルに乗る。
「これならいい?」
「女子の後ろに乗ってるの人に見られるの嫌だよ。歩いて行こう」
 宇野が申し訳なさそうな顔をする。そうか、たっちゃんとは考え方が違うんだ。あたしは自転車を降りる。
「あたしたちみんな女の子だけど、みんな違うね」
 海に向かって歩きながら、あたしはそうつぶやく。宇野はきょとんとして、それから少し照れたように顔をそらした。
「俺のこと、女の子だって言ってくれるんだ」
「だって心がそうなんでしょ? だったらそうだよ」
たっちゃんを女の子だと心から思えた今だから、自然とそう思える。
「距離感って大事だね」
お父さんの言葉を思い出す。あの時、私に一番必要な言葉だった。たっちゃんに「私」を返した今ならわかる。あたしはたっちゃんの人生を自分のものにしようとしてた。たっちゃんは自分の人生をあたしのものにしようとしてた。宇野も、きっと。わかった気になって、わかってもらった気になって。
「あたしたちはそれぞれ違ってるから」
 そう言うと、宇野は小さく「そうだな」と答えてくれた。
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