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私を追放し新しい聖女を寵愛する王は…彼女や国と共に、滅びゆく運命を迎えました─。

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「お前が居ないと、あの国は終わりだ…どうか戻って来てくれ─!」

 そう言って頭を下げるのは…私が以前住んで居た国の王だ。

「彼女は…あなたが愛した、あの光の聖女はどうしたんです?」
 
「あいつは…もうこの世界に居ない!光と共に滅んだんだ─!」

※※※

 ある日…謎の光と共に、城に一人の美しい娘が現れた。

 するとそれを見た王は…いたく感激し、すっかりその娘の虜となった。

「彼女は、まさに光の聖女だ…。彼女が現れた以上、お前はもう用無しだ。」

 不思議な光と共に、異世界より現れるという、あの…?
 でも、私が夢の中で受けたご神託は─。

「これからは、彼女がこの国を守ってくれるそうだ。」

「本当に生まれ変わって来れるなんて…!ああ、あなたが前の聖女ね?後の事は、この私に任せておいて!」

 この子…確かに生まれ変わりと言ったわ。
 きっと…こんな子でも、慈悲を与えられたのね─。

「王様…彼女は、確かに不思議な存在ですが…光の聖女かと言われると─」

「ただの聖女風情が、一々文句を付けるな!いいから、もうお前は引っ込んでいろ!」

「ですが─」

「王の俺に口答えするなら、もう婚約破棄する…!俺にふさわしいのは、この光の聖女の方だ─。」
 
 ところが…それからだった、国に異変が起き始めたのは─。
 
 自然災害に見舞われ作物は不作となり、謎の疫病が流行ったりと…国内で、よくない事が次々と起こった。

「どうしてよ…私、ちゃんと祈ってるのに─!」

「そうカリカリするな。初めから完璧にできる者などいない…その内、君の祈りも神に通じよう。」

「王様…あなたって、やっぱり優しいのね。私、そんなあなたが好きよ!」

「俺だって…。そうだ…気分を変えて、俺と城の庭でも散歩しようじゃないか。」

「本当?じゃあ、もう今日の祈りは辞めるわ!そうと決まったら、早く行きましょう?」

 何を、悠長な事を…。

 城下の様子を見に行っていた私は、溜息をついて二人を見た。
 あなた達は、疫病が怖いとお城に籠り優雅に暮らして居るから、この危機を身近に感じられないのだろうけれど…このままでは、国の民がさぞや苦労する事になるわ。

「王様…彼女では無理です。どうぞ私を、元の役目に戻して下さい!」

「五月蠅い!お前は、用無しだと言っただろう!もうこの城を出て行け…お前は追放だ─!」

 そう…ならば、どうにでもなってしまいなさい─。

※※※

「その後も、あの国が元に戻る事はありませんでしたね。」

「あぁ…。そのせいで、国の民が次々と城に押し寄せて来て…彼女を取り囲み責めたんだ。すると彼女が…もう私には無理、生まれ変わるんんじゃなかったと言った瞬間、彼女の身体が光り…そのまま消滅してしまったんだ。そして、それっきりだ。」

 彼女、消えてしまったのね。
 あれだけ国を滅茶苦茶にし、消滅するなど…流石、悪しき魂の持ち主ね─。

「彼女の正体は…前世で大罪を犯した、ある悪女だったのです。彼女はそのせいで命を落とし…次に生まれ変わったら、前世で多くの者を傷付けた分だけ多くの人を救えと…そういう約束を天界の神々としたのです。ですが…あなたとの恋に溺れその約束を守らなかった挙句、自分の役目を放棄しようとした。それで、罰としてその存在を消されたのです。」

「だ、だったら、お前が彼女の役目を果たせ…もう一度、俺の元に戻るんだ!」

「そんなの、お断りです!私を要らないと言ったのは、あなたでしょう?今更私を求めても、もう遅いのです。あなたもあの国も…あの聖女同様に、消えて無くなってしまえばいいのです。」

「な、何を言うんだ!聖女の癖に、国の民を見捨てるのか!?」

「あなたは、王なのに何も知らないのね。国の民は、もうとっくにあの国を捨てていますよ?あなたが彼女に夢中になり…そしてその女が消滅したと分かって、すぐにね─。そしてその大半は、この隣国へと移って居ます。」

「何!?」

「そして私は…この隣国を護る、新しい聖女として迎えられる事が決まっているのです。」

「そ、そんな…。」

「そういう事ですので…どうぞお引き取り下さい─。」

※※※

 それから半年もせず、あの国は崩壊…それと同時に、王は病に罹り命を落とす事となった。

 すると不思議な事に…王は死の瞬間、あの聖女同様に跡形もなく消え去ってしまったそうだ。
 きっとそれは、あの女と情を通じた報いだろう。

 あの二人は、魂ごと消滅したんだわ…。
 もう二度と、どこの世界にも生まれ変わる事は出来ないでしょう─。

「君のおかげで、今日も国が平和だ…本当にありがとう。」

「お礼を言うのは、私の方です。あの時、行き場のない私を拾って下さったのは王様、あなたです。私、その時に決めたんです。この先は、あなたやこの国の為に力を使うと─。」

「だったら…力だけじゃなく、君の未来も俺にくれないか?どうかこの先は、俺の妃としてこの国を共に守って行って欲しい。」

「はい…喜んで─!」

 そして、王と聖女の私が結ばれたこの国は…住む者が皆、明るく眩しい笑顔に溢れた国となった。
 
 すると隣国は、その様子から「光の国」と呼ばれるようになり…私こそが本当の光の聖女とされ、その後も国は大いに栄えたのだった─。
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