妹の邪な恋心は、その記憶と共に消え失せました…そのまま姿も消してくれて構いません。

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妹の邪な恋心は、その記憶と共に消え失せました…そのまま姿も消してくれて構いません。

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 私には婚約者が居る。
 そしてその彼とは、もうすぐ結婚式を挙げる事になっている。

 私と彼の仲は上手くいっている。
 ただ一つの問題を除いて─。

「お姉様ばかりずるい、私もお話したかったのに!」

「彼はこの地の領主…色々と忙しいのよ。」

「…今度彼が来たら、ちゃんと私も呼んでよね!」

 妹は私を睨みつけ、去って行った。

 姉の婚約者に横恋慕し、私に嫉妬して…最近のあの子の態度は、ますます酷くなっている。
 何か、おかしな事をやらかさないといいんだけど─。

※※※

 絶対、あの人と結婚なんて許さないんだから…!
 私の方が彼を先に好きになったのに…何より私の方が若いし可愛いのに、なのにお姉様とだなんて…。

 何としても、お姉様から彼を奪ってやる。

 私には、ある秘策がある。
 それを今度、彼が来た時に実行するわ!

 もうすぐ彼の誕生日…お姉様の事だ、きっと彼を招待して何かしらお祝いするはず。
 
 その時に、私は彼にあれを─。

「お誕生日おめでとうございます。あの、私も一緒にお祝いしてもよろしいですか?」

「妹が、どうしてもって聞かなくて…。」

「…構わないよ、せっかくだから君もどうぞ。」

 彼は何も気付いていない、この調子なら計画は成功ね。

 彼は、お姉様の料理を美味しそうに食べている。
 そして二人はおしゃべりに夢中で、私の方など見ても居ない。

 今だわ─。

 私は、お姉様の作った料理にある魔法薬を混ぜた。

 別にこれは、体に悪い物じゃないのよ?
 ただ─。

「こちらの料理、そこからは取りにくいでしょう?私がよそいましたので、さぁ…どうぞ?」

「わざわざありがとう、じゃあ頂こうかな。」

 よし、上手くいった!
 それには、お姉様の事だけを忘れてしまう忘却の魔法薬が仕込んであるの。
 
 彼がお姉様の事を忘れた瞬間、私が彼の心に取り入ってやるんだから…!
 
 彼は私から受け取った皿に盛られた料理を、何の迷いもなく口に運んだ。

「…うん、美味しい。君は本当に料理が上手だな。」

「ウフフ、ありがとうございます。」

 …え?
 な、何でお姉さまの事を褒めてるの?

 それを食べたら、お姉様の事などすっかり忘れてしまうはずじゃ…!?

※※※

 混乱している私に、彼が声をかけて来た。 

「どうぞ。君は、甘い物が好きだろう?」

「え、えぇ。」

 彼が差し出したのは、私が大好きなケーキだった。

 動揺しているのを悟られてはいけない。
 彼にも、お姉様にも怪しまれてしまう。

 私はなるべく自然な態度でそれを受け取り、口に入れた。

 そして、暫く彼の様子を見て居たのだが─。

「あ、れ…?」

「どうしたんだい?」

「体が、痺れて…私、おかしい─」

 私は椅子から転げ落ち、その場に倒れ込んだ。

「やっと効いてきたね、痺れ薬が。全く…好きでもない女に誕生日を祝われて、気分が悪い。卑怯な手を使って男をいいようにしようとする女など、誰が好きになるか。」

「な…んで?魔法薬、は?」

「やっぱり、先程差し出した料理に仕込んでいたのか。俺に用意された料理には、それを無効にする薬草がふんだんに使われて居てね。君の仕込んだ魔法薬は、俺には効果が出なかったようだ。」

「そ…んな。」
 
「君が、怪しげな商人からある魔法薬を買ったと言う情報が入っていてね…。俺は領主だ、そういう怪しい人物の情報は押さえ、対処できるようにしておかないとね。」

「そ、そんな…。お、ねーさま…たす、けて。その机の引き出しに、解毒剤が─」

「お断りよ。それで体が回復したら、また彼と私の仲を引き裂こうとするでしょう?私の見ての通り、彼は私の事が大好きだから…決してあなたの事なんて相手にしないの。あなたには彼の傍より、もっとふさわしい場所があるわ。」

「…え?」

「私が彼に捨てられたら、引き合わせようとしていた人。その人が来てるのよ、あなたを迎えに。」

 まさか…!

 私は今夜、お姉様を奴隷商に売り飛ばすつもりだった。
 その為に、その男に夜になったら迎えに来るように約束を─。

「あなたが食べたケーキは、私が作った特別品よ。それには痺れ薬と、記憶を失う魔法薬がたっぷり入ってる。もうすぐ、あなたは何もかも忘れるわ。私の事、大好きな彼の事も、ね─。」

 その後、妹は奴隷商に連れて行かれた。

 これでもう、邪魔者は居ない。
 私と彼は、やっと安心して幸せになる事ができる─。

※※※

 私は、自分の事が何にも分からない。

 だから私は、ご主人様に尋ねるの。

 私は、どうしてここにいるのと?
 
 それは、お前が俺の奴隷だからと彼は言う。

 そんな彼に抱かれながら…私は必死に、自分の事を思い出そうとする。

 何となく覚えているのは…甘い何かを口にした事。

 そして…私を見て、笑って居る誰か。

 でも…どうしてもそれ以上の事は、思い出せないのだ──。
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