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あなたの愛と引き換えに欲しい物など何もない…愛をくれないなら、もう婚約破棄して─?

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「今若い娘の間で人気のドレスだ。この色なら、地味なお前にも似合う。」

 私に包みを渡すと、彼はすぐに部屋を出て行こうとする。

「少しお話でも─」

「それは無理だ。言っただろう?お前を愛せない代わりに、金でも服でも…何でもやると。だが…時間はやれない。また来るから、次は何が欲しいか言え。」

 私は…私が本当に欲しいのは─。
 でもそれを言っても、きっと彼はくれないもの…。

 私が中々返事を返せないでいると、彼は舌打ちして去って行った─。

※※※

「…それでな、俺が何が欲しいか聞いても答えられないんだ。あの愚図で鈍間な女には、呆れるよ。」

「お姉様は、本当はあなたの事など好きじゃないのよ。好きじゃないから、あなたから何が欲しいか答えられないんじゃない?」

「成程…しかしそれなら、益々腹立たしいな!俺だって…、俺の方があいつをうんと嫌いなんだ。そんな女に嫌われ、馬鹿にされたかと思うと─!」

 俺は、怒りにワナワナと震えた。

 俺の婚約者は無口で地味で…何とも冴えない女だ。
 それでも一応は名家の娘で長女…将来を考え、親の言う通り婚約した。

 でもどうせこの家の娘と婚約するなら、この可愛い妹の方が良かった…。

「あなたの事は、お姉様の代わりに私が沢山愛してあげる。それより、私にもそのドレス買って来てくれた?」

「勿論だよ!」
 
 この妹が、今の俺にとっての本命だ…あいつなど、最早ただのおまけにすぎん。
 婚約者にあげず、その妹ばかりにあげていてはマズいから…ただそれだけで贈っているだけの事だ。

 しかし…毎回二人同時に贈り物をするのは、中々厳しいものがあるな。
 だがあいつと結婚したら、あいつの財産から穴埋めすればいいだけだ。

 むしろ…あいつの財産を丸ごと奪い、この妹と好きに使ってやろう。

 そう、思っていたのに─。

※※※

「婚約破棄したいだと!?」

「私…やはり愛のない婚約は無理です。あなたの愛と引き換えに欲しい物など、私には何もないの。」

「愛など、そんなものにこだわらなくても…もう一度考え直せ、な?」

「あなたが私を愛せないのは、妹を愛してるからでしょう?あなた、私とは別に妹にも贈り物を用意してるでしょう?というか…妹に用意するから、私に用意してたのよね。このメッセージカードを見て気づきました。」

「な、何故妹宛てのカードをお前が持って─」

「あなた…間違えて妹用の贈り物を、私に贈ったのよ。随分豪華な質の良いドレスで、珍しい事もあると思ったら…中からこれが出てきましてね。愛する君には、いつも姉より上質な物を贈る事にしている…そう書かれています。これを見てあなたと妹との関係に気付かない程、私は馬鹿じゃないわ。」

 彼は、真っ青な顔になり震えている。

「ついでだから、もう一つ教えてあげる。妹はあなたから贈られた物など、一切身に付けていないの。」

「…え?」

「あの子には、本命の男が居てね…その男がある事業をやってて、その資金が必要なの。だから妹は、あなたから貰った物をそのまま店に持ち込み、金に換えている。それに気づかず、あなたは妹の偽りの愛に騙されせっせと貢ぎ…本当に愚かね。」

「そ、そんな…。」

「私を引き留めるのは、私と結婚し贈り物に使ったお金を穴埋めする為?あなたの考えてる事はお見通しよ。だって…私はそれ程あなたの事を愛し、あなただけを見つめて来たんですもの。でも、もういい…あなたの偽りの愛など、私は欲しくないから─。」

※※※

 その後、私は彼に慰謝料を請求、今までに贈られた物も全て引き取って貰った。
 あんな物もう見たくもないし、処分するのにも手間だったから良かったわ。
 
 せっかくの良縁を無駄にしてと親に呆れられた彼は、その内家に居辛くなったのか…家督を弟に譲り、この地を去って行った。
 そしてそれきり、行方不明だ。
 
 妹は今回の事で父の怒りを買い、親子の縁を切られ家を追い出された。
 困った妹は本命の彼の家に転がり込もうとしたが…こんな情けない事をして俺に恥をかかせるなと彼に拒絶され、捨てられてしまった。
 その後は悪い男にでも引っかかり、どこぞに売り飛ばされたと聞くが…真相は分からない。

 新しい婚約者が決まり、その方を迎える準備に忙しい私には、二人がどうなろうがもう関係のない事よ─。
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