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妹のおかげで、婚約者の恐ろしい本性を知る事が出来たので…私は彼とお別れします─。

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「俺があいつと婚約したのは…あいつの金が目当てだ─。」

 そう言って、醜い笑みを浮かべる婚約者。

 あなたは…私を愛していなかったのね。

 まさか、そんな事実を知る事になるとは─。
 
「あいつは真面目でつまらない女だ。だが…相当金を貯め込んでいるようだから、利用価値は十分ある。その金で、俺と君は遊んで暮らすんだ。いつか、きっとな─。」

 そう言って、婚約者は私にある者を見せると…私を抱き締めた。

「この前言ってた、例の物だ。これさえあれば、あいつは─。」

 そう…あなたとこの子は、そういう関係だったのね。

 それに、これで私を─。

 私の目に、ジワリと涙が浮かんだ。

「おいおい、泣く程嬉しいのか…?君は、本当に可愛い女だな─。」

 もうすぐ、あなたの誕生日。
 プレゼントを贈りたいが、何を贈ったら彼が喜ぶのか分からなくて…それならばと、私は直接本人に聞く事にした。
 
 でも私の姿で聞けば、彼を驚かせる事が出来ないと思って…私は、自身の妹の姿を借りる事にしたのだ。

 というのも、私には魔力があって…特に、変化魔法が得意だったから─。

 そして、どこからどう見ても妹そっくりになった私は、彼に何が欲しいかを聞いたら…こんな事になってしまったのだ。

『そうだな…あいつには、高い物を強請るとするか。あいつは、金を沢山持って居るからな。それが無きゃ、誰があんな地味で大人しくつまらない女と婚約するか。俺があいつと婚約したのは…あいつの金が目当てだ─。』

 妹のおかげで、婚約者の本性が分かった。
 こんな男とは…もう婚約破棄するわ─。

※※※

「婚約破棄したいって…一体、どういう事だ!?」

「だって…あなたと一緒に居ても、私は愛されないどころか…その内、殺されてしまうでしょう?」

「な、何を言って─!?」

 私の言葉に、彼はサッと顔色を変えた。

 そして私は、鞄からある物を取り出し…それを彼に突き付けた。

「この前、俺がお前の妹に預けた─。な、何でそれをお前が!?」

「これをある人に見せたら…大変危険な物だと、確定しました。」

 これは、ある花の種だった。

 大変強い毒性を持った花で…その花の花粉を吸うと呼吸困難を起こしたり、体に酷い湿疹が出て…やがてそのまま死んでしまうという、それは恐ろしい物だった。
 故に、この国ではその花を育てる事は禁じられている。 

 だから話には聞いて居ても、実際にはその花や種を見た事が無い人が殆どだった。

「…だから、これを花好きのあいつに育てさせよう。何も知らないあいつは、婚約者からの贈り物だからと、一生懸命育てるだろう。そして、そのまま毒で…。そうなったら、その植物を燃やしてしまえばいい。証拠は、何も残らない─。そう、あなたは提案しましたね?」

「あいつ…俺を裏切り、お前にバラしたのか!?」

「違うわ…。あの時あなたが話したのは…魔法で妹に変化した、私自身だったの。それで、私はこの種を預かり…これが何かを調べて貰ったの。」

「そ、そんな…。」

 彼は、私に全てを知られた事を知ると真っ青になり、その場に崩れ落ちた─。

「妹は私の追及に、あなたとの関係や、今後の計画について何もかも話してくれたわ。今頃は憲兵に捕らえられ、牢に送られている所でしょう。そして、もうすぐあなたも─。」

「た、頼む…許してくれ!ほんの出来心だったんだ!これからは、心を入れ替えお前だけを愛すから─!」

「いいえ、許しません。私の持つお金だけでなく、命まで奪おうとしたあなたを、私は絶対に許さない!あなたは、本当は妹と一緒になりたかったんでしょう?だったら…この先ずっと一緒に居られるわよ。ただしそれは、牢の中だけれどね─。」

※※※

 こうして、婚約者は駆けつけた憲兵によって捕らえられ、妹と同じく牢へと送られて行った。

 私は証拠品として、あの種を提出する事になり…命の危機は去ったのだった。

「…助けてくれて、本当にありがとう。」

 お礼を伝えたのは、私の幼馴染だった。

 彼は、いつものように自宅の庭を弄って居て…その手を止めると、立ち上がり私を見た。

「…君の役に立てたなら、俺はそれで─。むしろ、いつも助けて貰っていたのは俺の方だ。男の癖に花が好きで。いつも土で汚れていて…。そんな俺を見ると、あの男はいつも嘲笑い、馬鹿にして来た。それを、いつも君だけが庇い、慰めてくれて…。俺は、それがどれだけ嬉しかったか─。だからこそ、あの男のやろうとしている事が許せなかった。」

 そして彼は、私に一輪の花を差し出した。

「これは、幸福草と言って…幸せを呼ぶ花だ。君には、あんな男の事は早く忘れ…幸せになって貰いたいと思って居る。…叶うなら、俺が君を幸せにしたいが…こんな俺では、役不足だろうか?」

 彼は、そう言って頬を赤くし、俯いてしまったが…未だに、その花は私に差し出されたままだ。

 彼は昔から恥ずかしがり屋で…だけど、誠実で優しい人だ。

 私が花を好きになったのも、この彼が居たからで─。

 私は、その花に手を伸ばし…そして、それを受け取った。

「私がこの花が一番好きな事…あなたは、覚えてくれていたのね。あなたは今この瞬間、私を幸せにしてくれた。そして…そんな優しいあなたを、私は幸せにしたいと思った。これからは、二人で幸せになりましょう?」

 私の言葉に、彼は顔を上げ…そして、ニコリと幸せそうに微笑んだのだった─。
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