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手料理出したら、メシマズ認定。婚約破棄になりました。

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「こんなマズいめし、食えるか!」
 
 そう言って彼は、テーブルの上にあった料理りょうりをぶちまけた。

 あーあ、絨毯じゅうたんがベタベタ。

 まぁ、彼の部屋だから、いいけど。

「お前、こんな料理下手りょうりへただったのか!?今までのは、買ったやつり付けてたのかよ…。これじゃあ、いいおよめさんにはなれないな。」

「そうね…。」

ひらなおりかよ。お前みたいな女とは、もう婚約破棄こんやくはきだ!こんな料理、毎日食べられるか。」

「そう…そんなにマズいんだ。ウフフ、私もそう思った。」

「お前、知ってて出したのか!?」

「ねぇ…その料理、ちょっとした秘密ひみつがあるんだ。」

「何だよ…まさか、どくでも入れたとか?」

あいがね…たっぷりの愛がまってるの。」

※※※

『だから、彼が好きなのは私なんです。』

『…え?』

『彼、言ってましたよ。女はやっぱり若い子にかぎるって。抱いた時の感触かんしょくちがうって、彼、私をめてくれました。』

 私はがして、思わず彼女かのじょから顔をそむけた─。

※※※

「何だそれ。愛がいくら詰まってたって、マズけりゃ意味いみないだろ。」

「…ところでさ、あなた浮気うわきしてるよね。」

「いや、俺は…。」

うそついても無駄、むだ。これ、聞いて頂戴ちょうだい。」

 私は、彼女との会話かいわ録音ろくおんした物を聞かせた。

「そんなに、若い子の身体からだが良かったんだ。ごめんね、気が付かなくて。それで、あの子と付き合うんでしょ?私とは婚約破棄したんだし、良かったじゃない。」

「…おこって無いのかよ。」

仕方しかた無いでしょ…年齢ねんれいは、どうしたってあの子には勝てないんだもの。」

「話の分かる女だな。お前、メシマズだけど性格せいかくは良いよな。」

 そう言って彼は、馬鹿ばかにしたようにゲラゲラと笑った。

「これで明日から、あいつを堂々どうどうと家に呼べるよ。」

「…どうぞ、お幸せに。」

 私は、彼の部屋をあとにした。

 あの料理には、ちょっとした秘密ひみつがある。
 私は、彼に本当のことを言わなかった。

 彼女との会話には、まだ続きがあった。

※※※

『あなたのこと、おばさんくさいって言ってました。特に、あなたの作るご飯。何とかのつけとか、煮物にものとか…おばあちゃんの料理みたいだって。可哀かわいそうよね、そんなもの食べさせられて。』

『それで、、なの?』

『はい。今日の夕ご飯は、コレ、出してあげて下さい。せっかく頑張がんばって作ったんだから、食べてもらわないと!それで、彼が美味おいしいって言ってくれたら…私に彼をくださいね。』

 彼女が私に手渡てわたした物は、さおな色をした生臭なまぐさい何かだった。

 あなたののぞどおり、ちゃんと出してあげたわよ。

 残念ざんねんながら、美味しいとは言わなかったけどね。
 でもあんな男、あんたにくれてやるわ─。

 その翌日よくじつだった。
 
 彼の家の前を通りかかった時、救急車きゅうきゅうしゃが止まっているのに気づいた。

 ちょうどだれかがマンションから運び出され、それに乗せられるところだった。

 その人は、彼だった。
 彼の顔色は、昨日彼女が作った料理と同じ、真っ青な色をしていた。

 私は、それを横目よこめで見送った。

 あーあ、せっかく頑張って作ったんだから、ちゃんと全部ぜんぶ食べてあげなさいよ。
 …私、あの子に彼のまであげちゃったかしら?
 
 まぁ、どうでもいいか─。
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