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私を捨て初恋の相手と幸せになろうとした彼は…その後、行方知れずとなってしまいました。

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 私は婚約者から、突然の別れを告げられた。

 別れの理由は、初恋の人と結ばれたいからだそうだ─。

「まさか、その彼女と言うのは─」

「この前、町に出た時にお前も会っただろう?彼女は今まで隣国に居たが、最近この地へ戻って来たらしい。あれは、まさに運命の再会だったんだ…。神が、俺達を再び巡り合わせてくれたに違いない!」

 そう言って、目を輝かせる婚約者。

「そんな急に…私は、あなたを大切に想って─」

「この際だからハッキリ言うが…元々お前との婚約は、家同士の約束があったから。俺自身は、お前の事など全く愛していない。俺の心は…昔も今も、彼女を求めているんだ!大体…あの美しい彼女を前にしたら、お前のような地味女は霞んでしまう。お前に、彼女ほどの価値があるとは思えない!」

 な…何て、失礼な─!
 ここまで言われて、もう彼を心配してあげる義理もないか─。

「分かりました…婚約破棄を、受け入れます。」

「それでいい。俺は、早速彼女に気持ちを伝える事にしよう。お前も早く新しい男を見つけ、幸せになる事だな─!」

 そう言って、婚約者はニヤリと笑みを浮かべ…私に背を向け去って行った─。

※※※

 ところが…それから一ヶ月もしない内に、彼が再び私の元を訪ねて来た─。

「頼む…俺とやり直してくれ!」

「…何です、急に。あなたには、あの初恋の相手が居るじゃないですか。」

「それが…俺は知らなかったんだ、彼女が家を出ていた訳を─。まさか、この地で泥棒騒ぎを起こし、逃げ出した女だった何て─!」

 やはり、彼は知らなかったのね。

 まぁ、無理もないわ…。
 あそこは女しか居ない学園だったし…あの女の父親が、金と権力に物を言わせ、彼女の悪事を隠してしまったのだから─。

 あの女は、学園時代…それはもう、悪事の限りを働いた。

 気に入らない女生徒が居れば、すぐに虐め金品を要求し…おまけにそれだけでは飽き足らず、他の生徒の金品を盗み、奪い取ってしまう事もあった。

 私だって…鞄に入れていたお金を、全て彼女に抜き取られてしまったわ。

 なのに彼女ったら、私にした事をすっかり忘れ…一緒に居た彼に声をかけて来るんですもの。
 あの時は、本当に驚いたわよ─。

 それで、ついに彼女は退学処分を受け…悪い噂がこの地に全体に広がる前に、隣国の親戚の元へ送られる事になったのだ。

「…ところが彼女は、その隣国でも盗みを働き…今や、お尋ね者になってしまって居たらしいんだ!そうとは知らず、俺は彼女を自分の屋敷に置いてしまった。するとある日、憲兵が屋敷に押しかけて来て…彼女は連れて行かれ、今は牢の中だ。そしたら俺は、彼女を匿ったとして同じく牢に入れられる事になったんだが…父親に保釈金を払って貰い、どうにか難を逃れた。」

「あら、良かったじゃないですか。」

「ちっとも良くない!父はそんな俺に、お前には呆れた…もう、この家を継がせる事は出来ないと言い…親子の縁を切った挙句、俺を家から追放してしまったんだ。だから俺は、どこにも行き場が無くて、それで─」

「それで、私と復縁をしたいと…。そんなの、お断りです。だって私…もう他の方との婚約が、決まりましたから。」

「な、何!?」

「そのお相手とは、少し前に再会したんですが…実は、私の初恋の相手なんです。あなたに婚約破棄されたおかげで、私は初恋の人と結ばれました。きっと神様が、私と彼を結び付けてくれたんです。あなたが言ってた様に、運命ってあるんですね。そういう事ですので…あなたとの復縁は、お断りさせて頂きます。」

「そ、そんなぁ…。」

※※※

 その後彼は、傷心のままこの領地から行方を眩ませた。
 泥棒女を匿った男、愛した愚か者として余りに有名となり…とてもこの地に居られなくなった事が原因の様だ。

 初恋の相手と結ばれるどころか、離れ離れになった上に、自身まで破滅してしまう事になるなんて…きっと彼は、夢にも思って居なかったでしょうね。

 まぁ…今の私には、もう関係のない事よね─。

 私は、自分の指に光る婚約指輪を眺め…愚かなあの男に、心の中で別れを告げた─。
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