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クローゼットから出てきたら、婚約者が違う人になってた。

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 今、何日なんにちかしら?

 今は朝?
 それとも夜?

 全く、分からない。

 今回は、すごく長いわ。
 いくらなんでも、私のことわすれてないとは思うけど…。

 ため息をついた時だった。

 私の視界しかいが、突如とつじょまぶしい光に包まれた─。

※※※

「ニーナ、来い!」

「ハンネス様、痛いです。そんなに引っ張らないで!」

 ああ…また私、失敗しっぱいしてしまったのね。
 
 今日は、何かしら。

 一昨日おとついは湯の張った浴槽よくそうに、何度も顔を付けられた。
 昨日きのう廊下ろうかに、ずっと立たされた。

 今日は…?

「お前は、ここに入っていろ。俺が良いと言うまで、出てくるんじゃないぞ!」

 今日は、クローゼットか。

 私は、その中に入りうずくまった。

 真っ暗で静かね…まるで、棺桶かんおけの中みたい。

 これじゃあ私、生きてるのか死んでるのか、分からないわね。

 ハンネス様は、私を愛してくれている。
 
 でも、その愛は、とても重い。
 私はその愛に、つぶされようとしている。

 そうしてそんな状態じょうたいで何日か過ごしていた私に、ついに光が差したのだった─。

※※※

「ニーナ!こんな所に1人にしてごめんよ。すぐ、出してあげる。ああ、こんなに冷えて!すぐにお風呂に行こう。立てるかい?」

 一体、どういうことなの、これは…。

 ハンネス様は、こんなこと言わない。
 こんな、私の体調を気遣きづかうようなことは。

「俺の愛が分かっただろう?…おい、返事へんじは。」

 ばつが終わると、いつもそう言って私に愛の確認かくにんをしてきたのに。

 姿・顔はハンネス様とうり2つ。
 でも、中身は別人だわ。

 私は、バスルームの中で、思わず笑い声を上げてしまった。
 
 ああ…こんなに笑ったのはいつ振りかしら。
 シャワーの音で、私の声はかき消されるわ。
 何も、遠慮えんりょすることは無い。

 やっと…げれられる。
 逃げたくても、逃げられなかったのに。
 婚約破棄こんやくはきしたくても、できなかったのに。

 そうよ…ちょうど婚約破棄したかったし、私はとてもうれしいわ。
 今の気分は、最高に幸せ。

 あの人の正体が誰だか知らないけど、そんなことはどうでもいい。

 あの人が、私のハンネス様よ。

※※※

 …彼女が笑っている。

 彼女の笑い声を聞いたのは、いつ振りだろう。

 あの男と付き合うようになってから、彼女の笑顔は減っていった。
 そしていつしか、彼女は学園を休むようになった。

 俺は彼女が、あの男に監禁かんきんされているのだと思った。

 彼女の自由をうばい、傷つけ、支配しはいするあの男が許せなかった。

 だから俺は、ある医者の力を借りて、彼になった。

 俺が現れた時の、あの男の顔。
 目を丸くして口をぽかんと開けて…間抜まぬけなつらをしていたな。

 でも、もうあの顔を2度と見ることはない。

 あの男は薬をがせ眠らせて、秘密ひみつの部屋に閉じ込めた。

 ニーナをいたぶる為にあの男が作った、秘密の部屋に。

 部屋の存在はあの男と、俺しか知らない。
 そして俺しか、あの部屋のかぎを持っていない。

 だからあの男は、もうあそこから出ることは出来ない…一生いっしょうね。

※※※

 本当の婚約者は、どこに行ったのだろう。

 気にならないのかって?
 
 そんなの、どうでもいいわ。
 
 あの人が、本当のハンネス様なのだから─。
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