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妹に一目惚れし、私に婚約破棄を告げた婚約者ですが…その恋があなたの不幸の始まりでした。

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「お前の妹と出会ってしまったからには、もうお前とは付き合えない…婚約破棄してくれ。」

 その言葉に、私はやはりこうなったかと思った。

「元々、お前との婚約は家同士の約束。故に俺は、お前の事など全く愛していない。俺の心は、もう完全に彼女のものだ。」

 この前の妹の誕生日パーティー。
 そこで彼は、初めて私の妹に会った。

 そして妹を見た時の彼の顔は…まるで、雷に打たれたかのような…そんな強い衝撃を受けた顔だった。
 あれは、まさに一目惚れというのだろう。

「彼女、最近この家へ戻って来たんだってな?そうするとこれは、きっと運命の出会いだ。神が、俺たちを結び付けようとしてくれてるんだ。」

 そしてうっとりと頬を染め、天を仰ぐ婚約者─。
 その目は、もう私を一切見ていなかった。

 今まで、彼の浮気心には散々悩まされて来たけど…今度は、よりにもよってあの子を選ぶなんて…。

 あの日あなたが家にやってきた時、あの子には心奪われぬよう、そう忠告したはずですよ?
 なのに、何の意味もなかったという事なのね─。

「分かりました。あなたがそこまで言うなら、婚約破棄を受け入れます。」

「よし!これで俺は、彼女に存分に愛を伝える事が出来る!せいぜいお前も、幸せになる事だな。」

 そう言って、彼は私から去って行った。

 その一目惚れが、不幸の始まりとも知らずに─。

※※※

 それから一ヶ月程経った頃…元婚約者の彼が、私を訪ねて来た。

「…頼む、俺とやり直してくれ!」

「何です今更…。あなたは、妹と無事結ばれたのではなかったのですか?」

「結ばれたは結ばれたが…。俺は、漸く知ったんだ。彼女が、ここに戻って来た訳を!まさか彼女が、男遊びの末に借金を重ね、それ踏み倒し逃げていたなんて!」

 そう、彼の言う通りだ。

 妹…正式には義妹、それも捨て子の赤の他人なんだけど、あの子は男癖と借金癖が酷くて…私や両親は、それに酷く悩まされていた。

 そんな彼女は、男たちから金を借り…返しきれずに隣の領地からこの家へ戻って来て、身を潜めていたのだ
 
 でももう時効だと思ったのか、自身の誕生日パーティーなるものを開催し、そこに彼がやって来て…そして彼女に一目惚れをしたという訳だ。

 いずれにせよ、彼と結ばれる為にあの子がこの家に戻って来たなどと、そんなロマンチックな話ではないのよ。

「それで俺は、彼女がそんな女だと知らず、金を貸してしまったんだ!俺との将来を真剣に考える為に、過去を清算する金が必要だって言うから…。俺は喜んで、今あるお金を全て渡したんだ。ところが、急に彼女が行方知れずになってしまって…!」

「…きっと今頃は、あなたから貰ったお金で別の領地へ逃げ延びてるのでは?あの子とこの家はもう縁を切ってしまいましたし、元は血の繋がりも無い子ですから…もう二度と、ここには帰って来ないでしょう。」

「そんな…。あの金は、俺の全財産だったんだ…。このままでは、俺は破産してしまう。だから、俺ともう一度婚約し、資金援助を─」

「お断りです。私、もう他の方との婚約が決まりましたから。」

「な、何!?」

「その方…実は、私が一目惚れした相手なんです。あなたに婚約破棄されたおかげで、私はそんな素敵な方と出会い、そして結ばれる事が出来たのよ。きっと神様が、私と彼を結び付けてくれたんですね。あなたが言ってたように、運命ってあるものなんですねぇ。そういう事ですので…あなたとの復縁はありません。」

 私の言葉に、彼はガクリとその場に崩れ落ちた─。

※※※

 その後彼は破産して、この領地から行方を眩ませた。
 彼は生活苦の為に色々な人からお金を借りたが、返す事ができなくなり逃げたらしい。

 そんな所も、妹…否、あの女とそっくりね。
 そう思うと、本当の所は運命で結ばれていたんじゃないかしら…あの男と彼女は。

 もしかして、逃げた先で二人は偶然出会い、修羅場になってたりして…。

 いずれにせよ、もう私には関係のない事か。

 そして私は、二人の事などもう頭に片隅に追いやると…自分の指に光る婚約指輪をウットリと眺め、満面の笑みを浮かべた─。
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