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第7話 入社1年、職場内の人間関係。

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 私が入社して1年が経った。
 そのころから、職場内の人間関係に変化が見られた。

 奥さんと先生の関係が、あまり良いものではなくなったのだ。
 先生の患者さんへの対応が、この病院の理想とするものではないことに、奥さんが不満を募らせていたのだ。
 奥さんは、ただ患者さんの症状を診るのではなく、その心にも寄り添うべきである。
 病院とは言うが、ここをサロンのようなものにしたいと常々言っていた。

 それに対して先生は、そんな診療の仕方では、患者をさばききれない。
 患者を待たせるようになっては、患者が減ってしまう。
 すると経営の悪化にもなるし、そうなれば自分のボーナス減給げんきゅうにも繋がる、
 だから奥さんの言う通りにはできない、と言い不満を募らせていた。

 私たち職員は、どちらの言い分も理解はできたが、どちらが正しい考えだとは言えなかった。
 2人の関係がこれ以上悪化しなければいいのだが…そう心配な日々を送っていた。

 そしてコンサルタントであるはずのあの人は、そんな2人の言い合いを見ても何もしなかった。
 こんな時に、あの人は何をしているんだろう。
 どうして2人の関係が良くなるように助け舟を出さないのか、それが不思議だった。

 ついに奥さんと先生は、お互いの意見に耳を貸すことは無くなり、業務中も会話は最低限しかしない、という仲になってしまった。
 そして思う所があってもそれを一切相手には伝えず、あの人にしか話さないようになった。
 するとあの人は、自分が2人の意見を聞きそれそれに助言をするから、今後は自分の言った通りの行動するように、というルールを2人に定めた。

 そのことを知った私は、何だかこの病院があの人のお城みたいになってしまったな、と思った。
 元々は奥さんが経営する病院なのに…今では奥さんよりも、強い権力を持ってしまった気がする…。

 今から思えば、この時点であの病院は、あの人に乗っ取られたのだと思う。
 乗っ取りが完了すれば、自分が自由にふるまえる。
 自由に人を動かすことができれば…お金さえも自由にできるのだ。

 そう、あの人はこの病院の経営を良くするのが目的だったのではない。
 最初からこの病院にあるお金が、目的だったのだ。

 この時の私は、それには全く気付かずに居た-。

※※※

 なぜ、奥さんと先生の仲を取り持たなかったのか。
 今なら、その理由がよく分かる。

 世間をにぎわせた数々の洗脳事件を見れば、その謎は解けた。
 どんな事件にも言えることだが、首謀者が仲間内の信頼関係を崩し、互いを敵対させる環境を上手く作り上げる。
 そして仲間同士争う内に、次第にお互いがお互いのスパイのような働きをするようになる。
 スパイが首謀者に仲間の言動を密告し、それを受けて首謀者がその者を裁いたり、自分にとって都合のいいルールや環境を作り上げてしまう。
 例えそこに疑問や意見を自分が持っていたとしても、それは口にできない。
 何故ならうっかり口を滑らせたことを仲間が聞いていて、それを首謀者に告げ口されれば、自分の身が危うくなるからだ。
 こうして首謀者に絶対服従の世界が出来上がってしまうのだ。
 あの病院も私は働き始めて1年で、まさにそんな世界になってしまった。

 約1年をかけて、あの人はあの病院の乗っ取りに成功したのだ-。
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