話す事の出来ない私は、婚約者に浮気され放題でしたが…別れを決めた今、もう黙ってません!

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話す事の出来ない私は、婚約者に浮気され放題でしたが…別れを決めた今、もう黙ってません!

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「話す事の出来ないお前と一緒に居ても、つまらない。だから俺は、他の女と楽しむんだ。それのどこが悪い!」

「…。」

 昔、喉を怪我して以来…私は、言葉を発する事が出来なくなった。

 そんな私を、物静かでいいと言って婚約者にしてくれた彼だが…今では、話せぬ私をこうして馬鹿にし、見下している。

「俺が浮気し放題でも、お前は何も言えない。こういう時、何も反論が出来ないから、俺にとっては都合が良い。だからこれからも、ずっと話せないままで居ろよ!」

 いつか、君と話をしたいと…そう言ってくれたあなたは、もう居ないのね…。
 愛人たちに溺れたあなたの心は、すっかり腐ってしまったみたい─。

 私はもう、そんなあなたの傍に居たくないわ─。

 そんなある日の事─。
 私は町で、偶然ある物を見かけた。
 
 これは…!

 そうだわ…これを使って、最後に彼を少し懲らしめてあげましょう─。

※※※

 その日は、俺の誕生パーティーだった。

 当然、そこには俺の愛人が何人も招待されていた。

 美しい女、可愛い女に囲まれ…今日は最高の一日なりそうだ─!

 すると…部屋の壁に、大きな鏡が掛けられて居るのに気付いた。

 こんな鏡…俺は、買った覚えは─。

 まさか、あの女がこれを─?

 今更、鏡を見てめかし込み、俺に愛されようとしているのか…。
 何て愚かな女だ─。

 俺は、その鏡をまじまじと見た。

 すると、愛人達や他の招待客も、その鏡を覗き込んで来た。

「これは、随分と珍しい鏡ですな。見た所、とても古い物に見えますが…。」

「何だか、ただならぬ力を感じますが…一体、どうされたんです?」

「俺の婚約者は、骨とう品を集めるのが好きですから…それで、今日の俺の誕生日に合わせ、用意してくれたのでしょう。」

 俺とあいつは、表向きには仲の良い事になって居るからな。

 というか…そうしておかないと、あいつの家からの資金援助が貰えなくなってしまうかも知れない。

 そうなったら、俺はもう愛人を囲う事も出来なくなるし、事業が立ち行かなくなる可能性もある。

 幸い、あいつは口が利けないからな…。

 今俺が話した事にも、何も反論する事は出来まい─。

 そう思い、あいつの方を見ると…あの女は、何故か笑みを浮かべていた。

 な、何だ…何がおかしいんだ?

 その時だ─。

 突然、鏡が光り…俺とあいつの姿が映し出された。

『話す事の出来ないお前と一緒に居ても、つまらない。だから俺は、他の女と楽しむんだ。それのどこが悪い!』

「なッ!?」
 
 これは…いつぞやの、俺─!?

『俺が浮気し放題でも、お前は何も言えない。こういう時、何も反論が出来ないから、俺にとっては都合が良い。だからこれからも、ずっと話せないままで居ろよ!』

「や、辞めろ…見ないでくれ─!」

「い、今のは一体…?」

「…婚約者に対し、余りに酷いんじゃ─。」

 それを見た招待客は、俺を冷たい目で見て来て…そして、近くに居た愛人たちは、一斉に会場の外へと逃げて行った。

「こ、これは‥何かの間違いで─!」

『いいえ、全て本当の事でしょう!』

 そこには…鏡に手を当て、俺の方を睨み付けるあいつが居た─。

※※※

「お前…今、話が─」

『私は今、この魔道具の鏡の魔力を借り、言葉を発して居るの。この鏡は、持ち主の真の姿を映し出す。故に…持ち主である私が…日々あなたにどんな事を言われ、どんな態度をされてきたか…何もかも、全て映し出してくれたのよ!』

「そ、そんな…!」

『あなたは、私が浮気を辞めて欲しいと、何度紙に書いて訴えても…それを破り捨て、文句があるなら言葉にしてみろ…そんな事も出来ない出来損ないは、大人しくしていろと…そう罵りましたね?それも、今から映し出してあげる。』

「や、辞めてくれ─!」

 鏡の向こうでは…私から取り上げた紙を破り捨て、醜い笑みを浮かべる彼が映っていた。

 すると…丁度会場に来た私のお父様がそれを見てしまい…彼は、その場で酷く責められた。

 そして、それを見た招待客は…こんな非道で愚かな男の誕生日など祝う価値もないと言って、皆一斉に会場を後にしたのだった。

「お前の様な男に、大事な娘は任せておけん!もう、婚約破棄だ!支援金も打ち切るからな!」

「そ、それだけは勘弁して下さい!お、おい…俺が悪かったよ。だからどうか、俺と別れるのだけはよしてくれ!」

『あなたは…私が何度も頭を下げて浮気をしないでとお願いしても、それを無視したでしょう?なのに、どうして自分のお願いは聞いて貰えると思ってるの?ちょっと、図々しいんじゃありませんか?私は、もうここを出て行きます。この鏡は、戒めとしてこのまま残して行きますね。これ以上、あなたが最低な人間にならない様に─。』

※※※

 その後彼は、あれだけ多く居た愛人達、全員から一斉にフラれてしまった。

 恐らく、彼の事業がもうすぐ上手く行かなくなる事に彼女たちは気付いたからだろう。

 結局のところ、彼自身が愛されていたのではなく…彼の持つお金に、女たちが群がって居ただけの事だったらしい。

 こうして、彼は一人ぼっちになった挙句…やがて事業が傾き始め、ついには破産してしまった。

 そして今では…どこでどうして居るか、全く分からない状態だ─。

 一方、私はというと…ある殿方との、婚約が決まった。

 その方は、魔道具を作る事を仕事にして居て…彼は私に、美しい石を嵌め込んだ指輪を作り、贈って下さった。

「この指輪の石には魔力があるから…これを付ければ、君は話す事が出来るよ。俺は、君の声が聞きたいんだ…。どうか、受け取ってくれないか?」

 私は、コクリと頷いた。

 そして彼は、そんな私の左手を取ると…その薬指に、そっとその指輪を嵌めてくれた。

「…とても似合っているよ。」

「…嬉しい!私、一生大事にするわ。」

「君の声は…そんなに美しかったんだね。これから、いろんな話をしよう。そして…二人の愛を深めて行こう。」

「…えぇ!」

 好きな人に愛を伝えられる事が、こんなにも嬉しい事だった何て…。

 私は、これから過ごす彼との素敵な時間を想い、心を弾ませた─。
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